【矯正歯科医師が解説】大人と子どもの歯列矯正で治療法・装置・費用はどう変わる?
歯列矯正というと、かつては「子どものための治療」と思われていましたが、近年は大人になってから矯正治療をはじめる方が増えています。大人と子どもとで歯列矯正にどのような違いがあるのか、それぞれのメリットや費用、治療期間などをしぶたに矯正歯科の渋谷先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
渋谷 直樹(しぶたに矯正歯科)
目次 -INDEX-
歯列矯正は大人と子どもで目的・費用・治療期間が変わる? それぞれの歯並び治療の特徴について
編集部
同じ歯列矯正でも、大人と子どもとで何か違いがあるのでしょうか?
渋谷先生
大人も子どもも歯列矯正のゴールは「永久歯の歯並びを100点にすること」です。ただ、両者はそこに至るまでのプロセスが異なります。大人の場合はすでに生えている永久歯を決められた枠組みの中で動かすのに対し、子どもの場合は乳歯から永久歯に生えかわる際に、永久歯が正常な位置に生えるように誘導します。
編集部
そうすると、子どもの歯列矯正は「永久歯が生えそろう前」に行うものなのですね。
渋谷先生
大まかに言うとそうです。「子ども」というと通常は中高生も含まれますが、歯列矯正における「子ども」というのは永久歯がすべて生えそろう前のことを示します。年齢的に言うと6歳前後から12歳頃までです。この時期の歯列矯正を「1期治療」と呼んでいますが、子どもの1期治療は顎の位置や大きさ、形を整えながら、永久歯をできるだけよい歯並びの状態に導くことができます。
編集部
では、子どもでも「永久歯が生えそろった後」は大人の歯列矯正と目的や方法が変わらないということでしょうか?
渋谷先生
12歳臼歯(第二大臼歯)が生えそろうまでは、顎の成長を誘導しながらの治療となります。ただ、12歳臼歯が生えそろった以降は成長があまり期待できないため、今ある顎の大きさに合わせて歯を動かすという意味では大人の歯列矯正と同じプロセスといえます。
編集部
歯列矯正にかかる期間は大人と子どもで違いはありますか?
渋谷先生
「子どもの歯列矯正」の期間は永久歯列が完成するまでなので、治療を開始したタイミングに左右されますが、最長で小学低学年から12歳ころまでの4年程度です。さらに、子どもの歯列矯正から大人の歯列矯正に移行した場合は、トータル6、7年の期間になります。
編集部
4年から7年というと、割と長くかかるという感じがします。
渋谷先生
確かに「長い」と感じますが、永久歯の歯並びで100点を目指すなら、子どものうちに歯列矯正を始めたほうが永久歯の歯列矯正の期間が短くなる可能性が高いでしょう。永久歯列が完成した後のいわゆる「大人の歯列矯正」は治療による負担も大きいのに対し、子どもの歯列矯正は装置も取り外し式のものが多いので治療の負担も少なくなります。このような意味で、子どものうちに準備をしておいて、大人の歯列矯正の期間を短くするのが子どもの歯列矯正のメリットといえます。
編集部
費用面は大人と子どもの歯列矯正で違いはありますか?
渋谷先生
こちらはケースバイケースで、歯科医院によって、あるいは患者さんの目指すゴールによって異なります。子どもの1期治療で歯並びに満足できれば、大人になって歯列矯正を始めるより費用は安いでしょう。ただし、次の2期治療(永久歯列の治療)に進んだ場合はトータルの治療期間が長くなるので、大人の歯列矯正のみで治療するよりも費用が高くなる場合もあります。
小児矯正と成人矯正は使う装置も違う? ワイヤー・マウスピースなど装置の種類について
編集部
大人と子ども(1期治療)の歯列矯正は、治療の方法や装置も違うのでしょうか?
