インプラントができない人の特徴を歯科医が解説 奥歯・前歯で違う? 治療できない場合の理由とは
歯を失った際の治療のひとつ、「インプラント治療」。入れ歯やブリッジに続く「第三の治療」として、大きな注目を集めています。しかし、誰でもインプラント治療を受けられるものではなく、なかにはインプラント治療が適さない人もいます。一体、どのような基準でインプラント治療の可否が決まるのでしょうか。喜田歯科医院院長の喜田先生にMedical DOC編集部が話を聞きました。
※写真はイメージです(以下同)
監修歯科医師:
喜田 晃一(喜田歯科医院)
目次 -INDEX-
歯科医院でインプラントができないと言われるのはどんな人? 歯ぐき・歯周病・糖尿病・骨などが主な原因
編集部
インプラント治療ができない人もいると聞きました。なにが原因ですか?
喜田先生
インプラント治療が適さないと判断するには、いくつかの原因があります。まずは、顎の骨が不足しているケースが挙げられます。
編集部
歯の骨が不足しているというのは、どういうことでしょうか?
喜田先生
そもそもインプラント治療は、人工の歯を歯ぐきの内側にある骨「歯槽骨」に埋めこむ治療です。しかし、歯槽骨が薄かったり脆かったりする場合は、インプラントを埋め込むことが困難となります。いってみれば、地盤がゆるいところに家を建てるようなものです。インプラントを埋め込んでもすぐに抜けてしまったり、不具合が起きやすくなったりします。
編集部
ほかには、インプラント治療ができない原因にはどのようなものがありますか?
喜田先生
治療が必要な歯周病やむし歯がある場合も、インプラント治療は控えたほうがいいでしょう。歯周病やむし歯があると、インプラントの治療中に感染を引き起こし、インプラント周囲炎が起きるリスクが高くなります。
編集部
ほかにも、インプラント治療が不可能なケースはありますか?
喜田先生
全身の病気がうまくコントロールされていない人も要注意です。糖尿病や高血圧、骨粗しょう症があると、インプラント治療が難しくなる場合もあります。また、喫煙習慣のある人もインプラント治療は困難です。
編集部
インプラント治療を行うには、さまざまな条件があるのですね。
喜田先生
そのほか、精神疾患のある人、非常に神経質な人、歯科医師との信頼関係が確立されていない人、インプラント治療後に自分で口腔ケアができない人(リウマチやパーキンソン病なども含む)は、インプラント治療を行う前に、かかりつけ医とよく相談することをお勧めします。
インプラントができない場合の主な理由 前歯・奥歯、歯ぐきなどのケースで歯科医が説明
編集部
前歯や奥歯など、どの歯を治療するかによってもインプラントの難易度は変わるのですか?
喜田先生
ケースバイケースですが、一般に、前歯のインプラント治療は難易度が高いとされています。前歯は奥歯に比べて顎の骨が薄く、痩せやすい傾向にあります。前歯のインプラント治療の場合、顎の骨にインプラントを埋め込むことになるので、その土台が薄いと埋め込むのが困難なのです。
編集部
ほかに、前歯のインプラント治療が難しい理由はありますか?
喜田先生
審美的な難しさもあります。前歯は笑ったときなどに、一番人の目に触れやすい部分。そのため、噛み合わせなど機能面だけでなく、審美的にも高度な技術が求められます。
編集部
そうなると、奥歯は前歯に比べると簡単なのですか?
喜田先生
いいえ、必ずしもそういうわけではありません。特に、上顎の奥歯はインプラント治療が難しいとされています。
編集部
それはなぜですか?
喜田先生
下顎の骨に比べて、上顎の骨は少し柔らかいという特徴があります。つまり、インプラントを埋め込む地盤が緩いということになります。そのため、上顎の奥歯は難しいとされています。
編集部
なるほど、骨の硬さで違うのですね。
喜田先生
それから、目の下には「上顎洞」という空洞があります。上顎の奥歯の骨は、ほかの部分に比べてもともと骨が薄く、奥歯を失うとこの上顎洞が広がり、ますます骨が薄くなってしまいます。その結果、骨が不足してしまい、インプラントを埋め込むことが難しくなるのです。
インプラントができない人が歯科治療を受けるための対処法は? 骨が足りない人はどうする?
編集部
歯科医院で「インプラント治療ができない」と言われた場合には、どうしたら良いのでしょうか?
喜田先生
必ずしもあきらめる必要はありません。まず、骨が不足している場合には口の中の状態に応じて、人工骨や自家骨を使って骨を作る治療「骨造成」などを行うこともできます。
編集部
歯周病やむし歯の場合は、どうしたら良いのでしょうか?
喜田先生
まずは歯周病やむし歯の治療を行います。その後にインプラント治療を行いましょう。
編集部
糖尿病など、全身疾患が問題の場合はどうしたら良いのでしょうか?
喜田先生
全身疾患の状態によっても異なります。たとえば、糖尿病の患者さんがインプラント治療を受けるには、日本口腔インプラント学会の基準に則ると、HbA1cの値が7.0未満であることが必要になります。また、かかりつけの医師と相談して、しっかり全身疾患のコントロールを行うことが必要です。
編集部
前歯や上顎の奥歯の場合はどうしたら良いのでしょうか?
喜田先生
前歯でも骨が薄い場合には骨造成を行うなどの処置をすれば、インプラント治療を受けることは可能です。また、条件によっては、抜歯即時埋入(抜歯あるいはインプラント除去と同時に抜歯窩[ばっしか]に埋入するインプラントのこと)や早期埋入(抜歯後1 ~4週後の抜歯窩周囲の軟組織が治癒した状態、あるいは抜歯後12~16週後の抜歯窩に部分的に骨が形成された状態でインプラント体を埋入すること)などのオプションもあります。また、上顎の奥歯の場合は、骨の高さに応じて短めのインプラントを埋め込んだり、自家骨や人工骨を使用し、インプラント治療を行ったりすることでできる場合もあります。ですから、諦めずに信頼できる歯科医師に相談してほしいですね。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
喜田先生
インプラント治療は患者さんの口のなかだけでなく、全身的な問題や患者さんの背景などさまざまな要因が影響してきます。もし「自分はインプラント治療ができるのだろうか」とご心配なら、信頼できる歯科医師に一度相談してみると良いと思います。ただし、必ずしもすべての患者さんにとって、インプラント治療が最善であるというわけではありません。年齢、職業、生活習慣、ライフステージなどによっても、インプラント治療を行うべきかどうかの判断は異なります。そのあたりの点も含め、歯科医師によるカウンセリングを受けることをおすすめします。
編集部まとめ
インプラント治療が日本で普及してから、まだそれほど長い年月が経過しているわけではないということもあり、一般の方が治療について熟知するには情報量が不足しているという現状もあります。もしインプラント治療をしようか迷っている場合は、ぜひ、信頼できる歯科医師に相談してみましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |