歯列矯正中はむし歯になりやすいのはなぜ?矯正装置別のリスクや予防のポイントも解説

歯列矯正中はむし歯になりやすいということをご存じですか?
歯並びを整えることでむし歯の予防などにもつながる歯列矯正ですが、治療期間中は歯に装着する装置の影響で歯磨きをしにくくなるなどの理由で、むし歯のリスクが高まります。
この記事においては、むし歯になりやすい理由や予防方法などについて解説します。

監修歯科医師:
中山 雄司(おとなとこどもの歯並び 中山矯正歯科・小児歯科 西大寺)
出身大学:大阪歯科大学歯科矯正学講座
経歴: 2012年3月 大阪歯科大学卒業
2018年3月 大阪歯科大学大学院歯学研究科博士課程終了
2019年4月 大阪歯科大学 歯科矯正学講座 助教
2021年4月 大阪歯科大学 附属病院矯正科 診療主任
2024年6月 おとなとこどもの歯並び 中山矯正歯科・小児歯科 西大寺 開院
2025年1月 大阪歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学)講師(非常勤)
取得資格:日本矯正歯科学会 認定医
所属学会:日本矯正歯科学会/ 近畿東海矯正歯科学会 / 日本舌側矯正歯科学会 / 日本顎変形症学会 / 近畿矯正歯科研究会
目次 -INDEX-
なぜ歯列矯正中はむし歯になりやすいのか

歯列矯正中はむし歯になりやすいということができます。
まずはその理由を確認しましょう。
そもそもむし歯とは
むし歯は、口腔内の細菌が作り出す酸によって歯が溶かされてしまう病気です。
お口のなかにはさまざまな細菌が存在していますが、そのなかには糖分を分解し、酸性の物質を作り出すものがあります。
細菌が作り出す酸はそれほど強力なものではありませんが、糖分を多く摂取したり、口腔内の細菌が増えたりすると、酸の量が増加し、場合によっては歯が溶かされてむし歯になります。
歯列矯正中はプラークが残りやすい
お口のなかにいる細菌は、酸だけではなくネバネバとした物質を作り出します。これは細菌がお口のなかにとどまりやすくするためのもので、細菌の巣のようなものです。
ネバネバとした物質は歯垢やプラークと呼ばれ、プラーク1㎎のなかには10億個以上の細菌が存在しているともいわれています。そのため、プラークが残っていると、お口のなかで酸が作られやすくなり、むし歯が進行しやすい状況が発生します。
プラークは粘着性があり、歯にくっついているため、プラークを除去するためには歯磨きなどで物理的に除去する必要があります。
しかし、歯列矯正のなかでも特に歯にブラケットと呼ばれる装置を装着して行うワイヤー矯正の場合、装置の影に隠れてしまう場所などに歯ブラシがあたりにくくなるため、プラークが除去されずに残り続けやすくなります。
また、歯磨きなどの際には取り外すことが可能なマウスピース型矯正の場合、装着するマウスピース型に汚れが残り、プラークとして残ってしまうこともあります。
マウスピースは食事中などには外し、しっかりと口腔内をキレイにしてから装着することが推奨されています。しかし、マウスピースを装着したまま糖分が含まれる飲み物などをお口に含んだり、歯磨きが不十分なまま装着したりしてしまうと、マウスピース内に汚れや細菌が入り込み、プラークを形成します。
マウスピースが汚れた状態のまま装着していると、常に細菌が作り出す酸に歯がさらされる状態になるため、むし歯のリスクが高まります。
歯列矯正中は口腔ケアがしづらい
ワイヤー矯正の場合は歯磨きが届きにくい部分が生じることは上述のとおりですが、それに加えて歯列矯正中はフロスなどによるケアも行いにくくなります。
実は、むし歯のリスクが高いのは歯の表面や裏側よりも歯と歯の間で、この部分は歯ブラシがそもそも届きにくいことから、フロスなどによるケアが必要不可欠です。
しかし、ワイヤー矯正を行っている最中は、ワイヤーによってフロスをしっかり通すことが困難になるため、むし歯のリスクが高まります。
【矯正装置別】むし歯のリスクと口腔ケアのポイント

