プラーク~歯石へ
日本歯周病学会専門医の片山です。今回はプラークについてお話させて頂きます。
お口の中が「粘つく」など気になるかたがいますが食べ物のカスが残りだんだんとプラークになっていきます。
歯周病は大きく分けて「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。歯肉炎とは、歯ぐきに炎症が限局している状態のことを言います。一方で歯周炎とは、その名の通り「歯の周りに炎症がある状態」の事を言います。
歯の周りの組織には、歯ぐきや歯自体を支えている顎の骨も含まれます。つまり、歯がグラグラしている状態は、歯を支えている骨が炎症によって吸収されてしまっているために引き起こされ、歯周炎である事が分かります。
歯周病(歯肉炎および歯周炎)の原因
では、歯周病(歯肉炎および歯周炎)の原因は一体何なのか、気になる方も多いと思います。一般的な歯周病の原因となるのは「プラーク」と呼ばれるものです。みなさんは歯の表面についている白くネバついたものを一度は見たことがあると思います。歯医者さんで「汚れがついていますね」と言われたり、赤い液体で染め出して見えるその正体がプラークです。では、そのプラークは何からできているのでしょう?
プラークは、お口の中に存在する細菌と、その細菌が作り出す代謝産物から構成されます。その細菌の中には歯周病の原因となるものや、虫歯の原因となるもの、お口の中に常に存在するものなど、多種にわたる細菌が集まってできています。プラークは歯の表面と付着しており、お口をゆすぐだけでは取り除くことはできません。ですから歯磨きというプラークを物理的に取り除く行為がとても重要になります。
歯磨きを行わない、あるいは歯磨きが上手にできていないとプラークが蓄積していき、それにより歯茎に炎症が起こった状態が歯肉炎です。歯肉炎になると歯茎が腫れ、歯磨きをした時に歯茎からの出血が自覚できるようになってきます。また、歯茎が腫れてしまうと、それに伴って歯と歯茎の間の歯周ポケットも深くなっていきます。
そうすると歯ブラシの先が歯周ポケットの奥まで届かず、より清掃が難しくなっていき、さらに歯茎が腫れ出血する、といった具合に負の連鎖に陥ってしまいます。プラーク中の歯周病原細菌は血液に含まれる鉄分を栄養として用い増殖していくため、出血しやすい歯茎は細菌にとって絶好の環境と言えます。
歯肉炎の状態を放置しておくと…
歯肉炎の状態を放置しておくと、歯周ポケット内に取り残されたプラークが炎症を惹起し、やがて歯周炎になってしまいます。その時に恐ろしいのが虫歯の様な痛みをほとんど伴わずに進行していくことです。歯肉炎の状態であれば、確実な清掃法を歯科医院で教えてもらい、日々実践することで、歯茎の腫れと出血は改善しますが、歯周炎にまで波及した場合、歯科医院での治療を行わなければ症状が改善することは難しくなります。
日々の歯磨きによってプラークの蓄積を防ぐことが虫歯や歯周病を予防する一番の方法です。
~歯石ってなに?~
歯石とは、プラークの蓄積が時間によって石灰化したものの事を言います。歯石はほとんどが無機質であるため、それ自体には病原性は無いといわれています。
しかしながら、歯石の表面はザラザラとしているためプラークが付着しやすく、歯周病を惹起、悪化させる因子として最も一般的なものです。歯石は2種類に分けられ、歯茎よりも上に付着したものを「歯肉縁上歯石(しにくえんじょうしせき)」、歯茎の中に形成されたものを「歯肉縁下歯石(しにくえんかしせき)」と呼びます。
歯肉縁上歯石
歯肉縁上歯石は乳白色を呈しており、唾液中のリンやカルシウムによってプラークが石灰化したもので、約80%が無機質からできています。有機成分としては細菌や唾液中のタンパク質が挙げられます。縁上歯石は唾液中の成分から生成されるため、下顎の前歯や、上顎の奥歯など、口腔内の唾液が放出される部位(唾液腺開口部)にできやすいのが特徴の一つです。
歯肉縁下歯石
歯肉縁下歯石は、歯周ポケット内の滲出液(歯肉溝滲出液)に含まれる成分や血液由来の成分を含むため褐色、あるいは黒色を呈します。縁下歯石は縁上歯石よりもより強固に歯面と付着し、生成される部位も不特定です。また、縁上歯石と違い歯茎の中に作られるので、目で確認することはできず、歯科医院でのレントゲン写真や歯茎の検査によって確認されます。
歯石は歯面への付着も強固なため、プラークとは違い歯磨きでも除去は不可能で、歯科医院における除去が唯一の方法です。歯肉縁上歯石は超音波を用いた機械で比較的簡単に取り除くことは可能ですが、歯肉縁下歯石の除去には通常、超音波の器具と併用して手用の器具を用い、歯周ポケットの深さや付着している歯種によって難易度は変化します。
歯周ポケットが深ければ深いほど、器具の到達には限界がありますし、付着している歯が奥歯であるほど解剖学的にも複雑になっていくからです。歯周ポケットが深い部分に形成されてしまった縁下歯石は、たとえ歯周病専門医であったとしても完璧に取り除くことはできず、歯石の取り残された部分での治癒は阻害されてしまいます。
歯周外科手術も…
そのため、深い歯周ポケットに形成された歯肉縁下歯石を完全に取り除き、組織治癒を促すためには歯周外科手術が必要になってきます。
外科手術では歯茎を剥離し、歯とそれを支える骨を肉眼で確認できるように明示することで、確実な歯石の除去と、感染した組織を取り除くことができます。
また、歯石や感染した組織の除去に加え、失われた骨を再生させる薬剤やウシ由来の骨補填剤などを用いた「歯周組織再生療法」も最近では一般的に行われるようになってきました。
~予防と治療~
プラークの除去はもちろんのこと、プラークが停滞しやすい環境を改善していくことも大切です。
まずは歯科医院で適切な歯磨きの方法を身に着け、定期的な受診により歯石などを取り除くことで、口腔内の環境を整えることが歯周病の予防として重要です。また、歯科医院で歯周炎と診断された方は、歯科医院で適切な治療を受け、できるだけ早期に進行を食い止めることがご自身の歯を保存するうえで大切です。
プラークの除去が最優先
歯周病の治療は、まず原因であるプラークの除去が最優先です。それにより治療の効果も変わってきます。
毎日歯科医院に通うことは現実的には無理ですので、やはり患者さん自身が毎日の歯磨きでプラークの除去を徹底しなければなりません。私たち歯科医師と患者さんの努力があってこそ、歯周病の治療は成功すると言っても過言ではないのです。
皆さま歯周病を防ぐためにもお食事の後の歯ブラシは欠かさずに行いましょう!