三浦孝太「格闘技の過酷な現実」を告白。激闘の衝撃から身体と歯を守る方法とは

常にケガのリスクと隣り合わせの格闘家・三浦孝太選手。これまでに腰椎椎間板ヘルニアや拳の骨折など、さまざまなケガを経験してきました。さらに、顔面を殴られることもある格闘技では歯へのダメージも避けられません。三浦さんはプロアスリートとして自身の身体とどう向き合っているのでしょうか。今回は、柔道整復師の菊地昭先生、歯科医師の白井崇浩先生とともに、格闘家に限らず誰もが実践すべき衝撃の予防とケアに対する考え方についてお話していただきました。

三浦 孝太(格闘家)
日本サッカー界の象徴、キング・カズこと三浦知良の次男。高校卒業後、プロ格闘家をめざしBRAVEで研鑽を積む。2021年にはTKO勝利と衝撃デビューを飾った。SNSを通じ東南アジアの女性に爆発的な人気を獲得、22年にタイ王国からの招聘でムエタイ世界王者ブアカーオとエキシビションマッチが実現、最優秀人気格闘家賞とトロフィーを授与されている。

監修柔道整復師:
菊地 昭(笑顔道鍼灸接骨院グループ)
笑顔道整骨院 笹塚院院長。柔道整復師。ジムの中にある整骨院のため、運動の後のお身体のメンテナンスとして利用されている方も多く、自身の格闘家としての経験を活かした施術をおこなっている。

監修歯科医師:
白井 崇浩(エス歯科グループ)
エス歯科グループ総院長。横浜・町田エリアを中心に7院の歯科医療法人を展開。Jリーグ横浜FC、ベルギーSTTV(シント=トロイデン)のオフィシャルデンティストとして選手の治療やケア、プロアスリートのマウスガード作成など、アスリートのパフォーマンス向上を歯科分野からサポートしている。国立新潟大学歯学部卒業。ICOI国際インプラント学会指導医、iACD国際歯科学会日本理事、一般社団法人日本口腔ケア学会 評議員、ニューヨーク大学日本プログラム指導医。
「もう二度となりたくない」三浦孝太が語る過去のケガの真相と身体を守る方法

