むし歯じゃないのに歯が痛いのはなぜ?非歯原性歯痛の種類や対処法も解説

歯が痛いと感じると、多くの方がまず「むし歯かな?」と考えるのではないでしょうか。実は、歯の痛みの原因はむし歯だけではありません。 歯の神経や歯を支える組織の炎症、さらには歯とはまったく別の場所にある問題が、歯の痛みとして感じられることもあります。 この記事では、むし歯以外で歯が痛む場合に考えられる原因を詳しく解説します。歯や歯茎に原因があるケースから、全身の病気が関連する非歯原性歯痛まで、その種類と対処法はさまざまです。 ご自身の症状と照らし合わせながら、痛みの原因を探るヒントを見つけていきましょう。

監修歯科医師:
石毛 俊作(大神宮デンタルクリニック)
目次 -INDEX-
むし歯じゃないのに歯が痛いのはなぜ?
まず考えられるのは、むし歯以外の歯や歯茎のトラブルです。例えば歯の根っこや神経の炎症が起きている、歯周病が進行している、あるいは知覚過敏といった状態があげられます。
これらは、歯科での精密な検査によって原因を特定することが可能です。
一方で、歯そのものにはまったく問題がなく、筋肉や神経さらには心臓の病気や精神的なストレスが原因で歯が痛むように感じる非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)というものもあります。
この場合、歯科治療だけでは痛みは改善せず、原因に応じた専門的なアプローチが必要となります。
歯や歯茎の炎症が原因の歯の痛み
歯の痛みの原因は、必ずしもむし歯菌による穴だけではありません。歯の内部や、歯を支える周囲の組織で炎症が起こることによっても、強い痛みを感じるケースがあります。
見た目ではわかりにくい場所でトラブルが起きていることも少なくありません。ここでは、歯や歯茎に直接的な原因があって痛みが生じる代表的な5つについて、それぞれの特徴と原因を詳しく解説していきます。
歯髄炎
歯髄炎(しずいえん)とは、歯の内部にある神経や血管(これらをまとめて歯髄と呼ぶ)に炎症が起きた状態のことです。 多くは進行したむし歯が原因ですが、歯に亀裂が入ったり転倒などで歯を強くぶつけたりした際に、外部からの刺激で炎症が起こることもあります。 歯髄炎の痛みはズキズキとした拍動を伴う激しい痛みが特徴で、温かいものがしみたり、何もしなくても痛みが続いたりします。 この状態を放置すると歯髄が壊死してしまい、一時的に痛みがなくなることもありますが、細菌が根の先にまで感染を広げてしまうため早急な処置が必要です。 治療としては、炎症を起こした歯髄を取り除く根管治療が行われます。歯根膜炎
歯根膜炎とは、歯の根と顎の骨をつないでいる歯根膜に炎症が起きた状態です。
ここに炎症が起こると、噛んだときに強い痛みを感じたり、歯が浮いたような感覚がしたりするのが特徴です。
原因はさまざまで、歯髄炎が進行して歯の根の先から細菌が歯根膜に達するケースのほか、歯ぎしりや食いしばりのような噛み合わせの不調によっても発症します。
原因に応じた治療が必要で、感染が原因なら根管治療、噛み合わせが原因ならその調整を行います。
歯肉炎や歯周炎
歯肉炎や歯周炎、いわゆる歯周病も歯の痛みの原因です。歯肉炎は歯茎に限定された炎症で、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)まで破壊される歯周炎へと移行することが少なくありません。 初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行すると歯茎が赤く腫れたり、歯磨きのときに出血したりします。 さらに悪化すると、歯槽骨が溶かされて歯がぐらつき始め、食べ物を噛むと痛みを感じるようになります。 歯周病が原因の痛みは、特定の歯だけでなく、お口の広範囲に及ぶことも少なくありません。基本的な治療は、原因となる歯垢や歯石の除去です。知覚過敏
