【歯科医師に聞く】親知らずの抜歯は必要? 手術の流れとは
親知らずは口のなかで一番奥にあり、さらに、真っ直ぐ生えていないことも多いため、抜歯が大変になることもあります。一体、親知らずの抜歯は本当に必要なのでしょうか。医療法人きしもと歯科医院の岸本博人先生に教えてもらいました。
監修歯科医師:
岸本 博人(医療法人きしもと歯科医院 院長)
1993年大阪大学歯学部卒業、1997年大阪大学大学院歯学研究科歯学臨床系修了(歯学博士)。2001年大阪府高槻市に「きしもと歯科医院」を開院。日本口腔インプラント学会代議員、日本障害者歯科学会会員、大阪口腔インプラント研究会理事。一般歯科全般だけでなく、口腔外科、予防歯科、ホワイトニングなど高品質の医療を提供。「誰でもなんでも気軽に相談できる歯医者さん」として、地域医療に貢献している。
そもそもなぜ、親知らずが生えるの?
編集部
親知らずとはなんですか?
岸本先生
親知らずとは、大臼歯(奥歯)のなかで一番奥に生える歯のこと。正式には第三大臼歯と言い、智歯(ちし)とも呼ばれます。名称の由来は、親知らずの生える時期が遅いことに関係していて、「昔の日本人の寿命は今より短く、生えてくる頃にはもう親がいない」ということにちなんでいると言われています。
編集部
なぜ、親知らずは生えてくるのが遅いのですか?
岸本先生
歯が生えることを萌出(ほうしゅつ)といいますが、親知らずはほかの歯に比べて萌出までの期間が長く必要だからです。大体、親知らずは3歳半~4歳くらいで歯の生成が開始され、12~16歳で歯冠が完成します。それから数年かけ、20歳前後で表面に現れてくるのです。
編集部
親知らずがない人もいますよね。なぜですか?
岸本先生
親知らずはすべて生えると上下左右の計4本、存在することになりますが、なかには、まったく生えてこない人がいますし、「3本生えたけれど、残り1本は生えてこない」という人もいます。最近ではきれいに4本生えている方が少ない印象です。
編集部
なぜ、4本揃っていないことがあるのですか?
岸本先生
もともと親知らずは歯槽骨の中で横向きで形成されます。顎骨が大きく、奥にスペースがある場合は上向きに90度回転して萌出できますが、スペースが足りない場合は、回転できず、骨内、あるいは少し歯冠を出した状態で横向きのままになってしまうのが原因です。
編集部
なぜ、歯が生えるスペースがなくなるのですか?
岸本先生
理由はいくつかありますが、多くの場合、骨格の変化が挙げられます。一昔前と違って、食事情の変化などにより現代人は歯の生えるスペースが不足している人が少なくありません。その場合、最後に生えてくる親知らずが顔を出すスペースがなくなり、出てこなくなるのです。ほかには、遺伝的要因によって、そもそも親知らずが存在しないという場合もあります。
抜いた方が良い親知らずとは?
編集部
親知らずが生えてきたら、抜いた方がいいのでしょうか?
岸本先生
歯科医師によって考え方は異なるかもしれませんが、私は、真っ直ぐに生えていてほかの歯に悪い影響を与えず、しっかり歯磨きが行き届いている場合、噛み合う歯があり、食事をする際に食べ物をすりつぶす役割に参加している場合、あえて抜歯する必要はないと思います。
編集部
それではどのような場合、親知らずは抜いた方が良いのでしょか?
岸本先生
まず、親知らずが真っ直ぐに生えていない場合。横に傾いて生えてきた場合は歯ブラシが届きにくく、むし歯になりやすいので、抜歯をした方が良いでしょう。また歯ぐきのなかに埋まっている場合は、隣の歯を圧迫しやすいので、これも抜いた方が良いでしょう。
編集部
ほかには、どのような場合に抜歯したほうがいいのでしょうか?
