「根管治療で歯を残す or 抜歯」、その境目をどう見分ければいいのか
歯を支えている根っこである「根管」まで、むし歯が進行してしまうと厄介です。内部のむし歯を削れば歯は薄くなり、支える力が弱くなってしまいます。そこで、根管治療のほかに抜歯してインプラントやブリッジ、入れ歯などの人工物を補うという治療選択肢が考えられますが、この選択は現在の歯の状況によって決まるのでしょうか。「葛西駅前あなたの歯医者さん」の久保田先生が回答します。
監修歯科医師:
久保田 達也(葛西駅前あなたの歯医者さん 院長)
日本大学歯学部卒業、日本大学大学院歯学研究科応用口腔科学分野修了。その後、日本大学歯学部付属歯科病院歯周病科入局、複数の都内歯科医院に勤務。2021年、東京都江戸川区に「葛西駅前あなたの歯医者さん」を開院。生涯健康で再治療の少ない治療を心がけている。歯学博士。日本歯周病学会認定医。日本臨床歯周病学会、日本口腔インプラント学会、日本顎咬合学会、日本抗加齢医学会、インプラントのスタディークラブOJの会員。
根管治療と抜歯の違い
編集部
まず、「根管治療」と「抜歯」の関係がイマイチわからないので教えてください。
久保田先生
わかりました。根管治療は簡単に言えば、歯の根っこの奥までむし歯が進行していたとしても、綺麗に掃除して“歯を抜かずに”治していきましょうという治療方法です。ただし、痛みにより神経を抜いてしまうと、歯の構造はもろくなるため、破折・破損が起きやすくなることがあります。
編集部
一方の抜歯は、文字どおり「歯を抜く」ということですね?
久保田先生
はい。そして抜歯後、入れ歯やインプラントのような補綴(ほてつ)物で補うのも、治療選択肢の1つでしょう。インプラントなら、一般的に破折・破損リスクは少ないですし、噛む機能もほとんど失われません。
編集部
そこで本題です。根管治療をしても残せない歯があると思うのですが?
久保田先生
「根管治療をしても残せない歯」というより、「きちんと処置しておかないと、治療後に再感染して再び削ることになる歯」があるということです。根管治療が不十分でむし歯菌が残ってしまったり、処置後の詰め物や被せ物の隙間から菌が侵入したりすると再感染が起こります。そして、保険診療を前提とすると、「日本国内の根管治療の成功率は30~50%」というデータも出ています。>
編集部
つまり、症例が問われるのではなく、根管治療の質で決まるということですか?
久保田先生
そうだと思います。とくに、1回目の根管治療が最も重要です。再発が防げれば、繰り返して歯の内部を削る必要はありません。逆に、根管治療を繰り返していると、どうしても歯が薄くなってしまいます。そして、噛む力で歯が割れてしまうと、原則として抜歯になります。割れた歯をくっつけて戻す方法もありますが、長期的に保つかどうかは不明です。
治療の選択はどうすればいい?
編集部
「抜歯するしかない」の判断は、歯科医師によって差が出ませんか?
久保田先生
たしかに、出てしまうと思います。「歯を残す」治療、つまり保存治療が得意な歯科医師ほど、歯を抜かずに残そうとすると思います。他方で、例えばインプラントが得意なドクターなら、「歯を残すことの方がリスク高い」と考えるかもしれません。ただし、歯周病菌が顎の骨の奥にまで至ると、インプラント治療そのものが大きなリスクになる場合もあります。
編集部
ということは、セカンドオピニオンを受けておくべきですよね?
久保田先生
可能性を探るという意味で、セカンドオピニオンを受けてもいいでしょう。また、個人的には患者さんの年齢も関係してくると思います。一般に、高齢者ほど免疫力が低下して全身疾患リスクを増やし、インプラント治療が難しくなる場合もあります。一方、若ければまずは保存治療を試みて、その歯が抜歯になった場合、インプラントを視野に入れるといいと思います。
編集部
治療を選択するうえで、年齢以外に考慮した方がいい項目はありますか?
久保田先生
患者さん自身の価値観も関係します。歯は一度抜いたら元に戻らないため、どうしても残したい人もいるでしょう。患者さんが描く「自分の体の一部を残したいか、あるいは捨て去ることにためらいがないか」という価値観によって、変わってくると思います。
編集部
加えて、費用の問題もありますよね?
久保田先生
はい。根管治療はとても技術力を必要とする歯科治療の一つです。根管治療を専門に根管治療のみをおこなっている先生も多くいます。毎日、根管治療のみをおこなっている専門の先生と一般の先生では、当然、技術や知識に差が出てくるでしょう。そうした確かな技術や知識、経験、最先端の材料を駆使するには費用がかかると思います。もちろん、最終的に保険で進めるのか自費にするのかは、患者さんの判断にお任せしています。
根管治療を検討する際に知っておきたいこと
編集部
結局、年齢や価値観、費用などを考慮したうえで、患者側がどうしたいかによって決まるのですね。
久保田先生
そういうことになります。「根管治療 VS 抜歯」の比較に限らず、全ての治療選択肢の比較に言えることかもしれません。理想的なゴールがあって、次に「どうしたいか」価値観の部分があって、最後に「それが可能なのか」を模索する順番が本来のあり方です。そのとき、歯科医院や歯科医師の技術によって「対応可か不可」が分かれるということです。一般的には、重篤な症状ほど治療選択肢は少なくなってきます。
編集部
そして、保存治療のエキスパートほど、歯を残せる可能性は高まると?
久保田先生
そうなりますが、どうしても無理なものは無理ですけどね。ただし、新しい治療方法の登場によって、これまでの常識が覆る場合もあります。その一例が「MTAセメント」という詰め物の一種です。従来の一般的なセメントよりも生体親和性があって密封性もあるため、今まで難しかった歯の保存にも効果的という印象です。
編集部
歯を残したい場合、「保存療法」というキーワードで探せばいいでしょうか?
久保田先生
個人的な感想ですが、「根管治療」に加えて「ペンシルバニア」と「お住まいの地域」で検索をかけてみるのがおすすめです。アメリカのペンシルバニア大学は根管治療の最高峰とも言えるので、そこで学ばれたドクターなら、一定のスキルを有していると思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
久保田先生
根管治療や普通のむし歯治療をはじめる際、今の症状に対して治療方法を検討するだけでなく、将来の可能性も踏まえて検討するのが理想的です。一例として、「カリオグラム」という分析ツールを使うと、患者さんごとに異なる「むし歯因子」が明確にできます。食べ物の種類や食事の回数の関係などもわかりますので、積極的に使用している歯科医院もあります。こうした分析や治療の前後だけではなく治療の経過も、鏡ではなく写真によって説明をおこなってくれる歯科医院が好ましいと考えています。
編集部まとめ
「保存か抜歯か」の2択に、絶対的な正解はないということでした。また、現在の歯の状態は、「過去に受けた治療」で決まる側面もあるようです。とくに根管治療では、再感染リスクが問われます。お話を聞く限り、自費診療による根管治療の方が、歯を長持ちさせてくれそうな印象です。ただし、この印象も人によっては正解になり得ません。
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