知覚過敏は、冷たい飲み物や食べ物、歯ブラシの毛先が触れたときなどにキーンと一過性の鋭い痛みを感じる状態です。 これは、歯の表面を覆うエナメル質が何らかの原因で削れ、その内側にある象牙質(ぞうげしつ)が露出することで起こります。 主な原因としては、歯周病による歯茎の下がり(歯肉退縮)や強すぎる力での歯磨き方法、歯ぎしりによる歯の摩耗です。 対処法としては、知覚過敏用の歯磨き粉の使用や、歯科医院で露出した象牙質をコーティングする処置などがあります。智歯周囲炎
智歯周囲炎(ちししゅういえん)は、一番奥に生えてくる智歯(親知らず)の周囲の歯茎が炎症を起こす病気です。 親知らずは、生えるためのスペースが足りずに斜めや横向きに生えたり、一部だけが歯茎に埋まったままになったりすることが多くあります。 そのため、歯と歯茎の間に深い溝ができ、食べかすや細菌が溜まりやすい不潔な環境になりがちです。疲れやストレスで身体の抵抗力が落ちているときに、症状が出やすいのも特徴です。 治療は、まず洗浄・消毒や抗菌薬の投与で炎症を抑え、再発を繰り返す場合は抜歯を検討します。歯以外に原因がある非歯原性歯痛とは?
歯科医院でレントゲン撮影などの検査をしても、むし歯や歯周病といった明確な異常が見つからないにも関わらず、歯に痛みを感じる場合があります。
これを非歯原性歯痛と呼びます。これは歯や歯茎そのものではなく、身体のほかの部位に原因があり、その影響で歯が痛むように感じられる状態です。
例えば、食べ物を噛むための筋肉の凝りや鼻の奥の炎症、神経の異常、さらには心臓の病気や精神的な要因が関連していることもあります。
そのため、通常の歯科治療を行っても症状は改善しません。診断が難しく、原因を特定するためには歯科だけでなく、さまざまな診療科との連携が重要になります。
非歯原性歯痛の種類
非歯原性歯痛と一言でいっても、その原因は多岐にわたります。痛みの発生源が異なるため、症状の現れ方や痛みの性質もさまざまです。
ここからは、代表的な非歯原性歯痛の種類を解説していきます。自身の痛みの特徴と照らし合わせることで、原因究明の糸口が見つかるかもしれません。
どの科を受診すればよいか判断するうえでも重要な情報となります。
筋・筋膜性歯痛
筋・筋膜性歯痛は、主に食べ物を噛むときに使う筋肉(咀嚼筋)の凝りが原因で起こる歯の痛みです。 肩凝りがひどいと頭痛がするように、お顔や首の筋肉が緊張し続けるとその筋肉から離れた場所にある歯に関連痛として痛みが生じることがあります。 デスクワークでの長時間の同じ姿勢や無意識の食いしばり、睡眠中の歯ぎしりなどが主な原因です。 この痛みの特徴は、特定の筋肉を押すといつも感じている歯の痛みが再現される点にあります。 治療としては、筋肉のマッサージや温め、薬物療法などが有効です。神経障害性疼痛
神経障害性疼痛は、痛みを伝える神経そのものに損傷や機能異常が生じることで起こる痛みです。歯の痛みとして現れる代表的なものに三叉神経痛があります。
三叉神経はお顔の感覚を脳に伝える神経で、この神経が血管などによって圧迫されると、突発的に電気が走るような極めて激しい痛みがお顔や歯に生じます。
また、過去にかかった帯状疱疹のウイルスが神経に残って痛みを引き起こす、帯状疱疹後神経痛も原因の一つです。
歯科医院での検査では異常が見つからないため、ペインクリニックや脳神経外科での専門的な対応が必要となり、その治療には抗てんかん薬や神経ブロック治療などが用いられます
上顎洞性歯痛