歯列矯正中にどの程度むし歯になりやすいかは、治療を行う際の装置によっても異なります。
歯列矯正で使用される矯正装置の種類と、それぞれで治療を行う際の口腔ケアのポイントを解説します。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、歯の表面または裏面にブラケットと呼ばれる装置を歯科用の接着材でくっつけて、そこに金属などでできたワイヤーを通して歯に力を加える治療法です。
歯に対してさまざまな方向に力を加えることができるため、難しい症例でも利用しやすい矯正装置です。
定期的に通院を行い、歯科医師の手によって歯に加わる力の調整を行いながら治療を進める必要があります。
ワイヤー矯正は歯に直接取り付けるブラケットやワイヤーの影響で、歯磨きやフロスによる口腔ケアがしにくくなることから、むし歯になりやすい矯正装置です。
ブラケットの周囲などにプラークが形成されてしまい、むし歯や口臭などの原因になります。また、ブラケットやワイヤーが口腔内の粘膜に触れることで傷などが生じて痛みが出て、さらに歯磨きなどのケアが難しくなるという悪循環に陥る場合もあります。
ワイヤー矯正の場合、歯ブラシの角度などを調整してできる限り細かい部分まで汚れを落とすようにすることに加え、洗口剤を使用して細菌の繁殖を防ぐケアを取り入れることがおすすめです。
どうしても歯ブラシだけでは汚れを除去しきることが難しいため、洗口剤で細菌の繁殖を防ぎつつ、定期的な通院の際にしっかりとしたクリーニングを受けることで、むし歯の予防につながります。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は、透明なマウスピース型の矯正装置を食事や歯磨きのタイミングを除いて装着して行う歯列矯正です。
現在の歯並びより少しだけ理想の歯並びに近い形状のマウスピースを装着することで、歯に適度な力を加えて歯を動かします。1枚のマウスピースで0.25㎜ほど歯を動かすことが可能で、だいたい1週間ごとにマウスピースを交換しながら治療を進めていきます。
多くの場合、治療開始時に治療終了までのマウスピースが渡され、自分で交換しながら治療を進めることができるため、通院回数が少なく済む点などがメリットです。
また、食事や歯磨きの際に取り外すことができるので、歯列矯正をしていないときと同じように歯磨きが可能で、口腔内を清潔に保ちやすいという点もメリットです。
ただし、マウスピースをした状態で糖分の入った飲み物をお口に含んでしまったり、歯磨きが不十分なままマウスピースを装着してしまったりすると、マウスピースの内側で細菌が繁殖して、プラークや歯石が作られやすくなります。
マウスピースの内側に酸がたまるため歯への影響も生じやすく、ケアが不十分な場合、やはりむし歯になりやすいといえるでしょう。
マウスピース装着前の口腔ケアを十分に行うことや、間食などをしっかり控えること、そして歯科医師の指示にしたがって定期的な検診を受けることなどが大切です。自己管理が苦手な人には不向きな装置と言えるでしょう。
床矯正
床矯正の1つである拡大床は、歯茎の内側に専用の器具を装着して顎骨を広げ、歯がきれいに並ぶためのスペースを確保する治療です。主に永久歯に生え変わる前の子どもを対象として実施されます。
拡大床装置は顎骨を外側に広げるように力を加えるもので、装置についたネジを回すことで拡大する力の強弱を調整できます。また、装置は自由に取り外しが可能で、歯磨きなどのケアも普段と同じように行うことが可能です。
床矯正は、歯磨きの際に取り外して通常の歯と同じようにケアを行うことができるので、特にむし歯になりやすいというわけではありません。ただし、装置に汚れが付いたままの場合などはむし歯リスクを高めてしまう可能性があるため、歯磨きだけではなく装置もしっかりと清潔に保つようにしましょう。
また、そもそも床矯正はお子さんの歯列矯正として用いられることが多い方法ですが、乳歯や生え変わったばかりの永久歯はやわらかくむし歯になりやすいという特徴があるため、丁寧なセルフケアが大切です。
そのほかの歯列矯正法
ワイヤー矯正やマウスピース型矯正、床矯正といった方法のほかにも、歯列矯正にはさまざまな種類があります。
例えば、成長期のお子さんの歯並びに対するケアとして、機能的マウスピースを使用してお口の筋肉の使い方をトレーニングすることで、しっかりとした歯並びを目指す方法があります。
このタイプの装置は就寝中などに利用すればよいため、治療によるむし歯のリスクはあまり考えなくてもよいでしょう。
なお、噛み合わせが悪い原因が骨格にある場合は外科手術を伴う治療が必要な場合もあります。外科手術を伴う歯列矯正の場合、手術そのものはむし歯になりやすい状態を作るわけではありませんが、手術の前後にワイヤー矯正などを伴うため、その際にはむし歯を予防するためにしっかりとケアをしたり、歯科医院に通って歯のクリーニングを受けたりする必要があります。
むし歯を予防するポイント

