「糖尿病+インプラント手術」のリスクを歯科医が解説 糖尿病でもインプラント治療は可能?
インプラントができない・難しいといわれる持病の1つに、「糖尿病」の名前がよく挙げられます。しかし、糖尿病の持病があるからといって、必ずしも「インプラント治療ができない」というわけではないようです。そこで糖尿病患者のインプラント治療におけるリスクや注意点などを、まつのき歯科クリニックの小松先生に解説してもらいました。
監修歯科医師:
小松 貴紀(医療法人社団 まつのき会)
目次 -INDEX-
糖尿病だとインプラント治療は難しい? 糖尿病患者のインプラント治療にはどんなリスクがある?
編集部
糖尿病の持病があるとインプラント治療は難しいと聞きますが、それは本当でしょうか?
小松先生
「治療が難しい」というよりは、「ほかの患者さんよりも気をつけるべきこと・配慮すべきことが多い」というほうが正しいでしょう。糖尿病患者さんのインプラント治療には、確かにいくつかのリスクを伴います。ただ、気をつけるべきこと・配慮すべきことへの対策を徹底して行えば、糖尿病の持病があってもインプラント治療は不可能ということではありません。
編集部
糖尿病患者のインプラント治療で気をつけるべきこと・配慮すべきこととはどのような点でしょうか?
小松先生
最も配慮すべきは「感染症のリスク」です。インプラント手術は通常の場合でも感染対策をしっかり行いますが、感染リスクの高い糖尿病患者さんの場合は、より一層その点に注意を払う必要があります。
編集部
感染症のリスク軽減のために、具体的にどのような対策が必要でしょうか?
小松先生
例えば、術前の前処置の段階で歯周病治療や口腔内の清掃を徹底的に行い、お口の環境をしっかり整えることも対策の1つです。術前にお口の中の細菌をある程度コントロールしておくことで、傷口に細菌が感染して炎症を起こすリスクを減らすことができます。さらに、インプラントを埋入した後は歯周病(インプラント周囲炎)の対策も必須です。糖尿病の方は歯周病になりやすいため、治療が終わってからも定期メンテナンスで、注意深く経過を診ていく必要があります。
編集部
治療前だけでなく、治療後もお口の環境をきちんと整えることが重要なのですね。そのほかに、配慮すべき点はありますか?
小松先生
糖尿病患者さんの歯科治療については、医科との連携も重要です。インプラント手術に際しては糖尿病担当医の先生と連携を図りながら、「きちんと血糖値がコントロールされているか」「手術をしても大丈夫か」などを確認していきます。
糖尿病でも安心してインプラント治療が受けられる目安は? 血糖値やHbA1cの値がどのぐらいだったら安心できる?
編集部
先述の「血糖値のコントロール」について、インプラント治療が受けられる血糖値の基準や目安などがあれば教えてください。
小松先生
日本口腔インプラント学会のガイドラインでは、インプラントの埋入手術ができる目安として「空腹時血糖が140mg/dL以下」「HbA1c6.9未満」という数値を挙げています。ただ、これはあくまで学会が定める基準の1つであり、この数値から外れたら絶対にインプラント治療ができないということではありません。
編集部
検査値はあくまで基準の1つで、それだけで治療の可否が決まるわけではないということですね。
小松先生
はい。もちろん、一定の境界を設けることは必要ですが、だからといって「HbA1cが7.0だったらやってはいけないのか」というと、そうではないと考えます。先ほどお話ししたように、重要なのは糖尿病で起こりうるリスクに対して十分に配慮することであり、その点をきちんとおさえておけば糖尿病の方でも良好な予後が得られます。
糖尿病患者がインプラント手術を受ける際の注意点 術前・術後で気をつけておきたいことは?
編集部
糖尿病患者がインプラント手術を受ける場合、術前に注意しておきたいことは何ですか?
小松先生
繰り返しになりますが、「歯周病治療で歯ぐきの炎症をコントロールすること」「クリーニングで可能なかぎり汚れを落としておくこと」が術後の感染予防につながります。くわえて、日本外科感染症学会のガイドラインでは、術後感染予防として抗生物質の術前投与を推奨しています。
編集部
つまり、インプラント手術の前に抗生物質を飲んでおくということでしょうか?
小松先生
はい。歯科ではこれまでも、抜歯を含めた外科処置においては術後に抗生物質を投与していましたが、日本外科感染症学会では術前の服用を推奨しています。ガイドラインではインプラント埋入手術の1時間前に抗生物質を服用することで、術野の感染予防を優位に抑えるというデータも示されています。
編集部
そのほかに、術前に気をつけておきたいことはありますか?
小松先生
手術当日は空腹を避けるためにしっかりご飯を食べておくほか、インスリン注射や血糖値を下げるお薬もいつも通り服用してください。持病をお持ちの方の中には、「あまり食べないほうがいいのでは?」「薬はやめたほうがいいのでは?」などご自身で判断される方もいらっしゃいます。しかし、そういう配慮はとくに歯科医から指示がなければ不要ですので、食事もお薬の服用も通常通り行ってください。
編集部
糖尿病患者はインプラント手術後はどのような点に注意したらよいでしょうか?
小松先生
術後しばらくは傷口を安静に保ち、歯科医から指示があるまでは歯ブラシを当てるのも控えるようにしてください。糖尿病についてよく調べている患者さんは、自身の感染リスクが高いこともよくご理解されています。一方で、そのような患者さんの中には「感染を起こしたら大変だ」と傷口を一生懸命磨こうとされる方も少なくありません。しかし、術後まだ間もない時期に歯ブラシでゴシゴシ磨いてしまうと、傷口が開いてかえって感染リスクを高めてしまいます。したがって、担当医がOKを出すまでは傷口にむやみに触らないようにしてください。
編集部
そのほかに、術後の注意点があれば教えてください。
小松先生
こちらも基本的なことですが、術後に出される抗生物質は症状の有無にかかわらず、最後まで飲み切るようにしてください。抗生物質は最後まで飲み切ってはじめて効果を発揮します。したがって、腫れが少ない・飲みたくないなどの理由で服用を中断しないよう注意しましょう。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
小松先生
今は何かしら全身疾患を抱えている・持病を持っているのが当たり前のようになっている時代なので、「持病があるから」という理由で治療をためらう必要はないと考えます。大切なのは、自分の持病の状態をよく理解したうえで、時間はかかってもしっかり治療してくれる歯医者さんを見つけることです。糖尿病でも安全に治療を進めるためには、医科の先生との連携や手術前の前処置(歯周病治療・クリーニング)などで通常よりもやはり時間がかかってしまいます。ただ、それは糖尿病で起こりうるリスクを軽減するための配慮であることをよく理解しておきましょう。
編集部まとめ
糖尿病の持病があっても、術前・術後の感染リスクに対する配慮を十分に行えば、糖尿病の方でもインプラント治療が可能なことがわかりました。ただ、感染リスクの軽減のためには、血糖値のコントロールをはじめ、術前の歯周病治療やクリーニングでお口の環境を整えておくことが重要になります。糖尿病だからといってインプラントをあきらめる必要はありませんが、治療を行う際は感染リスクにしっかり対応してくれる歯医者さんを選びましょう。
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