目次 -INDEX-

毛細血管拡張性運動失調症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

毛細血管拡張性運動失調症の概要

毛細血管拡張性運動失調症とは、毛細血管の拡張や運動障害、免疫不全などを主症状とする遺伝性の疾患です。11番染色体の中に存在する「ATM(Ataxia Telangiectasia Mutated)遺伝子」に異常があることで発症することがわかっています。

この遺伝子変異は、両親のどちらにもATM遺伝子変異がある(保因者)場合に、その子どもにも受け継がれる可能性があります。

ATM遺伝子には、DNAに生じた損傷を修復したり、免疫細胞を調整したりする役割があります。そのため、毛細血管拡張性運動失調症では、免疫低下や脳機能障害などさまざまな症状を認めることがあります。

発症者は、歩行するようになる頃から運動失調が見られたり、瞼の内側、皮膚に毛細血管の拡張を認めたりするようになります。また、小脳の機能が障害され、言葉をうまく発せない(構語障害)、ものを上手く飲み込めない(嚥下障害)などの症状を認めることもあります。

乳幼児期から歩行困難となり、免疫不全状態で感染症に繰り返し罹患したり、飲食したものが気道に入りやすくなったりすることから、発育障害や重篤な感染症、誤嚥性肺炎など二次的な健康障害を招くことも危惧されます。

また、悪性腫瘍の合併率が高く、特に白血球の一種である「T細胞」が悪性化する「T細胞性腫瘍」の発症率が高いことがわかっています。

毛細血管拡張性運動失調症の発症率は国内では約10〜15万人に1人とされています。まれな疾患であり、未だ有効な治療法が確立されていません。

現在のところ、発症者に対しては、症状に対する対症療法が中心におこなわれています。

出典:公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター 神経系疾患分野「毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia Telangiectasia)(平成23年度)」

毛細血管拡張性運動失調症の原因

毛細血管拡張性運動失調症は、遺伝子の異常(遺伝子変異)によって発症することがわかっています。

毛細血管拡張性運動失調症では、11番目の染色体に含まれる「ATM(Ataxia Telangiectasia Mutated)遺伝子」に異常があることで発症することがわかっています。

ATM遺伝子はDNAに生じた損傷を修復したり、免疫細胞を調整したりする役割があります。そのため、ATM遺伝子に異常があると、免疫機能が低下し、感染症やがんに対するリスクが上がります。

なお、ATM遺伝子変異は「常染色体劣性遺伝」という遺伝形式によって受け継がれます。常染色体劣性遺伝では、両親から一つずつ引き継ぐ遺伝子の両方にATM遺伝子変異がある場合、その子どもにもATM遺伝子変異が受け継がれる可能性があります。

両親から受け継いだ遺伝子のうち一方のみにATM遺伝子変異を認める場合には「保因者」と呼ばれます。保因者は毛細血管拡張性運動失調症を発症することはないものの、保因者同士の子どもは25%の確率で発症する可能性があります。

毛細血管拡張性運動失調症の前兆や初期症状について

毛細血管拡張性運動失調症の発症者は、歩き始めるようになる頃に歩行失調を認めるようになります。また、免疫不全によって風邪やウイルス感染症などを発症することが多くなります。

さらに、眼球の動きに異常を生じ、眼球が揺れるように動いたり(眼振)、瞼の粘膜に毛細血管の拡張を認めたりすることもあります。

毛細血管の拡張は皮膚にも見られるようになり、頬や耳から始まって手足へと広がります。

毛細血管拡張性運動失調症の検査・診断

毛細血管拡張性運動失調症の診断では、主に血液検査がおこなわれます。

血液検査では、免疫機能を持つ血液中のタンパク質(免疫グロブリン)の数値のほか、悪性腫瘍があることで上昇する「αフェトプロテイン」などの数値を確認することで診断に役立ちます。

さらに、採取した血液を用いて遺伝子検査をおこない、遺伝子の異常の有無を確認します。

このほか、頭部CT検査やMRI検査をおこない、脳の異常について調べることもあります。

毛細血管拡張性運動失調症の治療

現在のところ毛細血管拡張性運動失調症を根治させるための治療法はなく、対症的な治療が中心におこなわれます。

発症者は免疫を調整する免疫グロブリンが不足し「低γグロブリン血症」を発症することがあります。低γグロブリン血症を発症している場合には、γグロブリンを補充する治療がおこなわれます。

また、感染症を発症した際の薬物療法や、感染予防のための対策が講じられます。

このほか、発症者は嚥下障害や運動障害、言語障害を呈することもあり、日常生活の支援が必要です。そのため、症状に応じたリハビリテーションなどがおこなわれます。

毛細血管拡張性運動失調症になりやすい人・予防の方法

毛細血管拡張性運動失調症は遺伝性の疾患であり、現在のところ発症を予防する方法はありません。

毛細血管拡張性運動失調症は、常染色体劣性遺伝によって発症することがわかっています。両親のどちらにもATM遺伝子変異を認める(保因者である)場合、その子どもは保因者となる可能性と、毛細血管拡張性運動失調症を発症する可能性があります。

ただし、ATM遺伝子変異の保因者は人口の1%未満と考えられているため、家族歴から発症リスクを予測するのは難しいと言えます。次世代への影響を知りたいという場合には、遺伝カウンセリングで相談することも一つの方法です。


関連する病気

この記事の監修医師