顎関節症はマウスピースで改善できる?改善できるケース・できないケース・マウスピース矯正で顎が痛いときの対処法もご紹介
「口を開けると音がする…」「顎が痛くて口が開けられない…」という症状が現れる顎関節症は、様々な原因で発症します。
基本的にはマウスピースで改善することが可能ですが、中にはマウスピースでは改善できないケースもあります。
そのため、まずは詳しい検査を受けて、顎関節症の根本的な原因を明らかにすることが大切です。
今回は、マウスピースで改善できるケース・できないケース・マウスピース矯正で顎が痛いときの対処法も併せてご紹介していきます。
痛みが強い場合には、我慢せず歯科医院を受診してください。
監修歯科医師:
熊谷 靖司(歯科医師)
目次 -INDEX-
顎関節症はマウスピースで改善できる?
顎関節症は、顎の関節に痛みや不快感が生じる病気のことです。口を大きくあけると顎の関節が痛い・口が開けられない・口を開けると音がするなどが主な症状として現れます。例えば、顎関節周辺に炎症がある場合には痛みを伴うことが多いです。また、顎関節がずれてしまった場合には、口が開かなくなってしまったり口を開けようとすると強い痛みが生じることもあります。
さらに特徴的な症状としては、口を開けた時の音です。これは、顎の関節がずれや骨の変形により、顎関節の動きが妨げられてしまうことや摩擦が生じることによって現れます。口を大きく開けた時に顎の関節からガクンと音がするようであれば、顎関節症である可能性が高いでしょう。しかし、顎関節症の多くはマウスピースによって改善できます。症状が軽度の場合には、ストレッチやエクササイズだけで改善できることもありますので、まずは歯科医院で相談するのがおすすめです。
顎関節症に使用されるマウスピースの種類
顎関節症に使用されるマウスピースは、主に3種類あります。症状や治療目的によって最適なマウスピースは異なりますので、まずは歯科医院で検査を受けてみましょう。
スタビライゼーション型スプリント
スタビライゼーション型スプリントとは、顎の筋肉の緊張緩和や負担軽減を目的として用いられるマウスピースのことです。このスプリントを装着することによって正しい顎の運動を促し、痛みを軽減させることができます。就寝中に装着するのが一般的です。
アンテリア リポジショニング型スプリント
アンテリアとは「前方の」という意味があります。つまりアンテリアリポジショニング型スプリントは、下顎が前方に位置するように調整し、顎関節を適切な位置に保つ役割を果たします。
このマウスピースは、口を開ける時に音がなる場合に用いられることが多いです。作製する際には、顎に負担がかかりにくいようにかみ合わせを調整します。
ディスク リキャプチャリング型スプリント
ディスクリキャプチャリング型スプリントは、顎関節症により口が開かなくなってしまった場合に用いられることが多いマウスピースです。口が開かなくなってしまった場合、一般的にはマニピュレーションという治療法を用います。
この方法は、顎関節を正しい位置に戻すための徒手療法です。マニピュレーションにより、顎関節の状態が改善した後に再発を防ぐために使用されることもあります。顎関節症の症状によって最適なマウスピースは異なります。不快な症状にお悩みの方は歯科医院へご相談ください。
マウスピースで顎関節症が改善されるケース
では、どのようなケースの場合、マウスピースで改善ができるのでしょうか。ここでは、マウスピースで顎関節症が改善されるケースについてみていきましょう。
歯ぎしり・食いしばりが原因
歯ぎしりや歯の食いしばりが原因で顎関節症が引き起こされている場合、マウスピースでの改善が期待できます。まず、歯ぎしりや歯の食いしばりが長時間続いた場合、顎関節に過度な負担がかかります。
顎関節に過度な負担がかかると周辺筋肉に炎症が起き、痛みや口の開けにくさといった症状が現れるのです。このような場合、マウスピースを用いることで歯ぎしりや歯の食いしばりを防止することができます。顎関節への負担を軽減することで症状の改善が期待できるでしょう。
開咬が原因