上顎洞性歯痛は、上の奥歯の根の近くに位置する上顎洞という骨の空洞に炎症が起きることで生じる歯の痛みです。 この上顎洞の炎症は、一般的に副鼻腔炎(蓄膿症)として知られています。風邪やアレルギー性鼻炎などがきっかけで鼻の粘膜が腫れ、細菌やウイルスが繁殖し、その炎症がすぐ近くにある上の歯の神経を刺激し歯痛として感じられるのです。 また、階段の上り下りやジャンプなど、頭に振動が加わると歯に響くように痛むこともあります。この場合は歯科医院ではなく、耳鼻咽喉科での副鼻腔炎の治療が必要になります。神経血管性歯痛
神経血管性歯痛は、片頭痛に代表される血管性の頭痛が原因で起こる歯の痛みです。片頭痛は、頭の血管が拡張し、その周りの三叉神経が刺激されることで発生すると考えられています。 この三叉神経は頭部だけでなく、歯や歯茎の感覚も支配しているため頭痛の関連痛として歯に痛みを感じることがあります。 吐き気や、光・音に過敏になる症状を伴うことも少なくありません。歯科医院で検査をしても歯には異常が見つからないため、診断には脳神経外科や脳神経内科での問診が重要となります。心臓性歯痛
心臓性歯痛は、狭心症や心筋梗塞といった心臓の病気(虚血性心疾患)のサインとして現れる極めて危険な歯の痛みです。 心臓に血液が十分に供給されないと心臓自体が痛みを感じますが、その痛みが首や肩、腕、そして下顎の歯にまで放散することがあります。 特に階段を上ったり重いものを持ったりするなど、身体に負荷がかかったときに左側の奥歯や顎に重苦しい痛みが生じるのが特徴です。 安静にすると数分で痛みが和らぐのが一般的ですが、このような症状を自覚した場合は、様子を見ずにただちに循環器内科を受診しましょう。精神疾患が原因の歯痛
うつ病や不安障害などの精神的な疾患が、身体の症状として歯の痛みを引き起こすことがあります。 脳は、精神的なストレスや気分の落ち込みを身体の痛みとして誤って認識してしまうことがあるのです。 この場合の歯痛は、歯科医院でレントゲンや歯科用CTなどの精密検査を行っても異常が見つかりません。 痛みの部位が日によって変わったり、痛みの性質が曖昧で表現しにくかったりする特徴があります。 歯科治療では改善しないため、原因となっている精神的な問題に対処する必要があり、心療内科や精神科との連携が不可欠です。ストレスが原因の歯痛
特定の精神疾患と診断されなくても、日常的な精神的ストレスが歯の痛みの引き金になることがあります。
ストレスを感じると、無意識のうちに歯を食いしばったり、夜間に歯ぎしりをしたりする方が少なくありません。
この癖は、歯や歯を支える歯根膜に過剰な負担をかけ続け、炎症や摩耗を引き起こして痛みの原因となります。
特に思い当たる原因がないのに仕事が忙しい時期や緊張する場面で歯が痛む場合は、ストレスが関与している可能性が考えられます。
特発性歯痛
特発性歯痛は、これまでに挙げたような歯やほかの身体の部位に原因が見当たらず、あらゆる検査を尽くしても痛みの原因を特定できないものを指します。 診断基準が確立されているわけではなく、ほかのすべての可能性が除外された場合に考えられる痛みです。 症状としては、片側あるいは両側の歯や歯茎に、持続的で焼けるような鈍い痛みが数ヶ月以上にわたって続くことが多いとされています。 痛みの原因が不明なため治療は難しいのが現状です。痛みの感覚を調整する薬を服用するなど症状を和らげる対症療法が中心となり、長期的なサポートが必要となります。非歯原性歯痛の治療
むし歯や歯周病ではない非歯原性歯痛の治療は、まず痛みの根本的な原因を正確に見極めることから始まります。
原因によってアプローチが異なるため、最初の診断が重要です。歯科医師一人の力で完結することは少なく、医科の各専門医との緊密な連携が不可欠となります。
