歯周病がアルツハイマー型認知症を引き起こす?
こんにちは。日本歯周病学会認定医であり、千葉県市川市行徳にある『杉澤デンタルクリニック行徳』の杉澤幹雄と申します。
歯周病がアルツハイマー型認知症に関連することが報告されています。歯周病はお口の中の病気ですが、脳の病気である認知症と部位が離れた疾患が関連しているのはどうしてでしょうか?それではどのように歯周病が認知症に関連するのかについて書いていこうと思います。
執筆歯科医師:
杉澤 幹雄(日本歯周病学会認定医)
杉澤デンタルクリニック行徳 院長の杉澤幹雄です。歯周病の専門的な治療を行ってきましたので、その知識と経験を活かして、歯の土台となる歯茎や骨からしっかりと健康な状態にしていくことを大切にしています。歯周病をそのままにした状態で、歯だけきれいにしても長持ちしません。まずは歯を支えている土台からきれいにし、いつまでも健康な歯を使い続けられるようにしましょう。
歯周病とは...
歯周病は歯面または歯根表面に停滞したプラーク中に存在する歯周病原細菌の歯周組織への感染によって生じる慢性炎症性疾患です。歯周病原細菌には多くの種類が報告されておりますが、なかでもPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス/P.g菌)が最も大きく関与することが報告されています。P.g菌は歯周組織細胞に傷害を引き起こす酵素を出したりすることで歯周病に関連する色々な病態を引き起こすことが考えられています。また、からだを守る免疫細胞は細菌に対抗するための防御反応として様々な免疫細胞間の情報伝達のための物質などを放出します。この防御反応としての物質により炎症(炎症とは生体の防御反応です)が生じ、歯周病原細菌と免疫細胞の戦いにより、戦場となる歯周組織は更なる破壊が生じてしまいます。進行した重度の歯周病では、歯を支える歯槽骨は大きく破壊・吸収され、歯は支持を失い大きくぐらつきやがて抜けてしまうことになります。
では、歯の周囲で生じる歯周病がどのようにアルツハイマー型認知症に関連するのでしょうか?
アルツハイマー型認知症とは
認知症は様々な原因によって、脳神経細胞が破壊・減少し、物忘れや認知機能の低下など日常生活が正常に送ることが難しくなる状態のことを言います。原因によってさまざまな認知症がありますが、最も患者が多いのがアミロイドβという特殊なたんぱく質が脳の神経細胞に蓄積されることによって脳神経細胞の破壊され減少し、脳が委縮することによって生じるアルツハイマー型認知症です。
認知症は単純な老化と違い、脳の生理的な老化ではなく実質的な脳神経細胞の死滅による細胞の減少が認められます。そのため老化による物忘れではなく、忘れたことすら自覚することができず、判断能力が低下し、またそれらの進行スピードも速く日常生活ができなくなってしまいます。
アルツハイマー型認知症は現状では完全に治す治療法はなく、抗認知症薬などにて進行を遅らせることしかできない病気です。そのため、認知症になるリスクをなるべく減らすことをする必要があります。
歯周病とアルツハイマー型認知症との関連について
海外の研究において、アルツハイマー型認知症の患者の脳から、歯周病原細菌であるP.g菌が検出されたことが発端に、歯周病とアルツハイマー型歯周病の関連を調査する研究が現在も多く行われています。
ある研究では、P.g菌を全身に長期的に口腔内へ投与し続けたマウスにおいて、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの脳内の増加が著しく認められました。また他の研究では、ヒトの歯周病に罹患した歯茎からアミロイドβが産生されていることも発見されています。歯周病原細菌であるP.g菌と戦う免疫細胞であるマクロファージがアミロイドβを産出していることもわかっています。
これらのことから、口腔内で広範囲かつ中等度以上に歯周病が進行している場合、その広範囲での歯茎からP.g菌からからだを守ろうとした免疫細胞よりアミロイドβが多く産生され、放出されたアミロイドβが血管内に入り全身へ循環し、脳神経細胞に達したアミロイドβが脳神経細胞に蓄積され、脳神経細胞の変性や壊死が生じ、アルツハイマー型認知症のリスクを高める可能性があります。
またはP.g菌が血管より体内に侵入し、脳へ到達し脳にて菌に対抗するためにアミロイドβが産生され細胞内にアミロイドβが蓄積することにより脳神経細胞の破壊が生じることも考えられます。
まとめ
歯周病はお口の中だけの問題ではなく、アルツハイマー型認知症との関連性が示されています。もちろん歯周病だけが認知症のリスクではなく、また歯周病だけで認知症が発症するわけではないかもしれません。しかし、認知症のリスクの一つとしての歯周病にならないよう予防または歯周病治療を行うことは重要です。特に年齢が上がるほど歯周病のリスクが高まるゆえ、特に注意が必要です。毎日の口腔ケアや定期的な歯科医院でのメンテナンスや歯周病精密検査を行い歯周組織の健全な状態を保つことを強くお勧め致します。