菊地先生
子どもの頃は、どのようなスポーツをされていましたか?
三浦選手
物心がついた時から中学生まで主にサッカーをしていました。小学校の卒業アルバムにも「将来の夢はサッカー選手」と書きましたが、正直強い思い入れはありませんでした。中学に入る頃に「自分は何がしたいのだろう」と考えるようになり、格闘技を最初に趣味で始めてみました。ほかにも趣味程度に野球や水泳もやりましたが、本気でやりたいと思えたのは格闘技だけでした。
菊地先生
格闘技一本に絞ったきっかけや理由はほかにもありましたか?
三浦選手
格闘技を始めたことで精神的に落ち着くようになりました。小さい頃は感情のコントロールが苦手でカッとなりやすい性格でしたが、格闘技を通じて自分の感情をコントロールできるようになり、心が強くなったことを実感しました。その後プロの道があると知り、人前で戦うことを仕事にしたいと思うようになりました。
菊地先生
高校生の頃にヘルニアになったことがあると聞きましたが、当時の状況について教えてください。
三浦選手
高校時代も実は格闘技に夢中で、サッカーはほとんどしていませんでした。当時通っていたジムは指導者も少なく、スパーリング(実戦に近い形の練習)を中心におこなうジムでした。その中でレスリングの技をかけられて腰に激しい痛みが走り、バキバキと音がしたことを覚えています。
菊地先生
格闘技をすることに恐怖心はなかったのですか?
三浦選手
スパーリングの相手がレスリングの世界チャンピオンでしたが、当時は怖いもの知らずで、格闘技を深く知らないからこそ恐怖心も無いような状態でした。
菊地先生
すぐに練習を中断し治療を受けたのですか?
三浦選手
気にせず練習を続けていましたし、しばらく病院にも行かず放置していました。しかし、徐々に足が痺れ始めたので、これはおかしいと思い、病院で診てもらうと腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。サッカー推薦で入学していたため、サッカー中にケガをしたことになっていますが、実は格闘技が原因でした。
菊地先生
そうなのですね。足の痺れは腰椎椎間板ヘルニアの神経症状としてよくみられます。典型的なのはヘルニアが原因となって起こる坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)という症状です。坐骨神経とは、腰からお尻、太ももの裏、膝の裏を通って足先まで伸びている神経で、足の動きや感覚に深く関わっています。この神経が圧迫されると、お尻から太ももの裏にかけて痛みや痺れが現れる場合があります。ヘルニアが進行すると、排尿障害などの症状が現れることもあり、日常生活への影響大きくなります。最終的にヘルニアの治療はされたのですか?
三浦選手
スポーツを続けたいなら手術が必要だと言われ、診断から1ヵ月ほどで手術をしました。今考えるとあり得ないことですが、手術までの1ヵ月間、刺激をし続ければ、ヘルニアの部分が完全に飛び出して症状が改善するのではないかという発想で、ヘルニアの部分を刺激し続けていました。その結果、痛みと痺れが悪化し5分間同じ姿勢を取ることさえ辛くなってしまいました。
菊地先生
かなりつらい状態まで悪化されたのですね。人の背骨は頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個で構成されており、骨と骨の間にある椎間板はクッションの役割を果たしています。過剰な負荷がかかると、この椎間板が後方に飛び出し、神経を圧迫する状態が椎間板ヘルニアです。腰に起きた場合を腰椎椎間板ヘルニアと呼びます。
三浦選手
もう二度とヘルニアにはなりたくないと思っています。腰椎椎間板ヘルニアになりやすい人に特徴はありますか?
菊地先生
腰に負担のかかるような力仕事をしている人や、姿勢が悪いまま長時間の運転やデスクワークをする人はリスクが高いと報告されています。
三浦選手
治療方法は手術以外にもありますか?
菊地先生
大きく分けて保存療法と手術療法があります。保存療法は私たち柔道整復師の得意とする分野で、手技療法や物理療法などが含まれます。これらは症状の緩和や良い状態を維持するための施術方法です。痛みが中心の症状なので、痛みを軽減、緩和する薬物療法やブロック注射などの治療方法がまず行われるのが一般的な治療となります。
三浦選手
腰のほかに首も痛めたことがあります。特に格闘技では首や腰はケガをしやすいですし、僕の場合は身体も硬いため、首や腰を痛めやすいと思っています。
菊地先生
格闘技選手の場合、首を絞めるような技や頭部への打撃によって、首を痛める選手が多くいます。さらに、三浦選手も経験された拳の骨折も非常に多いと思います。中手骨の骨折でボクサー骨折とも呼ばれる骨折です。
三浦選手
そうなのですね。基本的には練習中にケガをすることが多いのですが、拳の骨折は初めて試合中に負った大きなケガで、アドレナリンも効かず、折れたことがすぐにわかりました。人差し指側の中手骨の骨折でしたが、今でも骨折した部分は盛り上がっています。
菊地先生
ボクサー骨折は小指側の中手骨が折れる場合が多いですが、人差し指側の中手骨の骨折は、特にパンチ力が強い選手に多く見られます。
三浦選手
総合格闘技の場合はボクシングと違い、組み技があるため、試合の時はグローブの中に巻くバンテージを薄く巻く点も影響したのかと思います。トレーニングの時から骨折のリスクを意識する必要があるのだと勉強になりました。
菊地先生
試合でケガをしないために普段から心掛けていることや取り組んでいることはありますか?
三浦選手
格闘技とほかのスポーツの一番の違いは、相手を壊す競技である点だと思います。自分で自分を壊すことは最も避けるべき事だと思うので、身体をケアすることは心掛けるようにしています。リフレッシュのためにマッサージやサウナに行くこともありますし、ストレッチは入念にするようにしています。また、疲労を感じた時にはしっかり休息を取ることも意識しています。
菊地先生
ケアの方法としては間違いないと思います。ストレッチに関しては、股関節の可動域が小さいと腰の動きでカバーしてしまうこともあるので、股関節周りのストレッチは重要だと思います。休息に関しては、真面目な選手ほど嫌がる場合があります。疲労やダメージが蓄積すると疲労骨折のリスクも高くなりますし、休息を取らないことはケガのリスクを高めてしまいます。違和感や痛み、疲労を感じた際には休息を取ることがとても重要です。
三浦選手
とても勉強になりました。ありがとうございました。
三浦孝太が明かす「歯が動く」試合の衝撃と格闘家が実践する歯の守り方