歯列矯正の治療中かどうかに関わらず、むし歯はしっかりと予防することが大切です。
むし歯を予防するためのポイントを紹介します。
丁寧に歯磨きを行う
むし歯は口腔内の細菌が作り出す酸が原因の病気なので、細菌の数を減らしたり、細菌が酸を作る元となる糖分をしっかりと除去したりすることが大切です。
そのために欠かせないケアが歯磨きで、すみずみまで丁寧に歯ブラシを当てて、細菌や汚れをかき出すようにしましょう。
特に歯と歯茎の間にある歯周ポケットや、歯ブラシの届きにくい奥歯には汚れがたまりやすいので、こういった部分を意識して丁寧に歯磨きをすることが大切です。
高濃度フッ素配合の歯磨き粉を使う
歯には再石灰化という機能があり、酸によって一時的に溶かされても、唾液中に含まれるカルシウムなどを歯が取り込むことで、再度強い歯を取り戻すことが可能です。
フッ素はこの再石灰化の働きを助けると同時に、歯の強化やむし歯の原因となる細菌の働きを弱めるという効果を持つため、フッ素が配合された歯磨き粉を使うことは、むし歯予防につながります。
フロスや歯間ブラシを使う
むし歯になりやすい部位は、実は歯の表面や裏側ではなく、歯と歯の間です。この部分は通常の歯磨きだけでは汚れを除去しきれないため、フロスや歯間ブラシを使用する必要があります。
歯並びの状態などによって適切なケア用品が異なりますので、どのように歯のケアを行う必要があるかについては、一度歯科医院で相談してみるとよいでしょう。
マウスウォッシュを使う
マウスウォッシュは、お口のなかの細菌を減らし、むし歯のリスクを低減させるために有効です。
お口の状態や商品の性質によっては口腔内の乾燥などにつながってしまう可能性もあるので、まずは歯科医院で自分に合ったマウスウォッシュの相談をしてみるとよいでしょう。
キシリトールを取り入れる
キシリトールは甘味料の一種ですが、むし歯の原因となる細菌の働きを抑えたり、増殖を防ぐ効果があることが判明しています。
キシリトールが配合されたおやつなどを日常的に噛むことで、むし歯のリスクを抑えられます。ただし、キシリトールを過剰に摂取するとお腹がゆるくなるなどのデメリットもあります。
定期的な歯科検診を受ける
むし歯は初期段階で自覚症状が出にくいため、しっかりとケアするためには定期的な歯科検診が欠かせません。
歯科検診と同時に歯のクリーニングを受けることで、普段の歯磨きだけでは落としきれない歯垢や歯石も除去することができるので、数ヶ月に1度は歯科検診を受けるようにしましょう。
むし歯リスクが高い人の特徴

むし歯になりやすい方は、下記のような特徴を持つ方です。
唾液量が少ない、口呼吸が癖になっている
お口のなかは、適度に潤いが保たれることで再石灰化が促されたり、酸による影響を薄めたりすることができます。
そのため、常にお口が半開きなど、口呼吸が癖になってしまっていたり、唾液量が少なくて口腔内が乾燥している方はむし歯になりやすいといえます。
間食の習慣がある
むし歯は細菌が糖分を栄養として作り出す酸が原因なので、間食などで頻繁に口腔内の細菌に糖分を提供してしまう方は、むし歯になりやすいです。
ものを食べるという意味では通常の食事も間食も同じですが、間食の場合は食後の歯磨きなどを怠るケースが多いことも、むし歯のリスクを高める要因です。
甘い飲み物をよく飲む
間食と同様に、糖分が含まれる甘い飲み物をよく飲む方も、むし歯のリスクが高まります。
特に、歯磨きを終えてから寝る直前に糖分を含む飲み物を飲んでしまうと、夜の間に細菌が増殖してむし歯になりやすい状態を招きます。
口腔ケアが徹底できていない
歯磨きなどの口腔ケアが十分に行えていない方は、むし歯になりやすいといえます。
細菌の増殖はお口のなかに糖分が残っていれば引き起こされるので、糖分を食べたらすぐに丁寧な歯磨きなどを行うように心がけましょう。
歯列矯正はむし歯予防にも役立つ

歯列矯正の期間中はむし歯になりやすいという一面がありますが、歯列矯正そのものはむし歯の予防にも役立つ治療です。
まず、歯並びが整うことで歯磨きがしやすくなるため、しっかりと汚れを除去してむし歯を予防できるようになります。
また、噛み合わせが改善することで歯に余計な負担がかかりにくくなり、むし歯や歯周病といったお口のトラブル予防につながります。
適切な歯並びや噛み合わせは健康面でのメリットも大きいので、できれば子どものうちなど早めに歯科医師へ相談して、必要な治療を受けてみてはいかがでしょうか。
まとめ

歯列矯正中はむし歯になりやすいといえますが、適切なセルフケアや定期的な歯科検診などを続けていれば、むし歯のリスクはしっかりと抑えることができます。
まずは自分に合った治療法を歯科医師とよく相談し、歯科医師の指示をきちんと守りながら、治療を進めるようにしましょう。
参考文献