渋谷先生
子どもの1期治療では主に取り外し式の装置を使用します。顎の成長をうながす装置なので、夜寝るときだけの装着でも一定の効果が得られます。これに対し、すべての歯が永久歯に生えかわった2期治療と大人の矯正治療は治療法や使用する装置がほぼ同じです。代表的な装置には固定式のマルチブラケット装置(ワイヤー矯正)や、透明で取り外しができるマウスピース型矯正装置(マウスピース矯正)があります。
編集部
子どもの1期治療で使用する代表的な装置を教えてください。
渋谷先生
1つは「拡大床」という装置です。取り外しができる装置で中心にネジがついており、そのネジを回すと少しずつ顎の幅を広げる仕組みになっています。同じく取り外しができる装置では、既成のマウスピース型装置も代表的です。こちらは歯並びに影響するお口周りの筋肉や舌の動きを正常にして、歯並びを整える効果があります。
歯列矯正を始めるタイミング 歯並びは「子ども」のうちに治しておくべき? 大人は何歳まで治療ができる?
編集部
歯列矯正は大人になってからではなく、子どものうちにはじめたほうがいいのでしょうか?
渋谷先生
これは歯科医師によっても意見が分かれます。技術のある先生の中には「大人からでも100点の状態にできるから」という理由で、子どもの矯正治療は必要ないと考える先生方がいらっしゃるのも確かです。ただ、先述のように大人の矯正治療は負担も大きいため、装置が取り外し式で負担も少ないという点で子どもの歯列矯正(1期治療)にはメリットが多いと思います。
編集部
子どもの歯列矯正(1期治療)は、「治療による負担が少ない」という点がポイントなのですね。
渋谷先生
はい。また、永久歯を100点の歯並びにしたい場合に、1期治療から始めると抜歯の可能性が少なく、固定式の装置の期間(2期治療)も短くすむというメリットもあります。もし自分の子どもだったら、このようにできるだけ負担の少ない治療をプレゼントしてあげたいと思います。
編集部
そのほかに、子どものうちから歯列矯正を始めるメリットはありますか?
渋谷先生
子どもは歯ブラシをうまく使えないことがあるので、凸凹が少なくなることで歯磨きがしやすくなり、むし歯や歯周病のリスクも低くなります。また、しっかり噛めるようになるのでご飯が食べやすくなり、身体の成長にも良い影響があると思います。
編集部
ちなみに、子どもの歯列矯正は何歳ごろから始めるのがよいのでしょうか?
渋谷先生
まずは、下の前歯の永久歯が生えてきた段階で一度矯正歯科で歯並びを相談してみることをおすすめします。顎の位置や歯と顎の大きさのバランスを診てもらえば、このままなにもしないとどういう歯並びになるかの予想を説明してもらえるでしょう。その歯並びがもし気にならないようであれば、とくに治療の必要はありません。反対に歯並びを改善したいのであれば、その原因に直接アプローチする方法や、その効果が一番発揮できるタイミングを提案してもらえると思います。
編集部
大人の歯列矯正は、年齢に上限はありますか?
渋谷先生
歯列矯正は基本的に年齢の上限がなく、顎の骨の状態や歯に問題がなければ何歳からでも治療は始められます。ただ、歯周病が原因で歯ぐきが下がっていると、歯の移動でもっと歯ぐきが下がる、あるいは歯ぐきの退縮により知覚過敏になることもあるため注意が必要です。また、骨粗しょう症のお薬を飲んでいる方は歯が動かないこともあるため、ケースによっては治療ができない場合もあります。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
渋谷先生
子どもの歯列矯正は取り外し式の装置で負担が少ない一方で、装置をたまにしか使わないと効果が出にくく、せっかく治療を始めても歯並びが改善しないこともあります。子どもの歯列矯正の多くは保護者の希望により開始されますが、お子さん自身の意思で治療に取り組むことが一番重要です。また、矯正歯科医院を選ぶ際は、お子さんが納得して治療に取り組めるよう、コミュニケーションを大事にしているかどうかもチェックしておきましょう。
編集部まとめ
大人と子どもの歯列矯正は、それぞれに目的やアプローチの方法、使用する装置に違いがあることがわかりました。年齢制限のない歯列矯正は大人になってからでも始めることができますが、子どものうちに治療しておくとメリットも多いようです。歯並びが少しでも気になったら、まずは矯正歯科専門医院に一度ご相談されることをおすすめします。
医院情報
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アクセス | 東急田園都市線駒沢大学駅 徒歩14分 |
診療科目 | 一般歯科、小児歯科、矯正歯科 |