岸本先生
親知らずがむし歯や歯周病になっていたり、痛みや腫れがあったりする場合も抜いた方がいいでしょう。痛みや腫れを放置しておくと、歯肉炎や歯周炎の原因になります。また、「上の親知らずだけあって下の歯がない」など、噛み合わせの対となる親知らずがない場合も、噛み合わせの悪さにつながるので、抜いた方がいいでしょう。
編集部
親知らずが口のなかでトラブルの原因となりそうな場合は、抜いたほうが良いということですね。
岸本先生
そうです。それから、親知らずは隣接する歯に影響を及ぼすことがあるので注意が必要です。たとえば親知らずがむし歯になると、隣の歯にも菌がうつり、場合によっては神経の治療が必要なほど、大きなむし歯になることがあります。また、隣の歯との間に深いポケットができ、歯周病が進行するケースもあります。
編集部
そのように、親知らずが周囲に悪影響を及ばさない場合は、抜かなくてもいいのですね?
岸本先生
はい、親知らずが真っ直ぐに生えていて、かつ、上下の親知らずと噛み合っている場合は、あえて抜く必要はありません。万が一、ほかの奥歯を抜かなければならなくなった場合は、親知らずを移植して補填できる可能性もあります。
親知らずの治療はどのように行うの?
編集部
親知らずを抜く場合には、どのように行うのでしょうか?
岸本先生
歯が生えている状況によって、治療法はさまざまです。比較的真っ直ぐに生えていて、ほかの歯とぶつかったりしていないのであれば、簡単に抜歯できます。しかし、斜めに生えていたり、歯ぐきに潜っていたりする場合は、抜歯に時間がかかることもあります。さらに、細菌感染が顎の骨や全身に広がっていたり、4本同時に抜いたりする場合は、全身麻酔が必要になることもあります。
編集部
全身麻酔とは意外です。
岸本先生
ほかにも血液をサラサラにする薬を服用している人は、手術の際に特別なコントロールが必要になるため、大きな病院や専門病院で治療を受けることをお勧めします。
編集部
通常、抜歯はどのように行うのですか?
岸本先生
局所麻酔で行うのが一般的です。臼歯の奥などに麻酔を注射し、痛みを感じないようにして抜歯します。手術の時間は5~10分程度ですが、真横に向いていたり、潜っていたりして歯ぐきを切開する必要がある場合は、30分程度かかることもあります。
編集部
抜歯をするにあたって、注意すべきことはありますか?
岸本先生
当日、血流がよくなると出血が止まらなくなる恐れがあるので、飲酒、タバコ、運動、入浴は避けていただきます。また、抜歯の翌日にもう一度来院し、傷の治り具合や状態を確認させていただきます。術後3日くらい抗生物質を服用し、痛みが続く場合は、鎮痛剤を使用してください。
編集部
親知らずの抜歯は若いうちの方がいいと聞きますが、なぜですか?
岸本先生
親知らずの場合、通常の抜歯に比べて処置時間が長く、痛みや腫れが出やすくなります。そのため、少しでも若いうちに処置した方が、体力があり、回復力もあるので「抜歯は若いうちの方がいい」と言われています。また、高齢になればなるほど、親知らずが骨と癒着したり、歯の周囲の骨が硬くなったりするため、抜歯が難しくなります。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
岸本先生
これは妊娠を考えている女性にお伝えしたいのですが、妊娠をすると、ホルモンバランスの関係から妊娠性の歯肉炎になりやすく、歯ぐきが腫れることがあります。加えて、つわりの時期には歯磨きが辛くなるので、口の中のコントロールが難しくなることもあります。さらに、妊娠中は薬の服用は控えるように指示されるので、万が一、親知らずが痛み出すと大きな問題になりかねません。妊娠を考えている女性は、その前に歯科医師の診察を受けて、親知らずを診てもらうこと。そして抜歯する必要がある場合は、早めに処置することをお勧めします。
編集部まとめ
親知らずはむし歯になりやすいため、抜歯を行う人も多いと思いますが、きちんとまっすぐ生えていて、噛み合わせも悪くなければあえて抜歯をする必要はありません。まずは抜歯をする必要があるかどうか、歯科医院で診察してもらうのが良さそうです。
医院情報
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診療科目 | 歯科、小児歯科、口腔外科 |