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成人発症スチル病
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

成人発症スチル病の概要

成人発症スチル病は、主に発熱、皮疹、関節炎などが周期的に起こる全身性炎症性疾患です。

16歳未満の子どもでみられる全身型若年性特発性関節炎(旧称:スチル病)と症状が類似していることから、成人発症スチル病(Adult-onset Still’sdisease:AOSD)と呼ばれます。 実際の患者さんの数は多くありません。しかし、不明熱や原因不明の全身症状の原因として常に考慮する必要がある疾患です。 20~40歳の方に多く、女性の割合がやや多いとされます。症状は発熱、紅斑(皮膚の赤み)、倦怠感など、一見すると風邪のようにみえます。正確な診断を早期に下すことは難しいことが多いですが、1日のなかで変動のある発熱、サーモンピンク疹と呼ばれる独特の皮疹、血液検査でのフェリチン異常高値などが手がかりになります。

成人発症スチル病の原因

成人発症スチル病の原因は明らかになっていません。一説には自然免疫系の過剰な活性化による炎症が主な病態と考えられています。

具体的には、マクロファージや好中球などの免疫細胞が活性化されることで、IL-1β、IL-6、IL-18などの炎症反応を引き起こすタンパク質が大量に分泌されることが原因だと考えられています。このタンパク質のことを炎症性サイトカインと言います。炎症性サイトカインが全身に作用することで高熱、紅斑、関節炎などが引き起こされます。

この免疫細胞活性化の原因として、もともと遺伝的素因を持つ方の免疫システムが、細菌やウイルスなどの感染、あるいは体内で生じるダメージ関連分子パターン(DAMPs)などの炎症性物質をきっかけに過剰反応を起こす可能性が挙げられています。

成人発症スチル病は関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどと同じ膠原病に分類されます。しかし関節リウマチなどとは異なり、自己抗体は関与しません。また、血液検査で抗核抗体やリウマトイド因子が陰性であることが特徴的です。

成人発症スチル病の前兆や初期症状について

成人発症スチル病の症状は発熱、体幹部や手足の紅斑、全身倦怠感、関節痛・関節炎、咽頭痛、リンパ節の腫れ、肝臓の腫れ、脾臓の腫れなど全身に出現します。そのなかでも成人発症スチル病に特徴的なのは発熱と紅斑です。 発熱は、1日のなかで変動がみられることが特徴的です。具体的には夕方から夜間にかけて体温が39.0~40.0度にまで達し、朝には解熱します。平熱まで下がる場合は間欠熱、平熱にはならずとも1度以上解熱する場合は弛張熱と言います。 また、この発熱時に体幹部や手足に数mm大の蕁麻疹もしくは平坦な桃色の皮疹が出現します。この皮疹をサーモンピンク疹といい、成人発症スチル病では発熱とともに出現し、解熱とともに消退することが特徴的です。

初期症状のみから成人発症スチル病を診断することは困難ですが、ほかの疾患を除外するためにも、まずは内科を受診することが望ましいです。

間欠熱や弛張熱らしい発熱、サーモンピンク疹らしい皮疹を認めた場合には、成人発症スチル病を疑ってリウマチ科、膠原病内科への受診が検討されます。

成人発症スチル病の検査・診断

成人発症スチル病の診断にあたっては、問診・身体所見、各種検査の結果を踏まえて診断していきます。  

問診・身体所見

成人発症スチル病に特徴的な間欠熱、弛張熱、サーモンピンク疹を認めるかが重要となります。そのため発熱は夕方から夜間のみに認められるか、また発熱は1週間以上続いているか、そして皮疹は発熱とともに出現して解熱すると消退するかを確認します。

ほかの全身症状がないかも確認します。具体的に関節痛、咽頭痛、リンパ節の腫れ、肝臓の腫れ、脾臓の腫れを問診・身体診察で評価します。この際に、感染症を思わせるような所見がないかも確認していきます。  

血液検査

血液検査では主に全身の炎症反応を反映した結果が認められます。 白血球:1万/μL以上の高値となります。好中球優位の増加を認めます CRP、赤沈:炎症反応を反映して高値となります 肝機能検査:軽度〜中等度の肝機能障害を認める場合があります フェリチン数千〜数万ng/mLの異常高値を認めます。成人発症スチル病に特徴的とされます リウマトイド因子、抗核抗体:ほかの膠原病とは異なり陰性です  