白井先生
格闘技中に歯を損傷した経験はありますか?
三浦選手
歯が折れた経験はありません。試合で首を絞める技をかけられた時に顎を引いて防御することがありますが、そのときに強く圧迫されて歯がギシギシと音を立てたり、動いたりする感覚があります。歯はどの程度の力が加わると損傷するのでしょうか?
白井先生
通常、食事中の噛む力は20〜40kgほどですが、意識的に思いきり噛んだ時は80〜100kgに達します。これを超える力が加わると、歯の表面に亀裂が入ったり、歯の表面のエナメル質が摩耗したりする可能性があります。その結果、最終的に歯が折れてしまう、むし歯になりやすくなるといったリスクが増加します。
三浦選手
実際に歯が折れたり、歯がずれて噛み合わせが悪くなったりする選手もいるようですが、歯並びや噛み合わせにも影響はあるのでしょうか?
白井先生
確かに格闘技やサッカーなどほかの選手とぶつかるようなスポーツは、瞬間的に強い衝撃が加わることで歯が折れる選手は多いと思います。特に前歯は構造的に薄いので、欠けやすいと言われており、脱臼と言って歯の根っこごと抜けてしまう場合もあります。
三浦選手
抜けた歯を再び戻すことは可能なのでしょうか?
白井先生
抜けた歯の状態にもよりますが可能です。歯根膜という膜が乾燥して細胞が死んでしまわないように生理食塩水などにつけた状態で、早期に歯科医院で歯を元の位置に固定することで、生着の可能性は高くなります。実際にサッカーの競り合いなどで前歯が抜けてしまいグラウンドを皆で探したという場面もありました。
三浦選手
一瞬の衝撃で損傷することはなくても、小さな衝撃が長期的に加わることで歯が損傷する場合もあるのでしょうか?
白井先生
スポーツ選手のように、長期間にわたる反復的な食いしばりをすることも歯には大きな負担になります。小さなひび割れが重なってむし歯や歯が折れる原因になることがあります。また、噛み合わせの強く当たる部位はリスクが高く、最終的に神経を取るような大きな治療が必要になる場合もあります。格闘技をする際はマウスピースを必ず着けると思いますが、どのようなものを着けていますか?
三浦選手
基本的には歯科医院でオーダーメイドのものを作っています。素材は詳しくないですが、奥歯の部分を少し削って呼吸しやすくしたものがあるようで取り入れています。半年に1回の頻度で作り直し、試合の規定で2個は持参する必要があるので、常に複数持っています。歯を守るためにも、攻撃の時に食いしばるためにもマウスピースは大事だと感じています。マウスピースを着けているかどうかで恐怖心も違いますし、パフォーマンスにも影響していると思います。
白井先生
最近はジュニアアスリートでもマウスピースを使用する方が増えています。市販のマウスピースもありますが、変形しやすい点やフィット感が劣るなどのデメリットがあります。オーダーメイドの場合は、噛み合わせの位置を正確に確認しながら厚みを調整したり、素材を変更したりすることでその人に合ったマウスピースを作成できます。
三浦選手
格闘技のマウスピースは、サッカーでいうとスパイクと同じくらい大事なものなので、こだわって作っている選手が多いのではないかと思います。実際に、練習用のマウスピースを作ったとしても、3ヵ月ほどするとフィット感が劣ると感じたことがあるのですが、どのような影響が考えられますか?
白井先生
三浦選手は、寝ている間の歯ぎしりを指摘されたことはありますか?
三浦選手
ありません。
白井先生
そうすると、三浦選手の場合は、練習や試合の影響でマウスピースが変形していることや噛み合わせが変化していることが考えられます。一方で、格闘技をしていない人の場合は、夜間の歯ぎしりが歯に悪影響を与えている可能性もあります。
三浦選手
具体的に、歯ぎしりは歯にどのような影響があるのでしょうか?
白井先生
起きている時には、過度な噛みしめに対して瞬間的な制御で、過剰に力が入らないようになっています。しかし、睡眠中はこの制御が効かず、意識下の3〜5倍の噛む力が出ると言われています。そのため、歯の表面が摩耗したり、気づかないうちにひびが入っていたりすることが多くあります。また、歯を支える骨が緩むことで、歯周病が悪化する可能性も高まります。
三浦選手
そのような影響があるのですね。ちょうど、夜間のマウスピースを作ろうかと考えていたのですが、歯を守る方法として有効でしょうか?
白井先生
歯を保護するためにとても有効だと思います。夜間のマウスピースは保険適用で作成することができ、噛んだ時の力を分散させること、咬筋という噛む時に使う筋肉の発揮を弱くすることなどが可能です。
三浦選手
そうなのですね。歯を守るためにマウスピースは本当に重要だと改めて感じました。正確な根拠があって取り組んでいるわけではないですが、歯磨きはかなりこだわっていて、一日に何回もおこないます。歯磨きをする度に歯が折れていないか、歯並びが変化していないかなどは確認することを意識しています。
白井先生
とても素晴らしい取り組みだと思います。ぜひ、歯に関する予防やケアを続けていただきたいと思います。
三浦選手
ありがとうございます。とても興味深いお話を聞くことができました。今後は海外での活動も増やしていきたいと考えていて、日本の文化や素晴らしさ、格闘技の良さを自分が戦うことを通じて多くの人に広め、自分にしかできないことをこれからも続けていきたいと思います。そのためにも、今後も身体のケアと歯のケアどちらも続けていきたいと思います。
編集部まとめ
格闘家として戦い続ける中で、自らの身体に真摯に向き合う三浦選手の姿勢から予防とケアの大切さが伝わってきました。日常生活でも見過ごされがちな噛みしめや姿勢の悪さも放置すれば大きなリスクに繋がりかねません。だからこそ、小さな違和感を見逃さず、専門家の助言のもと、自分の身体を守る習慣を身につけることが重要です。本記事が読者の皆様にとって自身の身体を見つめ直すきっかけとなりましたら幸いです。
※本記事はメディカルドック医療アドバイザー 和田啓義医師(整形外科専門医)の監修のもと制作しております