顎顔面矯正を始めるのに最適な年齢は何歳まで? 鼻呼吸やいびきなどの改善する可能性も
顎顔面矯正は、ただ歯並びを整えるだけでなく、顎の骨格を調整することで、全身に生じているさまざまな問題を解消できる治療法です。しかし、顎の骨を動かすためには成長期のうちに行うことが必要です。一体、何歳まで治療を行うことができるのでしょうか。中西歯科医院の中西茂先生に教えていただきました。
監修歯科医師:
中西 茂(中西歯科医院 副院長)
2008年北海道医療大学卒業。同大学研修後、もりかわ歯科志紀診療所院長を経て2017年より現職。歯科医院の苦手な人にもわかりやすい治療を徹底。一度治療した歯の再治療を限りなく減らすことを心がける。
顎顔面矯正とはどんな治療? 鼻呼吸の改善などにも期待
編集部
顎顔面矯正とはなんですか?
中西先生
通常の歯列矯正とは違い、小児期に行うことのできる矯正治療です。顎の発育を促進してあげることで、骨格の発育不全で起こるさまざまな障害を改善することができます。また、骨の成長を促進することで結果、歯並びも正しくなります。
編集部
どんなときに行うのですか?
中西先生
上顎や下顎が小さく、歯並びが悪いときに行われます。その他、鼻で呼吸がしづらい、いびきをよくかく、扁桃腺がはれている、中耳炎が続く、夜尿症があるなど、呼吸を改善することで治せるかもしれない問題があるときは、顎顔面矯正の適応といえます。
編集部
いびきや鼻呼吸なども、顎顔面矯正をすることによって治るのですか?
中西先生
はい、治る可能性があります。それだけでなく、鼻呼吸ができるようになることで、全身の免疫力が上がる、猫背が改善する、アレルギー体質が改善する、扁桃腺肥大が改善する、中耳炎や夜尿症が改善する、心肺機能が向上するなど、さまざまな効果を期待することができます。
編集部
なぜ、そのような効果を期待できるのですか?
中西先生
簡単にいえば、顎顔面矯正を行うことによって鼻腔通気がよくなるためです。そのため、さまざまな症状の改善を期待することができるのです。
なぜ、顎顔面矯正を行うと、さまざまな病気も治るの?
編集部
顎顔面矯正を行うと、喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などが治ると聞きました。
中西先生
端的にいえば、喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などは鼻腔通気が悪く、口呼吸をしていることに原因がある場合が多いのです。上顎が小さいと鼻腔容積も狭くなるため、どうしても口呼吸になってしまいます。本来、鼻には湿度や温度を調整したり、異物を除去したりする機能が備わっていますが、口にはそうした機能がありません。そのため口呼吸を続けていると細菌やアレルギー物質が体内に入りやすくなり、その結果、免疫機能を低下させたり、のどに炎症を起こしたり、また、喘息やアトピー性皮膚炎などを引き起こしやすくなったりするのです。そして、のどに炎症を起こすと扁桃腺が腫れてしまい、ますます鼻で呼吸がしづらくなってしまいます。
編集部
なるほど、上顎が小さいことによる口呼吸は、子どもの発育に大きな影響を与えるのですね。
中西先生
それだけでなく、睡眠中も口呼吸をすると寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。その結果、昼間に強い眠気を感じたり、集中力がなくなったり、多動になったり、睡眠時無呼吸になることもあります。
編集部
ほかにも、顎のスペース不足で生じる問題はありますか?
中西先生
そうですね、口で呼吸をする子どもは気道が狭いため、息がしやすいように顔を前に突き出し、気道を広げて呼吸を行います。すると背骨が曲がってしまい、猫背になってしまう子が多いですね。そのほかにも、滑舌が悪くなったり、扁桃腺がはれやすくなったり、むし歯になりやすくなったり、風邪をひきやすくなったり、さまざまなトラブルの原因となります。
編集部
そうした問題を解決するために、顎顔面矯正が有効なのですね。
中西先生
そうです。これは上下の顎の発達不全を改善して、骨格のバランスを整えます。それにより、子どもが本来持っている機能や能力の回復をめざすのです。
顎顔面矯正はどうやって行う?
編集部
顎顔面矯正はどのように行うのですか?
中西先生
口のなかに急速拡大装置という器具を装着し、顎の骨全体を広げていきます。これは薄い金属でできた特殊な装置で、バネを少しずつ調整しながら顎を適切なサイズまで広げていくものです。その他、症状によってはフェイスマスクとゴム牽引を行い、上顎を前方へ成長させることもあります。
編集部
矯正治療が完了するまで、どれくらいの期間が必要ですか?
中西先生
症状にもよりますが、だいたい1〜2年とお考えください。基本的に、器具は1日24時間、装着していただきます。また、12歳で奥歯が生えてくるまでは、経過観察が必要です。
編集部
顎顔面矯正は、顎の発育を利用して治療するとのことですが、何歳まで治療を行うことができるのですか?
中西先生
顎顔面矯正は、顎の発育に合わせて治療を行うので、基本的には5〜12歳くらいまでとされています。特に5〜7歳のころは骨格が成長する時期なので、このときに行うのがベストです。しかし、症状によっては中学生や高校生でも対応できることもあるので、歯科医師にご相談ください。
編集部
一度治療したら元に戻ることはないのですか?
中西先生
通常の歯列矯正と違い、歯を動かすのではなく、骨を成長させるため、後戻りはほとんどありません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
中西先生
通常、乳歯列期や、乳歯と永久歯が生えている混合歯列期に行う矯正治療は、歯を削ったり抜いたりして、歯並びをよくすることを目的にしますが、顎顔面矯正は、骨格そのものを改善することで歯並びだけでなく、さまざまな機能回復も期待できる治療法です。小児期に行える治療法のひとつであり、必ず行わなければならない治療というわけではありませんが、鼻で呼吸ができずに口呼吸をしており、それが原因でさまざまなトラブルが起きている場合は、ぜひ一度近くの歯科で相談してみることをお勧めします。子どもの頃しか行えない貴重な治療法のひとつなので、カウンセリングを受けてみるだけでも、十分価値があるのではないかと思います。
編集部まとめ
歯の矯正治療というと、「歯並びをきれいにして見た目を整える治療」と考える人も多いかもしれませんが、顎顔面矯正はそうした一般的な矯正治療とは異なり、全身の健康を考えるうえでとても大切な治療法です。もし、顎の発達不全に由来するさまざまな問題に悩んでいる方は、一度、歯科医師に相談してみてはいかがでしょうか。
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