ここでは、非歯原性歯痛の検査や診断、そして治療に至るまでの流れについて解説します。
非歯原性歯痛の検査・診断方法
まず歯科医院で、むし歯や歯周病、歯の破折など歯に由来する痛みの原因がないかを徹底的に調べます。 視診や打診、レントゲン撮影、場合によっては歯科用CTを用いた精密検査を行い、歯やその周囲の組織に異常がないことを確認するのが第一歩です。 そのうえで、非歯原性歯痛の可能性を疑い始めます。次に重要となるのが詳細な問診です。 いつからどのような痛みがあるか、痛みの強さや頻度、歯以外の症状の有無などを詳しく聞き取ります。 これらの情報から原因を推測し、筋・筋膜性歯痛が疑われれば筋肉の触診を、上顎洞性が疑われれば耳鼻咽喉科へといったように適切な次のステップへと進みます。非歯原性歯痛の治療の流れ
非歯原性歯痛の治療は、確定した診断に基づいて進められます。原因によって治療法は大きく異なります。 例えば、筋・筋膜性歯痛であれば、歯科医院で噛み合わせの調整や歯ぎしり防止用のマウスピースを作製するほか、理学療法士による筋肉のマッサージやストレッチ指導などがあります。 三叉神経痛などの神経障害性疼痛では、ペインクリニックや神経内科での薬物療法が中心です。心臓性歯痛が疑われる場合は、ただちに循環器内科での精密検査と治療が必要です。 このように、原因となる疾患の専門家が治療の主体となります。専門医との連携の重要性
非歯原性歯痛の診断と治療において、専門医との連携、いわゆる医科歯科連携は極めて重要です。
かかりつけの歯科医師は、まず口腔内の問題をスクリーニングし、非歯原性歯痛の可能性を判断します。
問診などから得られた情報をもとに、適切と考えられる専門の診療科(耳鼻咽喉科、神経内科、ペインクリニック、循環器内科、心療内科など)へ紹介します。
連携して治療計画を立てることで、不要な歯の治療を避け、根本的な原因解決につながるでしょう。
受診する際の注意点
非歯原性歯痛が疑われる場合、医師に症状を正確に伝えることが的確な診断への近道となります。受診する際は、事前に情報を整理しておくことをおすすめします。 以下の項目をメモにまとめておくとよいでしょう。- いつからどのあたりが痛むか
- どのような痛みか(ズキズキ、ピリピリ、重苦しいなど)
- 痛む時間帯や頻度
- 食事や歯磨きなど痛みのきっかけになること
- 鼻詰まりや頭痛、肩こりなど歯以外の症状
むし歯じゃないのに歯が痛い場合の対処法
歯科医院を受診するまでの間、つらい痛みを少しでも和らげるための応急処置を知っておくと役立ちます。
まず痛みがある部分の頬の外側から、タオルでくるんだ保冷剤などを当てて冷やすと、炎症や痛みが軽減することがあります。
食事の際は熱いものや冷たいもの、硬くて何度も噛む必要のあるものは避けましょう。痛む歯に負担をかけないように、反対側の歯で噛むように心がけましょう。
市販の鎮痛薬を服用するのも一つの方法ですが、必ず用法・用量を守り、あくまで一時的な対症療法であると理解しておくことが重要です。
痛みが少し楽になっても原因が治ったわけではないため、根本的な解決のためにはできるだけ早く歯科医院を受診するようにしましょう。
まとめ
この記事では、むし歯じゃないのに歯が痛い場合に考えられる、さまざまな原因と対処法について解説しました。 痛みの原因がわからない状態は大きな不安を伴いますが、自己判断で放置したり不適切な対処をしたりするのは避けるべきです。 まずはかかりつけの歯科医院を受診し、歯に原因がないかをしっかりと調べてもらうことが解決への第一歩です。 必要に応じてほかの専門医と連携しながら、根気強く原因を探っていくことが重要になります。
参考文献




