入れ歯の正しいお手入れ方法ってどうやるの?
入れ歯は外して洗えるだけに、天然歯より多くのメインテナンス方法が考えられそうです。市販の洗浄剤などがその一例でしょう。では、それらのノウハウに、是非や正誤はあるのでしょうか。常識と非常識が錯誤しがちな日頃の入れ歯管理について、「三戸岡歯科医院」の三戸岡先生を取材しました。
監修歯科医師:
三戸岡 直樹(三戸岡歯科医院 院長)
大阪歯科大学卒業。1985年、兵庫県神戸市に「三戸岡歯科医院」開院。以来、30年以上に渡り、入れ歯の研鑽を積み、そのモットーは「10年経っても何も問題ない入れ歯」。日本顎咬合学会認定医。日本臨床歯周病学会、日本歯内療法学会、日本歯周外科学会、日本歯科審美学会、日本アンチエイジング歯科学会ほかの各会員。
自宅でおこなうセルフメインテナンス
編集部
入れ歯のお手入れは、市販の洗浄剤だけで済むものでしょうか?
三戸岡先生
私自身は、入れ歯洗浄剤の使用を推奨していません。なぜなら、入れ歯が薬品で変色してしまう懸念に加えて、場合によっては寝ている間も入れ歯を装着し続けていただきたいからです。寝ている間に歯ぎしりをすると、少なくなった天然歯に強い負荷がかかってしまうケースがあります。その場合は、歯列全体で噛む力を受け止められるよう、入れ歯をつけて寝るのが好ましいです。
編集部
意外ですね。入れ歯のメインテナンスは、どのようにすればいいですか?
三戸岡先生
最低でも1日1回の水洗いを、食後にしていただければ十分だと思います。なお、歯磨き粉を乗せた歯ブラシでのブラッシングは避けていただきたいですね。歯磨き粉に含まれる研磨剤によって入れ歯の表面に細かい傷が付き、摩耗や変色の原因になります。入れ歯専用のブラシを歯科医院などでお買い求めいただいて、水洗いに使用してください。また、ブラシによるメインテナンスは、週2回ほどでいいでしょう。
編集部
その際、お湯で洗った方がいいのでしょうか?
三戸岡先生
入れ歯を洗うときは、体温程度のぬるま湯にしましょう。患者さんの中には「熱湯で消毒しよう」と考えられる人がいますが、熱で入れ歯が変形してしまいます。なお、流水に当てていると、その勢いで入れ歯を落下させてしまいがちです。同じく変形を防ぐ意味から、洗面器に張った水やぬるま湯の中で洗いましょう。
編集部
もちろん、入れ歯は外した状態で洗うのですよね?
三戸岡先生
そのとおりです。患者さんの中には、入れ歯をはめたまま天然歯のブラッシングと同じ感覚で歯磨きする人がいらっしゃいます。しかし、これだと入れ歯と歯ぐきの間の汚れが取れません。入れ歯を取って洗うとともに、外した後のご自身の口の中もきれいにしましょう。
入れ歯そのもののチェックも必要
編集部
入れ歯ケアには、汚れ以外の観点もあると思うのですが?
三戸岡先生
ヒビや欠けなどのチェックですよね。お口にはめた感じの変化も含めて、とても大切な視点だと思います。ただし、ご自分で接着剤などを利用して修理するのは“絶対に”おやめください。接着剤でくっつけた入れ歯を歯科医院に持ち込まれても、かえって修復が困難になります。入れ歯に異変が見られたら、その時点で入れ歯をつくった歯科医院に相談してください。
編集部
ヒビなどはなくて、単に入れ歯の浮きやガタツキを感じたら?
三戸岡先生
痛みが生じていなくても、早々に調整したいですよね。入れ歯が合っていなくて、歯ぐきなどを痩せさせているのでしょう。そのまま放置すると、浮きやガタツキがさらに進行していくと思います。歯科医院で調整しているのに、何度もガタツキが繰り返されるようなら、歯科医院の転院を考慮に入れてもいいと思います。本来、頻繁にガタツキが出るというようなことは、起こらないはずです。
編集部
日々のわずかな変化って、気付きにくそうですね。
三戸岡先生
そうですね。「入れ歯安定剤」を使っていると、なおのこと気付きにくいでしょう。しかし、入れ歯安定剤を塗ったわずかな“厚み”が、絶えずお口の中を圧迫し続けます。これも、じつは「わずかな変化」の一因です。入れ歯安定剤がなくてもフィットする入れ歯をつくっていただきたいですね。
編集部
他方で、急に入れ歯が合わなくなることってあるのでしょうか?
三戸岡先生
糖尿病などの全身疾患にかかっていると、歯ぐきの後退を起こしやすいです。歯科医院ですので全身疾患の診断はできませんが、問診などから疑わしい場合、内科などの受診を促すようにしています。
歯科医院でのメインテナンス
編集部
入れ歯について、歯科医院では何をしてくれるのでしょうか?
三戸岡先生
まずは、ガタツキがあるかどうかを確認します。なお、保険の入れ歯ほど“すり減り”が顕著です。入れ歯の長さが短くなった状態で噛むことを「噛む位置が低くなる」と言いますが、程度によっては作り直ししましょう。また、患者さんの噛みやすい位置ほど、すり減りが顕著です。特定の場所だけ噛む位置が低くなることも、入れ歯のガタツキの原因になります。
編集部
残っている天然歯を削るということは、さすがにないですよね?
三戸岡先生
場合によってはあります。対抗歯のない歯は障害物がないので、どんどん伸び続けます。この高さで噛み合わせをつくるのは、やはり好ましくありません。そのときは、歯を削って調整するケースもあります。逆に、天然歯の歯列が低い場合は、被せ物などで高くします。歯という点はなく、歯列の面を一定、かつ適切に補える入れ歯が理想的です。
編集部
入れ歯の“持ち”とも関係してきそうですね。
三戸岡先生
持ちについての考え方は、大きく2通りあると思います。「現在の100点満点を目指した入れ歯」か「将来的な変化を見越した10年先でも90点が取れる入れ歯か」のいずれかですね。どちらが好ましいのかは、患者さんに決めていただきます。ただし、保険の入れ歯で後者を実現するのは、かなり難しいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
三戸岡先生
入れ歯は、おせんべいよりも、パンを食べているときに壊れがちです。なぜなら、入れ歯の経年劣化に限らず、その使い方や歯ぐきの変化が関係しているからです。このような自損を防ぐ意味でも、入れ歯のための定期健診を受け続けるようにしてください。今現在の痛みなどがなかったとしても、何かしらの問題を抱えこんでいるかもしれません。
編集部まとめ
三戸岡先生は、入れ歯洗浄剤についても入れ歯安定剤についても、否定的な見解をもっているということでした。理想的なお手入れ方法は、洗面器に張ったぬるま湯の中で水洗いすること。加えて、3日に1回ほど、入れ歯専用ブラシで物理的な清掃をすることです。また、変形や破損に関して「素人が手を出さないこと」も重要です。そして、歯ぐきの痛みなどがなかったとしても、入れ歯のための定期受診を続けましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |