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歯周病が全身に及ぼす影響!

 更新日:2023/03/27

こんにちは。メープルデンタルクリニック大久保の剣持正浩(日本歯周病学会認定医)と申します。
歯周病とは、歯周病原細菌によって引き起こされる感染症であり、歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨からなる歯周組織に起こる病気です。歯周組織の破壊を引き起こす特定の細菌を歯周病原細菌と呼びますが、口腔内には歯周病原細菌を含めて、500種類以上の細菌が存在しているのをご存知でしょうか?
近年では、歯周病は、単純に口腔内の感染症としてではなく、細菌の供給源としてあるいは、様々な臓器に影響を及ぼす可能性のある慢性炎症として捉えられるようになっています。
そこで、今回は歯周病に関連すると報告されている疾患である糖尿病・動脈硬化症・肥満・早期低体重児出産・誤嚥性肺炎・関節リウマチ・慢性腎臓病・非アルコール性脂肪性肝炎について見ていきましょう。

 糖尿病

歯周病は、糖尿病の合併症の一つとも言われています。
糖尿病患者と非糖尿病患者を比較すると、歯周病の発症率が高いと報告されており、また糖尿病は歯周病の発症リスクを上げると考えられています。つまり、糖尿病は歯周病の重要なリスクファクターということになります。
また、糖尿病患者における歯周病治療は、血糖コントロールが改善することも報告されています。
一方、歯周病により炎症が起きているところでは、炎症性サイトカイン(免疫に関与する低分子の特定のタンパク質の総称のこと)が生み出されており、炎症性サイトカインにより血糖値をさげるインスリンの働きが阻害されることが示唆されていますし、歯周病は糖尿病を悪化させるという報告もあります。
以上より、糖尿病と歯周病の間にはお互いに関連性があると言われています。

 動脈硬化症

動脈硬化症とは、動脈が硬くなり弾性を失い、血管がつまりやすくなった状態のことをいいます。血管がつまれば、冠状動脈心疾患や脳梗塞を引き起こします。
メカニズムとしては、細菌が直接影響しているという説や、歯周病による炎症反応によって生じるサイトカイン(免疫に関与する低分子の特定のタンパク質の総称のこと)やサイトカインの刺激により産生されたCRPと呼ばれるタンパク質などが関与しているという説があります。
また、歯周病の人はそうでない人より1.5~2.8倍、冠状動脈心疾患(狭心症や心筋梗塞)になりやすいと報告されています。

 肥満

肥満は、血糖値をさげるインスリンに対する組織の反応が悪くなることを背景に、糖尿病・高血圧症・高脂血症・動脈硬化性疾患を発症する危険性を高めます。
歯周病においても、肥満の指標であるBMIが高いほど歯周病にかかりやすいと報告されていて、BMIが20未満の人を1とすると、BMI20~24.9: 1.7倍、BMI25~29.9: 3.4倍、BMI30以上: 8.6倍、歯周病にかかりやすくなるという報告されています。

 早期低体重児出産

早期低体重児出産とは、「妊娠24週以降37週未満での分娩、または体重2500g未満の低体重児出産」のことをいい、中等度以上に進行した歯周病をもつ母親は、そうでない母親より低体重児を出産するリスクが7倍以上高いと報告されています。
メカニズムとして、歯周病による慢性的な炎症から生み出されるサイトカインが関与するものと、歯周病原細菌自体が直接感染する可能性が指摘されています。
妊娠中は、ホルモンバランスの変化による妊娠性歯肉炎という病気にもなりやすいです。

 誤嚥性肺炎

口から食道へ入るべき食べ物などが、気管や肺に入ってしまうことを誤嚥といい、誤嚥により発症する肺炎を誤嚥性肺炎といいます。
嚥下機能が衰えている高齢者は食べ物など異物が気管に入った時の咳反射(咳により体外に出そうとする)も弱っているため、誤嚥性肺炎を発症します。
誤嚥性肺炎の発症や悪化と歯周病との関連性を明確にしたものはありませんが、口腔内の細菌が肺胞内から検出されていますし、口腔内の細菌量を減少させる口腔ケアが重要であると思われます。

 関節リウマチ

歯周病と関節リウマチはお互いに関係していることが示唆されています。
関節リウマチは、手指の機能に障害がでることでブラッシングが困難になること、骨粗鬆症の併発、ストロイドや免疫抑制剤の服用によって感染しやすい状態(易感染性)になることで、歯周炎を発症しやすくなると考えられています。
また一方では、歯周炎・特にP. gingivalisと呼ばれる歯周病原細菌の感染によって関節炎を引き起こすことが報告されています。

 慢性腎臓病

腎機能が慢性的に低下する病気です。
腎機能が低下すると、免疫力が低下して感染しやすい状態(易感染性)になることと、歯を支える歯槽骨を含む全身の骨量が低下することによって、歯周病が進行する可能性が考えられます。
また歯周病により炎症がおきているところでは、炎症によりつくりだされた炎症性サイトカイン(免疫に関与する低分子の特定のタンパク質の総称のこと)などによって、結果的には腎機能が低下します。

 非アルコール性脂肪性肝炎

肥満に伴う慢性的な肝臓の病気のことで、非アルコール性脂肪肝非アルコール性脂肪性肝炎があります。非アルコール性脂肪性肝炎は文字通り、非アルコール性脂肪肝から炎症が起きた状態のことをいいます。さらに病状がすすむと肝硬変や肝癌に移行する可能性があります。
歯周炎病巣からのP. gingivalisと呼ばれる歯周病原細菌感染は、非アルコール性脂肪性肝炎病状を進行させる可能性が高いと考えられています。

 まとめ

上記のように、近年では歯周病が口の中だけではなく、全身に与える影響や、全身の病気が歯周病に与える影響について多くのことが報告されています。
歯周病を予防するための定期的な検診やメンテナンス、歯周病の適切な治療が全身の健康にも必要だと考えられます。
そのためにも、歯周病における適切な知識をもつ日本歯周病学会認定医・専門医がいる歯科を受診しましょう。
参考文献:
日本歯周病学会 歯周治療の指針2015
日本歯周病学会 歯周病と全身の健康
日本歯周病学会 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン改訂第2版

この記事の監修歯科医師