

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
モワット・ウィルソン症候群の概要
モワット・ウィルソン症候群は、知的障害、小頭症、特徴的な顔貌、巨大結腸症(ヒルシュスプルング病)などが見られる先天性疾患です。
1998年にモワット氏とウィルソン氏によって報告され、全国の患者数は100人未満と推測されています。
女児よりも男児に多く、大半は出生時から症状が出現します。
(出典:「難病情報センター モワット・ウィルソン症候群(指定難病178)」
原因は両親から受け継ぐはずの「ZEB2遺伝子」の一つが喪失して、神経細胞に異常をきたすことです。
主な症状として、中等度から重度の知的障害や、尖った顎などの特徴的な顔貌がほぼ全例で見られます。
また、小頭症、巨大結腸症、先天性心疾患、てんかん、脳梁形成異常なども頻繁に合併します。
さらに、停留精巣や尿道下裂など泌尿生殖器系の奇形や低身長も見られることがあります。
確定診断で用いられるのは遺伝子検査です。
脳MRIなどの画像検査、知能検査なども使用されます。
治療は対症療法が中心であり、先天性心疾患や巨大結腸症などに対する外科的治療が行われます。てんかんには抗てんかん薬が使用されることがあります。
知的障害に対しては幼少期から療育やリハビリテーションを実施し、身振りや指さしを通じたコミュニケーション能力の向上を目指します。
モワット・ウィルソン症候群には根本的な治療法がないため、生活の質を維持するための長期的な支援が必要です。
日常生活では、食事や排泄など終身にわたる介護が求められることが多く、多職種による包括的なケアが欠かせません。

モワット・ウィルソン症候群の原因
モワット・ウィルソン症候群は、両親から受け継いだ2番染色体上のZEB2遺伝子の1つが機能的に喪失することで発症します。
ZEB2遺伝子の異常により、胎児期から神経細胞の発達に障害が生じ、出生後に症状が引き起こされます。
多くの場合は突然変異によるものですが、親が罹患している場合、産まれてくる子どもが発症する確率は50%です。
モワット・ウィルソン症候群の前兆や初期症状について
モワット・ウィルソン症候群の症状として、特徴的な顔貌が出生時から見られます。
内側が濃い眉毛、眼間開離(両眼の間隔が広い)、尖った顎、厚い耳たぶなどが典型的な顔貌の特徴です。
半数以上の患者に小頭症やてんかん、先天性心疾患、巨大結腸症、停留精巣、尿道下裂、脳梁形成異常などの合併症も見られます。
25%程度の割合で薬剤が効きにくい「難治性てんかん」も認められます。
成長障害も生じやすく、同年齢の子どもより小柄になる傾向にあり、学童期以降に痩せ型や低身長の体型が目立つことが多いです。
知的障害はほぼ全例で認められ、成長とともに目立つようになります。
言葉によるコミュニケーションは完全には困難ですが、多くの場合3歳半ごろから歩行が可能になります。
モワット・ウィルソン症候群の症状は個人差が大きく、症状の程度や現れ方は患者によって異なりますが、早期診断と適切な支援が重要です。
モワット・ウィルソン症候群の検査・診断
臨床症状からモワット・ウィルソン症候群が疑われる場合、血液検査や画像検査、知能検査、遺伝子検査などが用いられます。
血液検査では異常所見が認められませんが、画像検査では脳MRI検査を用いて脳梁の形成異常を確認します。
知能検査では、質問票などの年齢に応じた方法で行われ、中等度から重度の知的障害を評価します。
確定診断には遺伝子検査が必要で、ZEB2遺伝子の機能喪失型変異を検出します。
遺伝子検査は、ゴールドバーグ・シュプリンツェン巨大結腸や、アンジェルマン症候群、1p36欠失症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群などの類似疾患との鑑別のためにも必要です。
モワット・ウィルソン症候群の治療
モワット・ウィルソン症候群の治療は、それぞれの症状に応じた対症療法が一般的です。
特に乳幼児期は健康状態が安定していないことが多く、医療機関による定期的な検査や治療が欠かせません。
先天性心疾患、巨大結腸症、尿道下裂などの合併症に対しては、必要に応じて外科的手術が行われます。
てんかんに対しては、バルプロ酸ナトリウムなどの抗てんかん薬が投与されます。
発達支援として、理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションも重要です。
患者の日常生活能力や生活の質の向上を目指して行われます。
モワット・ウィルソン症候群では、言語によるコミュニケーションの獲得が困難な場合が多いため、身振りや指さしなどの非言語的コミュニケーション手段の獲得も重視されます。
これらの療育は生涯にわたって継続することが重要で、患者の発達段階に応じて適切に調整されます。
モワット・ウィルソン症候群になりやすい人・予防の方法
モワット・ウィルソン症候群は、ZEB2遺伝子の突然変異によって発症することがほとんどで、親から遺伝するケースはまれです。
しかし、両親のどちらかが発症している場合、産まれてくる子どもが発症する確率は50%となります。
予防法は現在のところありませんが、遺伝について不安がある場合には、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
遺伝カウンセリングにより、疾患のリスクや家族計画に関する情報を得られる可能性があります。
関連する病気
- ゴールドバーグ・シュプリンツェン巨大結腸
- アンジェルマン症候群
- 1p36欠失症候群
- ルビンシュタイン・テイビ症候群
参考文献




