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歯周外科治療と歯周組織再生療法について

 更新日:2023/03/27

こんにちは。日本歯周病学会認定医であり、市川市行徳にございます杉澤デンタルクリニック行徳の杉澤幹雄と申します。
歯周病は歯周組織という歯の周りの組織への細菌感染によって歯周組織の破壊が生じてしまう疾患です。症状がなく進行してしまうことが多いため、気が付いた時には重度に歯周病が進行してしまうことも少なくありません。
中等度から重度に進行してしまった歯周病に対する治療において、選択されることがおおい治療が歯周外科治療歯周組織再生療法です。今回はこのテーマについて書いていこうと思います。

 中等度以上に進行した歯周病の状態

【歯周ポケット】

正常な歯周組織において、歯と歯茎の間には溝(1~3mm)が存在します。それを歯肉溝と言います。その溝にプラークが付着し停滞することで、歯肉への細菌感染による炎症が生じその溝が深くなっていきます。それが歯周ポケットです。
歯周ポケットを検査するプロービングという器具をポケットに挿入し、歯肉の辺縁から器具の先端までの距離が歯周ポケットの深さになります。そのポケットの深さにより歯周炎の進行度合いを下記のように診断します。
4~6mmの歯周ポケットを有する - 中等度歯周炎
7mm以上のポケットを有する - 重度歯周炎
歯周炎とは歯周組織すべてに炎症が波及した状態をいいます。歯肉だけに炎症が限局した状態は歯肉炎と言います。この歯肉炎や歯周炎は総称である歯周病に含まれます。一般的に、歯周病は歯肉炎から始まり、歯周炎と進行していきます。

【歯槽骨の吸収程度】

歯の周りに存在し、歯を支える大きな役割を担うのが歯槽骨いいます。歯周炎ではこの歯槽骨の吸収がみられます。この歯槽骨の吸収程度により歯周炎の進行度合いを診断します。歯槽骨は見た目ではわからないため、レントゲンによる検査が必要になります。
30~50%の歯槽骨の吸収が認められる - 中等度歯周炎
51%以上の歯槽骨の吸収が認められる - 重度歯周炎
つまり、歯を支える骨の約1/3の骨が溶けてなくなっていると中等度に歯周病が進行していて、半分以上溶けてなくなっていると重度に歯周病が進行していることになります。
 

 歯周病の治療

歯周病が認められる場合、まずは歯周初期治療を行います。ブラッシングのチェックや歯石を取り除く、虫歯治療、不適合な詰め物や被せ物をやり直す、ぐらつく歯を固定する、など歯周病の原因やそれを助長させる因子を取り除きます。
特に中等度以上に歯周病が進行していると、歯周ポケットの中にも歯石が沈着していることが多いため、歯周ポケットが深く炎症が認められる場合は、歯周ポケットの中の歯根表面にこびりついた歯石を取り除く必要があります。この時は、歯を削ったり、歯茎を切ったりするわけではありませんが、ポケットの中は触るだけで痛みを伴うため、局所麻酔を行います。
歯周初期治療が終了した後に、歯周病の再検査を行い歯周病が良くなっているかどうか評価します。軽度の歯周病では治りが早く、この初期治療で治癒することが多いですが、中等度以上になると初期治療だけでは歯周病が改善できないことがあります。その次に選択する治療方法が歯周外科治療となります。

 歯周外科治療

歯周初期治療を行った後、歯周病の炎症が残った部位に対して、歯周外科治療を行うことがあります。歯周外科治療にはいくつかの方法があり、歯周病の種類や原因、部位、歯周組織の破壊状態などによってどの歯周外科治療を選択するか決定します。代表的な歯周外科治療を下に書いていきます。

〇組織付着療法

組織付着療法は歯周ポケットの中に溜まったプラークや歯石を取り除き、歯肉などが再度キレイになった歯の根の表面に付着し歯周ポケットが浅くなることを目的とします。主に選択されることが多い組織付着療法にはフラップ手術(ウィドマン改良フラップ術)があります。
歯茎を切開し、歯茎を開くことで歯根や歯の周りの骨を直接目で見えるようにすることで、取り残した歯石や感染した軟組織を目で見て取ることが可能になります。キレイになったら歯茎を閉じて縫合することで、歯茎が再び歯根表面に付着します。

〇切除療法

腫れた歯肉を切除することにより、ポケットを減少させることを目的とする歯肉切除法や歯肉を下げることにより大きくポケットを少なくする歯肉弁根尖側移動術などがあります。
歯肉切除術は一般的に降圧剤などの薬物による副作用によって増殖した歯肉を切除することで、ポケットの減少をはかります。歯肉弁根尖側移動術においては、歯肉を切開した後に剥離し、歯根表面の歯石やプラークを取り除き歯肉を下げた位置にて縫合することで、歯周ポケットが大きく減少します。

〇歯周形成手術

・小帯切除術
口唇や頬の粘膜の小帯が歯に近い位置に存在している時に、その小帯の動きによりポケットが深くなる恐れがある場合、その小帯を切除することでポケットが深くなるリスクを減少させます。
・遊離歯肉移植術、歯肉結合組織移植術
歯茎が下がってしまった場合など、その部位に上顎の口蓋から歯肉をとって移植する方法です。審美的な問題より行うこともあれば、歯肉弁根尖側移動術と併用し、歯周病の原因を取り除き、かつ歯周病に今後なるリスクを減らす目的があります。

〇歯周組織再生療法

歯周外科治療において、破壊された歯周組織の再生を期待して行う方法が歯周組織再生療法です。もちろんすべてにおいて、歯周組織の再生が期待できるわけではありません。特に歯を支える歯槽骨の吸収状態により、歯周組織再生療法を選択することになります。歯周組織再生療法は上記に述べたような歯周外科治療と併用することになります。

 歯周組織再生療法

歯周組織再生療法には主に、色々な材料を失ってしまった部位に添加することで歯周組織の再生を期待する方法があります。

〇骨移植術

歯周病によって歯を支える歯槽骨の失った部位に自家骨や他家骨、異種骨、人工骨を添加することで、歯周組織の再生を期待する方法です。
ゴールドスタンダードとして用いられるのは自家骨です。しかし、取ってくる部位も外科手術を行う必要があったり、その量にも限界がある場合があります。
他家骨はその他に手術する必要がなく、供給量も安定し、歯周組織の再生において良好な成績が報告されているが、他の人の骨ということで使用を躊躇する方も少なく、日本においては認可されていません。
異種骨にはウシ焼成骨を利用する方法があります。この方法も世界的に普及していて良好な成績が報告されています。日本でも認可されています。しかし、自家骨や他家骨と違い歯周組織の再生を促進してくれるような有機成分が含まれていないため、単独での適応には限界があります。
人工骨として用いられる材料も、異種骨同様、歯周組織の再生を促進してくれる有機成分が含まれないため、歯槽骨の吸収の状態によっては単独での適応は限界がある場合があります。

〇根面処理

キレイになった歯根表面に歯周組織の再生を促進するための薬剤を塗布することにより、歯周組織の再生を期待します。主に用いられる材料にはエムドゲインやリグロスなどがあります。
歯槽骨の吸収がやや大きい場合には、骨移植と併用することにより歯周組織の再生を期待することがあります。

〇歯周組織再生誘導法(GTR法)

失った骨の部位に遮蔽膜を設置し、歯槽骨を作ることのできない歯肉の上皮や結合組織の侵入を防ぎ、歯槽骨を作る歯根膜の細胞を欠損部に誘導し、歯周組織の再生を期待する方法です。膜にも体に吸収される膜など多くの種類が存在し、骨移植などと併用することもあります。
 

 まとめ

歯周外科治療は中等度以上に進行した歯周病において、歯周病の初期治療では改善されない歯周病の進行を防ぐ治療法です。また、歯周組織再生療法を行うことで、失ってしまった歯周組織の再生が起こることで、歯周病に侵された歯の長期的な保存が期待できます。
しかし、どのような状態でも再生が期待できるわけではなく、その骨の吸収状態によっては、再生療法も見込めず、かつ歯周外科治療を行っても歯の保存が困難な状況もあります。
もし、歯周病が進行してしまった場合は、日本歯周病学会の認定医/専門医の在籍する歯科医院にて精密な検査と十分な相談を行うことをお勧め致します。

この記事の監修歯科医師