画像検査

エコー検査、X線写真、CT検査、MRI検査を行い、感染症、悪性腫瘍、ほかの膠原病・自己免疫疾患を除外します。また、リンパ節腫大、肝脾腫がないか確認します。  

診断基準

成人発症スチル病の診断にはYamaguchiらの基準が用いられます。
A:大項目
1) 39度以上の発熱が1週間以上続く
2) 関節症状が2週間以上続く
3) 定型的な皮膚発疹
4) 80%以上の好中球増加を伴う白血球増多(10000/mm³以上)
B:小項目
1) 咽頭痛
2) リンパ節腫脹あるいは脾腫
3) 肝機能障害
4) リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性
C:除外項目
1) 感染症(特に敗血症、感染性単核球症)
2) 悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)
3) 膠原病(特に結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ)
Aの2項目以上を満たし、なおかつAとBを合わせて5項目以上に該当し、そしてCの疾患をすべて除外すると、成人発症スチル病と診断されます。 また、成人発症スチル病は指定難病であり、重症度が中等症以上であれば医療費助成を受けられます。

成人発症スチル病重症度スコア
漿膜炎 無 0 □ 有 1 □
DIC 無 0 □ 有 2 □
血球貪食症候群 無 0 □ 有 2 □
好中球比率増加(85%以上) 無 0 □ 有 1 □
フェリチン高値(3,000ng/mL以上) 無 0 □ 有 1 □
著明なリンパ節腫脹 無 0 □ 有 1 □
ステロイド抵抗性(プレドニゾロン換算で0.4mg/kg以上で治療抵抗性の場合) 無 0 □ 有 1 □
スコア合計点 0〜9点
成人発症スチル病重症度基準
・重症:3点以上
・中等症:2点以上
・軽症:1点以下

成人発症スチル病の治療

治療の中心は副腎皮質ステロイドです。ステロイドを減量していく過程で再燃する場合や、ステロイド単剤治療では改善しない場合には生物学的製剤免疫抑制剤を併用します。  

副腎皮質ステロイド

中等量~大量のステロイド(1日につき、患者さんの体重1kgあたりプレドニゾロン1mg相当)で初期治療を開始します。ただし重症度や患者さんごとの特徴により必要となるステロイド量は異なります。

中等量~大量のステロイドを長期間投与すると合併症が生じます。そのため、症状、血液検査所見の改善が得られれば、ステロイドを減量していきます。最終的にはステロイド投与を終了することを目標とします。

生物学的製剤、免疫抑制剤

しかし、ステロイドを減量する過程で成人発症スチル病が再燃する場合や、中等量~大量のステロイドのみでは成人発症スチル病の病状が改善しない場合があります。その際にはステロイド減量をサポートするために、もしくは病勢を抑えるために生物学的製剤、免疫抑制剤を追加します。 トシリズマブは成人発症スチル病に保険適用のある生物学的製剤です。IL-6という炎症性サイトカインを阻害する薬剤です。成人発症スチル病の全身症状を改善し、ステロイド減量をサポートする効果が示されています。

免疫抑制剤としては以前からメトトレキサートシクロスポリンが用いられています。 メトトレキサートは関節リウマチでも使用される薬剤です。関節炎や全身症状の制御に有効とされます。またステロイド減量効果も認められています。

シクロスポリンはカルシニューリン阻害薬という種類の免疫抑制剤です。炎症性サイトカインの産生を抑えます。成人発症スチル病の重症例やで使用されることがあります。

成人発症スチル病になりやすい人・予防の方法

成人発症スチル病は原因不明の側面が強く、具体的な予防法は確立されていません。遺伝的背景や免疫バランスの崩れを始めとしたさまざまな要因が重なって発症すると考えられています。

一例として、感染症を契機に発症する例があります。そのため日頃から適度な休養や栄養バランスを保ち、免疫力を維持することで予防することができる可能性があります。

また、早期発見・治療も重要となります。原因不明の発熱が続いた際には体温の記録をつけて間欠熱や弛張熱らしさはないかを確認しましょう。また発熱したときにサーモンピンク疹がないか、そして解熱とともに消退しないかを意識しましょう。これらが認められた場合には成人発症スチル病の可能性が否定できないため、内科、リウマチ科、膠原病内科を受診することを検討しましょう。

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参考文献

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