開咬(かいごう)とは、歯を咬み合わせた際に上下の歯に隙間ができてしまう状態のことを指します。つまり、咬み合わせても上下の歯が接触しないのです。それにより、顎関節に負担がかかり、顎関節症となってしまいます。
開咬という状態の患者さんはあまり多くはありませんが、出っ歯や受け口よりも気づきにくいですので注意しましょう。開咬による顎関節症の場合、マウスピースで正しい口の形を保つことができれば、顎関節への負担を軽減できます。ただし、開咬は舌癖や口呼吸などが原因になっている場合もあります。根本的な改善には、それらの治療を行う必要もあるでしょう。
過蓋咬合が原因
過蓋咬合(かがいこうごう)とは、上下の歯を咬み合わせた際に舌の歯が隠れてしまう状態のことです。ディープバイトやオーバーバイトともいわれています。通常、上下の歯を咬み合わせた時、下の歯が4分の3程度見えているのが一般的です。
しかし、過蓋咬合では咬み合わせが深く、顎関節に過度な負担がかかってしまいます。また、それにより奥歯がすり減ってしまったり出っ歯になってしまったりすることもあるため注意が必要です。この場合には、マウスピースを用いて咬み合わせの高さを調整します。咬み合わせが正常な位置に戻ることで、顎関節や奥歯への負担を減らす効果が期待できます。
交叉咬合が原因
交叉咬合(こうさこうごう)は、一部の咬み合わせが内側にずれてしまった状態のことです。専門的には、クロスバイトともいわれています。正常な歯並びでは、上の歯が下の歯に被さるように並んでいる状態です。しかし、交叉咬合では一部の上の歯が下の歯の内側に入ってしまいます。
これにより、顎が動かしにくくなり、顎関節に負担がかかってしまうのです。また、顔のゆがみ・肩こり・頭痛などの症状に悩まされることもあるため、早期に治療を開始するのが望ましいでしょう。マウスピースによる矯正であれば見た目にも影響が出にくいというメリットがあります。顎の痛み・頭痛・肩こりなどでお悩みの方は、一度診察を受けてみてください。
マウスピースでは症状が改善されないケース
マウスピースにより顎関節症の症状を改善することが可能ですが、中にはマウスピース矯正だけでは改善できないケースもあります。そのようなケースでは、以下のような原因が考えられます。
歯ぎしり・食いしばりが強い
歯ぎしりや食いしばりがあまりにも強い場合には、マウスピース矯正を行うことができない可能性があります。顎への負担を改善するためのマウスピースは、一般的に就寝中に装着します。
しかし、寝ている間に強い歯ぎしりや食いしばりを行ってしまった場合、マウスピースが破損してしまう恐れがあるのです。そのような場合には、筋肉の緊張をほぐすマッサージを行ったり咬み合わせを変えたりする必要があります。
重度の顎関節症
重度の顎関節症の場合、マウスピースでは効果が得られず、痛みが長引いてしまうことにもなりかねません。顎関節症は命の危険に関わるような病気ではありませんが、あまりにも痛みが続いた場合、うつ症状が現れることもあります。
そのような状況になると、患者さん本人が感じる不快感や痛みが強くなり、なかなか改善がみられなくなることもあるのです。そのようなケースでは手術が必要となることもあります。
顎関節症の原因が歯並びではない
顎関節症の原因は歯並び以外にも様々です。歯並びに関連した症状であればマウスピースでの改善が期待できますが、場合によっては改善できないことがあります。例えば、事故などによる外傷が原因となった場合などです。
他にも、うつや睡眠障害が原因で顎関節症となることもあります。これらの場合、原因となる病気やケガの治療を行わない限り、改善は見込めません。
顎関節症でもマウスピース矯正はできる?
顎関節症でもマウスピース矯正を行うことは可能です。顎関節症の原因が歯並びにある場合には、マウスピース矯正を行うことで症状の改善が期待できます。しかし、適切なサイズや形状のマウスピースを使用した場合、顎に負担がかかってしまう可能性もあります。
顎関節症を悪化させないためにも、歯科医院で適切な処置を受けることが重要です。
マウスピース矯正が原因で顎関節症になるって本当?
