保険適用の入れ歯と比較。新技術を使った入れ歯のメリット・デメリット
入れ歯(総義歯)の選択肢のひとつ、最新の技術や素材を使って作られる「上下顎同時印象法総義歯」。従来の保険適用の入れ歯などと違い、上下の歯を同時に型取りして作成します。いったい、上下顎同時印象法総義歯にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。林歯科クリニックの林博之院長に聞きました。
監修医師:
林 博之(林歯科クリニック院長)
1981年日本歯科大学歯学部(現・生命歯学部)、1988年林歯科クリニック開設。総入れ歯・部分入れ歯など入れ歯治療を中心に、審美歯科、インプラント、顎関節症などの治療も行っている。特に、ドイツ式入れ歯の「テレスコープ義歯」を用いた義歯治療には定評がある。常に患者の目線に立ち、平易な言葉を使ってわかりやすく説明する姿勢に、患者からの信頼も厚い。また、長年勤務しているスタッフのチームワークもよく、遠方からも多くの患者が訪れている。
従来の入れ歯との違い
編集部
上下顎同時印象法総義歯とはなんですか?
林先生
従来、入れ歯は上下の歯を別々に型取りして製作し、あとから組み合わせるのが一般的でした。しかし、上下顎同時印象法総義歯は、上顎と下顎を同時に型取りして作る入れ歯のこと。噛み合わせがよく、口のなかにフィットする感覚が強いのが特徴です。
編集部
でも、従来の入れ歯は上下別に作っていたのですよね。
林先生
これまでは、口を開けた状態で上顎と下顎を別々に型取りし、そこへ歯科技工士が人工の歯を並べていくのが一般的な方法でした。なぜなら、残存している歯の状態によって、「まずは上の義歯を作り、下の歯がなくなったら、今度は下の義歯を作る」というように、上下で義歯を作るタイミングが異なるケースが多かったからです。しかしこれでは上下の義歯がうまく噛み合わないことも珍しくありません。そもそも歯は上下が一対になっていますから、本来、入れ歯は上下同時に作ることが望ましいのです。
編集部
上顎と下顎を同時に型取りして作るのが望ましい理由は?
林先生
人間の顎は、上と下でセットになっています。上下がしっかり噛み合わさることで、人間はものをしっかり噛むことができたり、発音したりすることができるのです。
編集部
そこで、上下一緒に義歯を作る「上下顎同時印象法総義歯」が誕生したのですね。
林先生
そうです。上下セットで型採りをする「上下顎同時印象法総義歯」なら、口のなかを精密に再現して義歯を作るため、装着してもずれたり違和感を感じたりすることなく、天然の歯のように使うことができるのです。
「上下顎同時印象法総義歯」のメリット・デメリット
編集部
「上下顎同時印象法総義歯」は、口のなかでしっかりフィットするということのほか、どのようなメリットがありますか?
林先生
上下同時に型取りをすることで口の中を立体的にコピーすることができるというのが、大きなメリット。そのため、筋肉、唇、舌を完璧に再現することができます。
編集部
歯だけでなく、筋肉や唇、舌を再現することが、どのようなメリットになるのですか?
林先生
たとえばものを飲み込むときや話をするとき、人間は、口の周りの筋肉や舌なども使いますよね。「上下顎同時印象法総義歯」では型取りをする際、患者さんにつばを飲み込んでもらいます。その様子の印象を取ることで、口の中の筋肉の様子や唇の形、舌の位置まで正確に再現し、立体的に模倣します。そのため「上下顎同時印象法総義歯」は、ただ「噛む能力」を取り戻すだけでなく、「飲み込む能力」や「発音する能力」も復元できるように設計されているのです。
編集部
ほかにも特徴はありますか?
林先生
型取りをする際の、圧力のかけ方も、一般的な義歯と違います。「上下顎同時印象法総義歯」では、医師が圧力をかけるのではなく、患者さん自身が普段、無意識に行っているのと同じように歯や顎に圧力をかけた状態で型取りするため、自然な圧力が再現されます。また、噛み合わせを記録したり、型取りをしたりする作業を一度に行うので、通院回数が少ないのもメリットといえるでしょう。
編集部
反対にデメリットはありますか?
林先生
保険適用外のため、保険適用の入れ歯に比べて高額になるということです。もちろんその分、保険適用のものに比べて、最新の技術や素材を使って義歯を作りますから、より満足度の高いものを制作できる、というメリットはあります。使い心地を優先するか、費用を優先するかで、保険適用か適用外か、どちらを選ぶか決められたら良いのではないかと思います。
「上下顎同時印象法総義歯」の作り方
編集部
「上下顎同時印象法総義歯」はどのようにして作るのですか?
林先生
まずは石工模型を作って個人トレーを作成し、シリコン素材を使って型取りをします。そこに、上下の歯列、噛み合わせ、唇の形、口腔周囲の筋肉などを精密に記録。型取りをする際にはつばを飲み込んでもらい、嚥下(えんげ)時の筋肉の動きも記録します。
編集部
念入りに型取りをするのですね。
林先生
そうです。その後、フェイスボウという機械を使って、頭蓋に対する上顎の位置を咬合機上で再現できるようにする作業をします。口腔周辺の筋肉や唇の形など、正確に機能を再現できる状態に整えたら、咬合機に付着させて義歯を完成させます。
編集部
製作するには、どれくらいの費用がかかるのですか?
林先生
歯科の立地など、さまざまな要因によって金額には差があると思いますが、やはり、保険適用の入れ歯に比べると高額になります。あくまで参考ですが、およそ80~130万円ぐらいが相場となっています。「上下顎同時印象法総義歯」に、金属を使った鋳造床を加え、さらに強度高めたものだとより高額になります。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
林先生
型取りと噛み合わせの調整を一緒に行うため、「上下顎同時印象法総義歯」は良い状態で歯を並べることができる、というのがメリットになります。2〜3カ月かけて完成させるため、保険適用の入れ歯に比べて若干時間はかかりますが、その分、理想的な入れ歯を手にすることができます。合わない入れ歯を使っていると、「噛めない」「話せない」というストレスにつながるだけでなく、骨の吸収が進み、シワが深くなるなど審美的な問題も出てきます。そのため、自分にぴったりフィットする入れ歯を作ることはとても大切。「上下顎同時印象法総義歯」は、きちんとお手入れすれば生涯、使える入れ歯です。これから作りたいという方は、ぜひ選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
自分に合わない総義歯を使い続けると、「食べられない」「話せない」などのストレスになるだけでなく、頭痛、肩こり、気分の落ち込みなどさまざまな全症状が現れることもあります。機能性や審美性などをバランスよく兼ね備えた、自分にぴったりフィットする総義歯を作りましょう。
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