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歯周病の炎症が急激に生じたらどうなる?

 更新日:2023/03/27

みなさんこんにちは。日本歯周病学会専門医・歯学博士の武内崇博と申します。
一般的に、歯周病は痛みなどの不快症状が生じにくく、自覚することが難しいとされています。そのため発見が遅れ、重症化することもしばしばあります。しかし場合によっては症状が劇症化し、痛みや腫れを伴うことがあり、つらい思いをされることがあります。分かりやすい例だと親知らず周囲の痛みや腫れなども、歯周病の急性炎症の一種といえるでしょう。
そこで今回は、歯周病の急性症状が起こった場合の症状やその対処法についてお話しようと思います。

武内 崇博

執筆歯科医師
武内 崇博(みなきたデンタルクリニック)

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2011年東京歯科大学卒業。東京歯科大学大学院歯学研究科歯周病学専攻修了。有楽町デンタルオフィスに勤務した後、2023年「みなきたデンタルクリニック」を開院。歯科医師、歯学博士。東京歯科大学歯周病学講座講師(非常勤)。日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会、日本顕微鏡歯科学会の各会所属。

 歯周病とは?

歯周病は細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患です。歯周組織とよばれる歯を支える4つの組織(歯肉:歯茎、セメント質:歯の根を覆う組織、歯根膜:歯と骨をつなぐ靭帯、歯槽骨:歯を支える上下の顎の骨)に起こる疾患のことで、症状の進行程度により歯肉炎歯周炎に分類されています。また近年、歯周病は食習慣、歯磨き習慣、喫煙などの生活習慣により増悪することから生活習慣病として位置づけられ、さらに糖尿病などの全身性疾患との関連性が示唆されています。
歯肉炎・歯周炎の原因は細菌です。歯と歯茎の間にある歯肉溝・歯周ポケットとよばれる溝に存在するプラーク(歯垢)中の細菌と、生体の防御機能とのバランスが崩れることにより発症・進行します。口の中には500種類を超す細菌が存在していると言われています。そのなかで歯周組織の原因となる細菌は特定されており、それらが歯周組織を構成する細胞に作用し、歯周組織の破壊を引き起こすと考えられています。歯肉炎が発症すると歯肉の腫れと歯肉からの出血が認められるようになります。炎症が拡がり歯周炎になると、歯と歯肉との付着が破壊され、結果として歯と歯肉との溝(歯肉溝)が深くなり、歯周ポケットとよばれる3mm以上の深い溝が形成されます。さらに炎症が進むと歯槽骨の吸収がエックス線上でも認められるようになり、歯の動揺、歯の移動が起きます。歯周ポケットでは細菌が増殖し、特有な口臭を生じます。また、膿が出たり、歯周膿瘍(膿のかたまりのようなもの)が認められるようになります。

 歯周病の急性発作とその種類、それぞれへの対処法

口腔内に生じる、急性発作は歯肉に起こるものと歯に起こるものに大別されます。歯肉に起こるものには急性歯周膿瘍、歯冠周囲炎、歯肉炎・歯周炎(歯周病)の急性発作などがあり、歯に起こるものには急性歯髄炎、急性根尖性歯周炎、上行性歯髄炎、などがあげられます。以上から特に歯周病が原因となるものを個別に説明していこうと思います。

 急性歯肉膿瘍・急性歯周膿瘍

膿瘍とは組織内に限局性の化膿性炎が生じ、その結果その周囲の組織が壊死した結果、空洞が出来、その内部に膿が溜まっている状態のことをいいます。歯肉膿瘍は歯肉に限局して発生するもので、ブラッシングやつまようじなどによる外傷などによって生じた傷に細菌感染し、膿瘍ができたもののことをいいます。歯周膿瘍はポケット内の化膿性炎が歯肉だけでなく他の組織にも波及し生じた膿瘍で、何らかの原因でポケットの入り口が閉鎖されたことにより発生します。歯周病により起こる骨の吸収形態が複雑であったり、歯周病自体が重篤な場合や糖尿病など全身抵抗性が低下している場合に起こることが多いとされています。歯肉の腫れ圧痛排膿を伴い、進行するとリンパ節の腫脹開口障害なども現れます。治療法として、膿を出す通路の確保が必要なため切開を行ったり歯周ポケットの掻爬を行います。軽度な場合では、患部の洗浄消毒・含嗽剤(うがい薬)の投与が行われます。抗生剤や抗炎症薬などの経口投与も行われます。

 歯冠周囲炎

歯の生え方などにより恒常性が失われた歯列の歯の周囲の歯肉におこる急性炎症のことをいいます。親知らずの周囲や、生え途中の永久歯周囲や根に虫歯があり凹んでいる部位などが好発部位となります。清掃が難しくなり蓄積したプラークや食物などにより起こります。原因歯周囲の歯肉の赤みや腫れ、痛みなどが生じ、症状が進行すると膿が出たり、歯肉が腫れることにより反対側の歯と歯肉が噛み合い、咬合痛が発生します。さらに進行すると口が開けにくくなったり、飲み込みにくくなったり、顎周囲のリンパの腫れにまで至る場合があります。軽度な場合では、患部の洗浄消毒・含嗽剤(うがい薬)の投与が行われます。抗生剤や抗炎症薬などの投与も行われます。場合よっては歯肉を切除し、清掃しやすい状況を作り出してあげる必要があります。

 歯肉炎・歯周炎の急性発作

歯肉炎や歯周炎は慢性炎症のため、歯肉などに痛みを常時感じることはありません。しかし原因因子と全身抵抗性などのバランスが破綻したとき(体調不良や疲れが重なったとき・ストレスを強く感じたとき)に急性症状が発生します。歯周病を治療せずに放置したり、口腔清掃状態が悪い場合などが原因です。症状として歯肉の腫れ、赤み、痛み、ブラッシングなどによる機械刺激による出血などが起こります。また歯の揺れの増悪咬合痛排膿なども生じます。対応として、ポケット内の洗浄・含嗽剤の投与、通常の歯ブラシだと痛みによりブラッシングが困難なため軟毛ブラシによる清掃指導、抗菌薬・抗炎症薬の経口投与、揺れが大きく咀嚼困難な場合は噛み合わせの調整や歯の固定を行います。

 上行性歯髄炎

歯髄炎とは、歯髄と呼ばれる歯の内部にある神経に感染が生じて起こる炎症のことをいいます。一般的な経路は虫歯による感染が主ですが、重度の歯周病により歯周ポケットから菌が侵入し、根の枝や分岐している部位、根の先端から感染することがあります。冷温水による刺激に対する鋭い痛みや、何もしなくても感じる自発痛咬合痛歯の動揺の増悪排膿を伴うことがあります。治療法として痛みを取るため神経を取る治療をまず行います。その後、一般的な歯周病の治療を行いますが、症状が重度に進行しているケースが多いためやむなく抜歯となってしまうことも少なくありません。

 まとめ

歯周病の急性発作は突然起こり、辛い症状を生じます。日頃何もなく健康だと思っている方でも、歯周病の検査を行ってみると進行した歯周病だった、なんてことは少なくありません。ブラッシングによる日々のセルフケアの徹底や、定期的な歯科受診によるプロフェッショナルケアの習慣化が歯周病予防において最も大切なことです。歯周病は進行の度合いによっては歯を残すことが難しい恐ろしい病気です。困ったことがあったら歯科に通うのではなく、一度検診を受けそのまま定期的通院を行ってみませんか?

歯が痛い症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。

この記事の監修歯科医師