基本的にマウスピース矯正が原因で顎関節症になることはありません。マウスピース矯正により歯並びを修正し、顎への負担を軽減することができるでしょう。しかしながら、マウスピースの使用方法が不適切だった場合には、顎関節症の症状が現れることがあります。
例えば、医師に指示された装着時間を守っていない場合などです。その他にも、サイズや形が合っていない場合には、顎関節症になってしまうことがあります。お口の中の状況は変化しますので、マウスピース作製後も定期的な検診を受けていくことが大切です。
マウスピース矯正で顎が痛くなる原因
マウスピース矯正は手軽に行うことができる矯正方法ですが、痛みを感じてしまうこともあります。ここでは、マウスピース装着による痛みの原因について解説していきます。
マウスピースに慣れていない
マウスピースに慣れていない場合、顎が痛くなることはあります。特に初めて使用する場合には顎に新しい負荷をかけることになるため、一時的に痛みを感じる人も多いです。
そのため、慣らすための期間は必要と考えてよいでしょう。マウスピースの装着に慣れてくれば、痛みは自然とおさまっていきます。それでも痛みが強い場合などには、かかりつけ歯科医に相談するようにしてください。
親知らずの抜歯をした
親知らずを抜歯した場合、上下の歯列のバランスが崩れてしまいます。そのため、片方の顎だけに負荷がかかってしまったり他の歯に負担がかかってしまったりすることもあります。マウスピース矯正後に抜歯をした場合には、もう一度受診し、自分の今の口の状態に合ったマウスピースを作製する必要があるでしょう。
矯正途中の噛み合わせ不良
マウスピース矯正では時間をかけてゆっくりと歯列を矯正していきます。そのため、強制途中の段階では一時的に咬み合わせが不良となってしまうこともあるのです。そのため、痛みを感じることがあります。しかし、治療を続けて歯列が整うことで自然と痛みも治まっていきます。
長期間マウスピースを外していた
長期間マウスピースを外していた場合、歯列が元の状態に戻ってしまい、再び顎が痛みだすことがあります。一度マウスピースで矯正することができても、長期間外して生活した場合には、少しずつ歯列が変化していきます。痛みが出るということは顎関節に負担がかかっている可能性が考えられますので、もう一度歯科医院を受診することがおすすめです。
矯正のストレス
顎が痛くなる原因には、ストレスも考えられます。矯正は歯並びを改善するために行う治療ですが、それが患者さん本人にとってストレスとなっている可能性も考えられるでしょう。
マウスピースを毎日装着しなくてはいけないことや装着による違和感に対して苦痛を感じているようであれば、一度かかりつけ医に相談してみてください。マウスピースの調整などでストレスが軽減できる可能性もあります。場合によっては、他の治療方法も検討していく必要もあるでしょう。
顎が痛いときの対処法
「顎が痛いな…」「口が開けにくいな…」と感じるときは、顎に過度の負担がかかっているかもしれません。以下のことに注意して、顎に負担がかからないような生活を心がけましょう。
食いしばらないように注意する
過度な食いしばりは顎関節や周辺の筋肉に負担がかかってしまい、痛みが増す原因となってしまいます。そのため、意識的に歯を食いしばらないようにすることが大切です。また、緊張やストレスが原因で歯を強く食いしばってしまうこともあります。
顎に痛みが出ているようであれば、出来るだけリラックスして過ごすことも必要です。思い当たるようであれば、休息を第一に過ごしましょう。あまりに痛みが強い場合には、歯科医院で鎮痛剤や抗炎症剤を処方してもらうようにしてください。
顎のマッサージをする
顎周辺の筋肉をマッサージしてほぐす方法も効果的です。筋肉を覆う筋膜という組織がべったりと癒着した状態で放置してしまうと、筋肉の動きが悪くなってしまいます。また筋肉が凝り固まることによって、顎に痛みを感じてしまうこともあります。そのため、優しく筋肉をほぐすことも大切です。
マッサージは自分で行うこともできますが、間違った方法で行ってしまうと痛みが悪化してしまうこともあります。かかりつけ医で指導を受けてから実施するようにしましょう。
マウスピース矯正の相談は信頼できる歯科医院へ
顎の痛みを改善するためには、マウスピース矯正が有効です。ずれてしまった歯列を正常に戻すことで症状の改善が期待できるでしょう。しかし、中にはマウスピースで改善できない顎関節症もあります。まずは、信頼できる歯科医院へ相談することが大切です。
編集部まとめ
「歯ぎしりや食いしばりの癖がある…」「口が痛くて開けられない…」という人は、顎関節症である可能性があります。
顎関節症では、痛みや口の開けにくさの他に、口を開けた時に音がすることもあります。また、顎関節のゆがみによって肩こりや頭痛などの症状が現れることもあります。
しかし、その痛みの原因は様々ですので、まずは受診して詳しい検査を受けることが大切です。
症状がひどくなれば日常生活に支障をきたす恐れもありますので、早めに歯科医院へ相談しましょう。
参考文献
- 顎関節症とは|一般社団法人 日本顎関節学会
- 顎関節症の主な治療は|一般社団法人 日本顎関節学会
- マウスピース治療|医療法人仁愛会歯科
- 顎関節症の治療|西川歯科医院
- 歯ぎしり・食いしばり治療|医療法人社団大栄会 西大路御池デンタルクリニック
- 開咬(かいこう)|医療法人塩見会 矯正歯科サイト
- 過蓋咬合(かがいこうごう)|医療法人塩見会 矯正歯科サイト
- 交叉咬合(こうさこうごう)|医療法人塩見会 矯正歯科サイト
- 治療を繰り返しても治らない方へ|一般社団法人 日本顎関節学
- 歯ぎしりをする癖があるのですが、マウスピースによる矯正治療に支障が出ることはないでしょうか?|グラントウキョウスワン歯科・矯正歯科
- 顎関節症|医療法人俊明会 いわい歯科医院
- インビザライン(マウスピース矯正)は痛くない?歯が動いている証拠?|医療法人社団 安福歯科医院
- 顎関節症について|医療法人社団 陵栄会 牛久デンタルクリニック