セレックの「被せ物」や「詰め物」って実際どうなの? メリットやデメリットについて教えて!
コンピューターによる補修物の設計や削りだしなどを可能にした「CAD/CAM冠」。その一例が、「セレック」と呼ばれているシステムです。歯科技工士の手作業による被せ物や詰め物と比べ、いったい何が違うのでしょう。「うすい歯科医院」の薄井先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
薄井 隆(うすい歯科医院 院長)
奥羽大学歯学部卒業。奥羽大学保存科第2医局入局を経た2000年、福島県郡山市内に「うすい歯科医院」開院。生まれ育った地元で、「自分が患者だったらこんな歯医者に通いたい」をモットーとし、地域医療に努めている。日本歯内療法学会、日本歯周病学会、日本先進インプラント医療学会、米国インプラント学会(AAID)の各会員。メディア出演・執筆歴数。
むし歯の再発防止に大きく寄与する「精密さ」
編集部
被せ物や詰め物でセレックを用いる歯科医院が増えてきたように思います。メリットは何でしょう?
薄井先生
最大のメリットは「長持ちする」こと。そして、その結果として、「むし歯の再発を長期間にわたり防げる」ことです。ドイツの診療所や大学の調査によると、一般的な金属の詰め物の5年残存率は6割前後。対するセレックは、9年でも9割以上の残存率を誇ります。
編集部
詰め物などが取れると、そこから、またむし歯になってしまうと?
薄井先生
それもありますが、手作業でつくる修復物は精密さに欠け、歯との間に隙間を生じさせかねないのです。すると、その隙間からむし歯菌の侵入を許し、歯ブラシなどが届かない環境下で増殖しかねません。
編集部
セレックの精密さはどうなのでしょう?
薄井先生
CTで得られたデータを元に機械が作りますから精密です。これに対して、一般的な進め方で取る歯型の素材は、温度によって収縮・膨張するのです。それを元にして補修物をつくるのですから、どうしても“ゆがみ”が生じますよね。もちろん、歯科技工士さんの腕によっても変わるでしょう。
編集部
セレックのメリットは、ほかにもありますか?
薄井先生
完成までの早さが挙げられます。従来なら1週間から10日前後かかっていた詰め物・被せ物が、最短でその日のうちに仕上がります。「院内で短時間に治療を完結させられる」ことの意義は大きいでしょう。日にちがかかればかかるほど、再発リスクを高めてしまいます。なお、セレックで用いる接着剤は、むし歯になりにくい特殊なものを使っています。
歯科素材や適応症例が限定される
編集部
次は、デメリットについて教えてください。
薄井先生
残念ながら、色の微妙な変化をきれいに出すことはできません。とくに、天然歯の持つ透明感が難しいのです。歯科技工士さんはプロですから、とことん、オーダーに応えてくれるでしょう。しかし、セレックという機械は、色合いに関して言えば、融通が利きません。
編集部
セレックには保険が使えるのでしょうか?
薄井先生
保険は効かず、自費扱いとなります。保険の使える素材をセレックで削ることもできますが、そうすると、「精密さ」などのメリットが十分に得られなくなります。
編集部
セレックの素材は限られているのですね?
薄井先生
当院ではセラミックのセレックだけを扱っています。金属のセレックは、いまのところありません。また、修復物としては詰め物・被せ物だけ。入れ歯や義歯、ブリッジのセレックもありません。
編集部
セラミック素材ならではのデメリットもあるのでしょうか?
薄井先生
セラミックは陶材ですから、割れや破損が避けられません。9年の残存率が9割以上だとしても、割れるときには割れます。ただ、割れたことが外見からわかりますので、再処置の目安になります。他方の金属は、ゆがむことはありますが、割れません。したがって、中で何が起こっているか“見えない”んですよね。
医師の技術も問われるセレック
編集部
ほか、医療従事者側からみた裏事情や注意点があれば。
薄井先生
金属は薄くても割れたりしません。したがって、削る量の少ないむし歯には「金属が有利」ともいえます。セレックで施術するとしたら、すぐには割れないだけの厚みがほしいので、必要以上に歯を削る必要があります。このジレンマを、どう考えるかですね。
編集部
どうしてでしょう? 必要以上に歯を削るなんて嫌です。
薄井先生
そこで検討していただきたいのが、先ほど申しあげた再発リスクです。金属の修復物は長持ちしませんし、中でむし歯が発生しているかもしれない。「痛い」と気づいてから再び削るという悪循環を繰り返していれば、いずれ抜歯も考えられますよね。長い目で見たら、「必要以上に歯を削る」のではないのかもしれません。「必要に応じて歯を削る」という解釈も成り立ちます。
編集部
なるほど。その一方、セレックが精密なだけに、医師の「腕」も問われますよね?
薄井先生
セレックに限らないことで、何ごとにも経験値が問われます。セレックを導入している歯科医院で治療を受ければ、おしなべてむし歯の再発率が低くなるかというと、そんなことはありません。一定の施術歴がある歯科医院を選ぶといいでしょう。
編集部
将来、セレックのバージョンアップにより、ブリッジなどの作成が可能になることもあるのでしょうか?
薄井先生
ありえる話です。ただし、臨床例が十分に積まれていない段階で、適切な評価は下せません。リスクの高い製品が出回ることも考えられます。新製品の恩恵にあずかりたいのか、しばらく様子をみたいのか、医師や患者さんの考え方にもよるでしょう。これも、セレックに限ったことではありません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
薄井先生
セレックは、「長く歯を持たせる」観点からしたら、選択肢の筆頭に上がる治療方法です。自費扱いですが、保険の治療を何度も繰り返すよりは、安く付く可能性もあります。ただし、唯一の選択肢ではありませんので、メリットやデメリットを十分に吟味してみてください。
編集部まとめ
保険で入れる金属冠には、思わぬ欠点が潜んでいるのでした。それは、歯と修復物との隙間からむし歯菌が侵入して起きる「再発」です。一般的な金属冠の5年残存率が6割前後であることを考えると、もっと早い段階から、微妙なゆがみや変形を起こしているのでしょう。もちろん、むし歯菌にとっては「大きなゆがみ」です。そして、外部の手が届かない“守られた”内部で、悪さを始めていきます。セレックは、こうした再発リスクを大きく下げる治療法とのこと。ぜひ、この機に検討してみてください。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |