歯科治療でマイクロスコープを使うと何ができるの?
マイクロスコープとは口の中を拡大して見ることができる顕微鏡のこと。マイクロスコープを導入している歯科医院はまだ一部に限られているが、肉眼では見ることのできない細かな部分を拡大することで従来よりも精密な治療が可能になるといわれている。歯科治療でマイクロスコープを使うとどのようなメリットがあるのか? なかがわ歯科医院副院長の中川兼佑歯科医師にお話を伺った。
監修歯科医師:
中川 兼佑(なかがわ歯科医院 副院長)
東京歯科大学卒業。大学院では補綴科を専攻、マイクロスコープを用いた豊富な治療経験に基づく歯内療法も得意とする。なかがわ歯科医院の副院長として、患者さまの希望をしっかりとお聞きし、できるだけ痛みのない治療を行えるよう心掛けている。臨床研修指導歯科医、歯学博士。
目次 -INDEX-
マイクロスコープの特徴とは? どれくらい大きく見えるのか
編集部
マイクロスコープというのは手術用の顕微鏡みたいなものなんですか?
中川先生
皆さんも学校の理科の実験などで顕微鏡を覗いたことがあると思いますが、ひと口に顕微鏡と言ってもいろいろな種類があります。
例えば、歯周病の細菌を見たりする場合は「位相差顕微鏡」というものを使いますが、歯科で治療に用いるマイクロスコープは、それとは別の「実体顕微鏡」と呼ばれる種類のもので、患者さんの口の中を拡大して、両方の目で覗きながら治療をするための器具です。
編集部
マイクロスコープを使うとどんなことができるんでしょうか?
中川先生
ひと言で言うと「肉眼レベルで見えないものが見える」ということになります。
裸眼では絶対に見えないものを拡大した状態で明瞭に見ることができるので、物理的に歯のどこに虫歯があって、どれだけ削ればいいかというようなことがはっきりわかります。
編集部
マイクロスコープではどのくらいの倍率まで拡大できるんですか?
中川先生
当院で使っているマイクロスコープはx4、 x6、 x10、 x16、 x25の倍率が選べるので、最大で25倍ですね。他の機種ではもっと倍率の高いものもあるかもしれません。
編集部
拡大する倍率が高いほど性能がいい機種なのでしょうか?
中川先生
虫歯の部分だけをピンポイントで見ていると歯の全体像がつかめないので、拡大して歯の全体像が映るギリギリの倍率が一番使いやすいですね。
ただし、根管治療といって、歯の根っこの入り組んだところを治療する場合には最大倍率の25倍を使うこともあります。
マイクロスコープを使うことによる2つの大きなメリット
編集部
具体的にはどんな治療のときにマイクロスコープを使うんですか?
中川先生
マイクロスコープを一番多く使うのはどの治療かと言えば、虫歯の治療と根管治療ということになるでしょう。
抜歯や特殊な外科治療などにはあまり使いませんが、歯周外科といって、歯ぐきの中のふだん外から見えない部分の治療ではマイクロスコープを使うことがあります。
編集部
歯周外科というのは具体的にはどんなことをするんですか?
中川先生
その場合、出血していることもあって肉眼では見づらいので、マイクロスコープを使って治療します。まず肉眼で見てひと通りきれいにした後、マイクロスコープで確認しながらもう一段階きれいにしていくというような使い方をすると、取り残しがないので非常に有効です。
編集部
肉眼よりもよく見えるということは、必要以上に歯を削りすぎたりしないということにもつながるんでしょうか?
中川先生
マイクロスコープを使う意義としては、歯を削る量が最小限で済むということと、歯の痛みやトラブルの原因をマイクロスコープで診査・診断することによってその歯を残すことができるということ。この二つが特に重要だと思います。
マイクロスコープは患者さん自身の目で見て治療を理解してもらうことができる
編集部
マイクロスコープにはカメラが取り付けられるようになっていますが、どんな使い方をしているんですか?
中川先生
カメラで口の中を写真に撮って患者さんに見ていただいています。これは虫歯のある場所や歯石が付いている様子を実際に見て、治療の内容を視覚的に理解していただくためによく使っている方法です。治療前の虫歯などの様子を見ていただいた後、治療をしてそれがどんなふうに治ったのかを見ていただくという使い方をすることが多いですね。
編集部
動画も撮れるんですか?
中川先生
治療が終わってから患者さんに動画を見てもらうとどうしても時間がかかってしまうので毎回録画しているわけではありませんが、特に初診の患者さんの場合などは、ご自身の歯の状態を理解していただき、信頼関係を構築しながら一緒に治療を決めていく上で非常に役立ちます。
これもマイクロスコープの有効な使い方のひとつであり、大きなメリットだと思っています。
マイクロスコープがある歯科医院は良い治療ができる?
編集部
マイクロスコープは機材さえあれば誰でも使えるものなんですか?
中川先生
ミラーテクニックはある程度キャリアのある歯科医なら当たり前のようにできることですが、経験の少ない若い歯科医などは、まずそのテクニックを身につけないとマイクロスコープを使うのは難しいかもしれません。
編集部
大学の歯学部ではマイクロスコープの使い方を習わないんですか?
中川先生
最初は難しそうな印象がありましたし、自分にはまだそんな機材を使うだけのスキルがないと思っていましたけど、そのクリニックでは年齢やキャリアに関係なく、最初からマイクロスコープを使うように指導を受けていました。
編集部
なかがわ歯科医院ではマイクロスコープはいつ頃から使っているんですか?
中川先生
2017年の9月からです。マイクロスコープを使って治療するのが当たり前の環境の中で10年も経験を積んできたので、父が院長をしているこの「なかがわ歯科医院」に戻ってきたときには、マイクロスコープがないと思うように治療ができないなと感じるようになっていました。そこで当院でもマイクロスコープを導入したんです。
編集部
中川先生にとってはマイクロスコープを使う治療が基本という感じなんですか?
中川先生
これからはマイクロスコープを使うのが標準的な歯科の診療スタイルになってくると思いますし、その方が治療のレベルが向上するので、患者さんにとってもいいことだと思います。
編集部
マイクロスコープを使って質の高い治療をしている歯医者さんを見分けるにはどうすればいいですか?
中川先生
ただ、ひとつ言えることは、マイクロスコープを使って治療の様子を画像や動画で患者さんに見ていただくというのは、歯科医が自分の治療に自信を持っていなければできないということです。
個人的には自分の治療を見てもらうことによって、自分自身がより患者さんに認められるような治療を目指すべきだと思っています。
そのためには他の歯科医や歯科衛生士などのスタッフなども含めて、自分の治療をできるだけ人に見られるほうがいい環境だと思いますので、そういったことはひとつの判断材料になるかもしれません。
編集部まとめ
マイクロスコープは特殊な治療だけに使う器具というわけではなく、歯科治療のあらゆる場面でメリットがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。特に重要なのは歯を削りすぎないということと、トラブルの原因を突き止めて歯を残す治療が可能になるということ。この二つが「なるべく歯を抜かない・削らない」という治療ポリシーにつながっているんですね。
歯を抜くしかないと言われて悩んでいる方は、マイクロスコープを導入している歯科医院の受診を検討してみてはいかがでしょうか?
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