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プラダー・ウィリ症候群
菅原 大輔

監修医師
菅原 大輔(医師)

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2007年群馬大学医学部卒業 。 自治医科大学附属さいたま医療センター小児科勤務 。 専門は小児科全般、内分泌代謝、糖尿病、アレルギー。日本小児科学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医、臨床研修指導医。

プラダー・ウィリ症候群の概要

プラダー・ウィリ症候群は、遺伝子の異常によって発症する先天性の疾患です。筋肉の緊張が低下すること、過食による肥満、知的発達の遅れ、低身長など、さまざまな症状を引き起こします。

プラダー・ウィリ症候群は、約10,000〜15,000人に1人の割合で発症するとされていますが、正確な発症頻度は明らかになっていません。日本国内における患者数は約150人と報告されています。まれな疾患であり、厚生労働省の指定難病に登録されています。

症状のあらわれ方には個人差がありますが、通常、出生直後から症状がみられることが多いとされています。とくに乳児期には、筋緊張の低下が原因で哺乳が難しくなることが特徴です。その後、3〜4歳ごろになると異常に食欲が増加し、幼児期には肥満や低身長が目立つようになります。思春期にかけては、学習の遅れや思春期の発達の遅れ、特有の行動の問題などがみられることがあります。

現在のところプラダー・ウィリ症候群には根本的な治療法はありません。治療は、食事療法による栄養管理や運動療法、成長ホルモン補充療法などが中心となります。早期から適切な栄養管理や治療を受けることが、患者さんの生活の質の維持につながります。

プラダー・ウィリ症候群の原因

プラダー・ウィリ症候群は、15番染色体に位置する父由来で発現する複数の遺伝子(インプリンティング遺伝子)の働きが失われたことで発症します。とくに、「SNORD116」という遺伝子の異常が発症に深く関係していると考えられています。

この遺伝子に異常があると、脳の視床下部が正常に働かなくなります。視床下部は、食欲や体温、呼吸、ホルモン分泌などをコントロールする役割を担っており、この機能が失われることで、食欲を抑えられなくなったり、成長が遅れたりする症状が引き起こされます。

プラダー・ウィリ症候群の前兆や初期症状について

プラダー・ウィリ症候群の症状のあらわれ方には個人差がありますが、成長とともに変化していくことが一般的です。多くの場合、出生直後から症状があらわれることがあります。

乳児期では、筋力が弱く、母乳やミルクをうまく飲むことができない哺乳障害がよくみられます。また、肌や髪の色が薄くなることがあり、金髪に近い髪色になるため、白皮症と間違えられることもあります。そのほか、外性器の発育が不十分であることも特徴のひとつです。

男児の場合、精巣が正しい位置に降りてこない(停留精巣)、陰茎が小さい(ミクロペニス)といった症状が90%以上にみられます。女児の場合も、陰部の発育が不十分なことがありますが、見逃されやすい傾向があります。

3〜4歳ごろになると、食欲が異常に強くなり、幼児期には肥満や低身長が目立つようになります。学童期から思春期にかけては、学業成績の低下や思春期の発達の遅れ、特有の行動の問題などがみられることがあります。 具体的には、小さな頃は人なつっこい傾向がありますが、大きくなると、かんしゃくを起こしやすい、頑固な性格、他人を自分の思い通りにしようとする、強迫的性格などが、特徴的な行動としてみられるケースが多いです。 なお知的発達の遅れは中程度とされ、適切な支援が必要です。

プラダー・ウィリ症候群では、肥満に関連した心血管障害や睡眠時無呼吸症候群、糖尿病などに注意が必要です。近年では、医療や栄養管理の進歩により、以前よりも肥満の症例が減少するなど、従来の典型的な症状とは異なるケースも増えてきています。

プラダー・ウィリ症候群の検査・診断

プラダー・ウィリ症候群は、臨床症状と遺伝学的検査をもとに診断されます。

プラダー・ウィリ症候群は、出生直後に筋力が弱いことによる哺乳障害がきっかけで診断されることが多いとされています。また、原因が不明な肥満がみられる場合にも、プラダー・ウィリ症候群が疑われることがあります。

遺伝子検査にはいくつかの方法がありますが、最も確実とされている診断方法は「メチル化試験」とよばれる遺伝子検査です。メチル化試験は、15番染色体の特定の領域が正常に働いているかを調べる遺伝子検査で、プラダー・ウィリ症候群の99%以上の患者を診断することができるとされています。より詳しい原因を調べるために「FISH法」などの追加検査を行うこともあります。2018年からメチル化試験は保険適用となり、多くの方が受けられるようになりました。

プラダー・ウィリ症候群の治療

現時点では、プラダー・ウィリ症候群の根本的な治療法は確立されておらず、食事療法、運動療法、成長ホルモンの補充療法などが治療の中心となります。

早期から適切な栄養管理を行うことがとくに重要です。乳児期では、筋緊張の低下によって哺乳が難しくなることが多いため、必要に応じて経管栄養が行われることがあります。幼児期になると、過食の傾向があらわれはじめるため、肥満を防ぐために食事管理が必要となります。

運動療法も肥満の予防に有効であることが明らかになっており、短時間でも軽い運動を継続することが大切です。

成長ホルモンの補充療法は、低身長や筋力低下を改善する効果が期待できます。早期に治療をはじめることで、身長が伸びやすくなり、筋肉量が増えることで体の動きや呼吸のしやすさが改善することも報告されています。また成長ホルモンの投与により、体組成が改善することも期待できます。

また、生殖機能の発育不全などに対しては、性ホルモンの補充療法が行われることがあります。

行動面や発達の問題には、療育や特別支援教育などの専門の支援を受けることが有効です。プラダー・ウィリ症候群では、こだわりが強かったり、感情のコントロールが難しかったりすることが多いため、個別の支援計画を立て、適切な対応を行うことが求められます。

プラダー・ウィリ症候群になりやすい人・予防の方法

プラダー・ウィリ症候群は遺伝子異常が原因となるため、現時点では発症を予防することは難しいといえます。基本的には遺伝性の病気ではありませんが、一部のケースでは遺伝的要因が関与する可能性も指摘されています。そのため、家系に同じ病気の人がいる場合は、発症リスクが高まる可能性があります。

プラダー・ウィリー症候群が家族内で遺伝するリスクがあるかどうかは、遺伝学的検査を受けることで確認することができます。専門の医師による遺伝カウンセリングを受けることで、将来的なリスクを理解し、適切な対応をとることができます。

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