その不眠症、もしかしたら「顎関節症」が原因かも!?
なかなか寝付けないことに加え、そのこと自体がプレッシャーとなる「不眠症」。その引き金は、体調やストレスなど、さまざまに考えられます。はたして、顎(がく)関節症もその一因に含まれるのでしょうか。不眠症を歯科医院で解決できるのか、「いしはた歯科クリニック」の石幡先生に伺いました。
監修歯科医師:
石幡 一樹(いしはた歯科クリニック 院長)
昭和大学歯学部卒業。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科部分床義歯補綴学分野修了。歯科医院勤務後の2012年、埼玉県久喜市に「いしはた歯科クリニック」開院。口腔全体を一単位と考え、噛み方や顎の使い方の指導などもおこなっている。歯学博士。日本顎咬合学会認定医。日本補綴歯科学会、日本顎関節学会、日本歯周病学会などの各会員。歯科領域の講演多数。
まずは、3大症状をセルフチェックしてみる
編集部
顎関節症って、顎がカクカクと鳴る病気のことですよね?
石幡先生
顎関節症の3大症状は、「口が開きにくい」、「顎の周辺で音がする」、「顎周りの筋肉が痛い」とされています。もっとも、全身の筋肉はつながっていますから、肩や首のこりに派生することも考えられるでしょう。なお、顎関節症は20~30代の女性に多くみられる症状で、年齢とともに減っていく傾向があります。
編集部
「顎が痛いから眠れない」ということは、考えられますか?
石幡先生
あり得ますし、必ずしも顎の痛みに限りません。例えば、肩こりが自律神経を興奮させ、「お休みモード」になかなか入れない場合もあります。2つの神経からなる自律神経のうち、交感神経よりも副交感神経が優位にならないと、「興奮モード」を持続させてしまうのです。
編集部
顎関節症に、自分で気付いていないケースもありそうですね?
石幡先生
原因不明の肩こりなどが続いている場合、もしかしたら、顎関節症由来なのかもしれません。また、寝ているときの歯ぎしりなどによって、知らないうちに顎を痛めている可能性も考えられます。今は眠れていたとしても、将来的な睡眠障害のリスクが懸念されますね。
編集部
起きているときにも、無意識に「食いしばり」をすると聞きました。
石幡先生
頻回に食いしばりをする人と、そうでない人がいます。前者の場合、やはり顎関節症の発症が怖いですよね。ですから、痛みやこりといった症状を問わず、好ましくない生活習慣も含めて、「放置は厳禁」といえるでしょう。上記、顎関節症の3大症状に心当たりがあったら、遠慮なくご相談ください。
上下の歯は「浮いたままの状態」が正常
編集部
自覚が薄い場合、顎関節症“っぽい”かどうか、どうすればわかりますか?
石幡先生
奥歯の外側にある頬を触りながら、口を開け閉めしてみてください。すると“動く筋肉”がありますよね。ここがこっているようなら、知らず知らずのうちに、歯ぎしりや食いしばりをしているのでしょう。
編集部
その場合の受診先が歯科医院ということですか?
石幡先生
はい。当院の患者さんのうち、形成外科や耳鼻咽喉科で「異常なし」と診断された人は、けっして少なくありません。「不眠症が顎関節症によって起きているかもしれないということ」と「顎関節症の治療は歯科領域であること」を、頭の片隅に入れておいていただきたいですね。
編集部
受診の目安となるのは、どの程度の自覚でしょうか?
石幡先生
顎関節症の3大症状に限らず、頬の筋肉のこりや筋肉痛などでも、十分な受診動機だと思われます。頬の筋肉のほか、こめかみの筋肉も、顎の開閉と関係しています。なお、通常なら、口は閉じていても「歯は浮いたまま」のはずです。もし、口も歯も閉じてしまうとしたら、頬やこめかみの筋肉疲労が起きているのではないでしょうか。
編集部
結論、不眠症との関係で言うと?
石幡先生
不眠症と顎関節症を結びつける論文などは出ていないものの、体の仕組みから考えると、十分に起こり得ることなのかもしれません。当院比ですが、顎関節症の患者さんの約5割が、「口も歯も閉じてしまう」クセを抱えていらっしゃいます。
15分に一回の「深呼吸」で悪化を防ぐ
編集部
初期や無意識の段階なら、セルフケアが可能でしょうか?
石幡先生
試しに口を閉じてみたとき、歯も自然に閉じきってしまうようなら、なにかしらの対策が求められます。そこで推奨したいのが、「フーっと深く息を吐く習慣」です。そうすると、上下の歯が離れますよね。この習慣の意図は、「絶え間なく力がかかっている“噛む筋肉”に、インターバルを与えること」です。目安として20分おきくらいに、フーっと深く息を吐いてみてはいかがでしょうか。
編集部
要は、「口を閉じても歯が開いている」状態を維持していればいいのですよね?
石幡先生
理想論としてはそうですが、「本当に、ずっと維持できますか」ということです。顎のもっていき先がわからず、落ち着けないようであれば、「20分に1回のインターバルでも十分」でしょう。むしろ、歯を常に離しておこうとして、顎関節症が悪化したケースも散見されています。
編集部
仮に治療を必要とする場合、どのような内容なのでしょうか?
石幡先生
行動療法やマウスピースの処方などがメインとなります。基本的な考え方は、「元に戻せない治療は用いない」ですね。なぜなら、顎関節症が自然に落ち着くケースもあるからです。歯や骨などを削る治療は、よほどのことがない限りおこないません。
編集部
歯を削って噛み合わせを調整するような手段は用いないと?
石幡先生
はい。日本顎関節学会の診療ガイドラインで、「咬合調整をおこなうべきではない」という提言がなされています。もし、担当の歯科医師から「咬合調整をしましょう」と言われたら、セカンドオピニオンを受けてみてください。ただし、被せ物やインプラントなどの治療後に顎関節症が起きたのだとしたら、その補綴(ほてつ)物に対する咬合調整をしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
石幡先生
結論として、不眠症と顎関節症との関係は、「明示されていないものの、十分に考えられる」と言っていいでしょう。加えて、原因がわからず、悩みを抱えこむことで不眠症に至っているケースも考えられます。ぜひ、突破口の一助として、歯科医院をご活用ください。
編集部まとめ
どうやら、「顎関節症のせいで眠りにつけない」ということは、起こり得そうです。その際、顎の痛みに限らず、顎周辺の筋肉疲労も関係しているとのこと。そして、筋肉疲労を起こすのは、「普段から歯が閉じていて、噛む圧を加え続けている人」なのでした。心当たりがあったら、受診を検討すると同時に、「呼吸法によるインターバル習慣」も試みてください。
首が痛い、歯ぎしりに関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
医院情報
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アクセス | JR「久喜駅」 徒歩3分 |
診療科目 | 歯科 |