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歯周病って薬で治るの?〜抗菌療法〜

 更新日:2023/03/27

こんにちは。メープルデンタルクリニック大久保の剣持正浩(日本歯周病学会認定医)と申します。
このブログを読まれている方には、歯周病により「歯ぐきが腫れた」「歯ぐきが痛い」という理由で、歯科医院で抗生物質を処方され、症状が軽減・改善したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
歯周病とは、歯周病原細菌によって引き起こされる感染症です(ブログ内のそもそも歯周病って何?/歯周病って何?歯周病の進行と分類も見てみてください)。では、細菌が原因というのであれば、抗生物質だけで歯周病は治るのでしょうか?
もちろん、薬だけで治るのであれば、歯科医院にわざわざ足を運ぶ時間もかかりませんし、なによりも患者さんの肉体的・精神的・経済的負担が少なくなるかもしれない非常に素晴らしい治療法かもしれません。でも、抗生物質だけによる治療では歯周病は治りません。
「抗生物質の処方で軽減・改善した」「抗生物質だけでは治らない」この違いは何なのでしょうか?
そこで、今回は、歯周病治療に抗生物質を使用する抗菌療法についてのお話です。

 抗菌療法

歯周病治療における抗菌療法とは、歯周病の検査・診断などを行い、プラークコントロール(適切な歯磨きや補助器具の使用によりプラークの除去)や歯根に付着している歯石や汚れをとるスケーリング・ルートプレーニングなどの歯周病の原因に対する治療のなかで、抗生物質を計画的に使用するものです。しかし、歯周病であれば、必ず抗生物質を使用するものでもありません。軽度の歯周病であれば、抗生物質を併用しなくても従来の治療で十分に効果があります。
 

 抗菌療法だけでは歯周病は治らないの?

冒頭に記載したように、歯周病により「歯ぐきが腫れた」「歯ぐきが痛い」という理由で、歯科医院で抗生物質を処方され、症状が軽減・改善したことがある方はいらっしゃるのではないでしょうか。このような「歯ぐきが腫れた・痛い」などの急性炎症の軽減には抗生物質は有効です。
しかし、歯周病の原因はプラークと呼ばれる細菌の塊です。細菌が原因であれば、もちろん抗生物質は有効なのですが、プラークは細菌の塊ですから、抗生物質が効くのはプラークの表面にいる細菌だけなのです。だから、歯周病の原因である細菌の塊であるプラークや、細菌のすみかになってしまう歯石自体を除去しなければ、歯周病は治りません。
では、抗菌療法の目的ってなんなのでしょうか?
 

 抗菌療法の目的

歯ぐきが腫れた・痛いなどの急性炎症の軽減

応急処置として抗菌薬の内服や歯周ポケット内投を行います。しかし、これは急性症状の軽減が目的になりますから、その後に必ず歯周治療を行うことが前提になります。

スケーリング・ルートプレーニング(SRP)の治療効果をあげること

スケーリング:歯や歯根の表面に付着したプラークや歯石などの除去
ルートプレーニング:歯石や細菌などが入り込んで凸凹になったセメント質や象牙質を除去して、歯根表面をツルツルにする処置
 
抗生物質の内服や歯周ポケット内投与は単独では行いません。基本的に抗生物質を使用する時は、良好なプラークコントロールが確立した後のスケーリング・ルートプレーニング(SRP)と一緒に使用するか、SRP直後に使用します。
 

菌血症(細菌が血液中に存在する状態)の予防

 
歯周治療は、一時的に細菌が血液中に流出する菌血症が起きる可能性があるため、リスクが非常に高い細菌性心内膜炎、大動脈弁膜症、チアノーゼ性先天性心疾患、人工弁・シャント術を受けられた方は、抗生物質の術前投与が必要です。
 

歯周治療後の感染を防止

 
以上の4項目が主な目的になりますが、抗生物質の乱用や長期投与は耐性菌の出現や、通常であれば増殖することのない細菌が異常に増殖する菌交代現象を引き起こすので注意が必要です。
 
基本的に歯周治療において、歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)内に抗生物質を使用する場合は、1〜2週間に1回、抗生物質の内服の場合は3〜7日が目安となっています。
 

 細菌検査の必要性

歯周病の細菌に効果がある抗生物質を使用するために、細菌検査や薬剤感受性検査を行って、検査結果によって抗菌療法を行う方が良いとされています。
しかし、歯周病の原因となる細菌はほとんど決まっているため、経験的に抗生物質を選択して使用することもありえます。
 

 実際に抗菌療法を選択する場合は?

日本歯周病学会による「歯周病患者における抗菌療法の指針」によると、診断による分類は以下の項目になります。

通常の機械的プラークコントロールでは十分な臨床的改善がみられない治療抵抗性および難治性歯周病患者

 
良好なプラークコントロールが確立した後にスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行っても、十分に改善がみられないような歯周病にかかっている方が対象になります。
 

広汎型重度慢性歯周炎患者および広汎型侵襲性歯周炎患者

 
年齢に対して歯周組織破壊が著しい上記のような歯周炎は、一般的な慢性歯周炎と比較すると、歯周病治療に対して治療の反応が悪くなる場合が多いです。そのため、抗菌療法が検討されます。
侵襲性歯周炎に関しては、ブログの歯周病って何?歯周病の進行と分類を参照してみてください。
 

易感染性疾患、動脈硬化性疾患を有する中等度・重度歯周炎患者

喫煙を含む免疫力の低下や、血糖コントロールが上手くいっていない糖尿病などの感染しやすい人や、心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性疾患の持病がある中等度・重度歯周炎の人も抗菌療法の対象となりえます。
 

最上リスクを有する歯周炎患者

前途していますが、歯周治療は、一時的に細菌が血液中に流出する菌血症が起きる可能性があるため、リスクが非常に高い細菌性心内膜炎、大動脈弁膜症、チアノーゼ性先天性心疾患、人工弁・シャント術を受けられた方は、抗生物質の術前投与が必要です。
 

 抗菌療法の副作用

  • 薬物アレルギー
  • 他の内服薬と相互作用(薬が効きすぎたり、効きづらくなったりする)
  • 胃腸・腎臓・肝臓障害
  • 薬剤耐性
  • 菌交代現象

 
副作用として、上記のことが考えられますので、副作用に十分注意する必要がありますから、抗菌療法の利点をしっかり判別して行う必要があります。
 

 まとめ

「抗菌療法」という言葉だけが先行してしまい、「抗生物質を飲むだけで歯周病が治る」と誤解されていた方もいらっしゃったのではないでしょうか?もちろん、抗生物質に効果がないわけではありません。
しかし、「急性症状を軽減する」ことと、「歯周病を治療する」ことには違いがあります。このブログを読んでいただいている方に一番伝えたいことは、歯周病の治療は原因を除去することが一番大事であり、例えば原因がプラークであればプラークを除去することが一番大切です。
歯周病は知らず知らずの間に進行する病気ですから、歯周病における専門知識が豊富な歯周病学会専門医や認定医がいる歯科医院を受診し、歯周病の検査や、定期検診を受け、治療が必要な場合は相談してみましょう。
 
参考文献:
日本歯周病学会 歯周治療の指針2015
日本歯周病学会 歯周病患者における抗菌療法の指針2010

この記事の監修歯科医師