

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
中條・西村症候群の概要
中條・西村症候群は、身体が自身を攻撃する自己炎症を特徴とする、まれな遺伝性難病です。
1939年に初めて報告されて以来、日本で約30人の患者さんが確認されています。特に和歌山県や大阪府南部で多く見られる地域偏在性があり、関西の奇病と呼ばれた時期もありました。
2010年、臨床的に酷似する症例がJMP症候群・CANDLE 症候群という病名で海外から報告され、2011年には日本の症例に共通する遺伝子異常が確認され、海外の2疾患を含めた3疾患がいずれも同じ遺伝子異常を原因とすることがわかり、同一疾患であると考えられています。これらをまとめるプロテアソーム関連自己炎症性症候群(PRAAS、Proteasome-associated autoinflammatory syndrome)という病名も提唱されています。
この病気は幼少期から始まる皮膚の変化(しもやけのような赤い発疹)と繰り返す発熱が特徴で、時間とともに筋肉や脂肪が減っていき、関節が固まるなど身体の機能が低下します。10代後半から20代にかけて症状が進行し、呼吸や心臓の機能に影響が出るケースもある深刻な病気です。
ほかの自己炎症疾患と異なり、大脳の基底核という部分にカルシウムが沈着する石灰化が起こる特徴があります。これにより手足の震えや筋肉のこわばりが現れることがあります。
中條・西村症候群は現在、厚生労働省が指定する難病(268番)に認定され、医療費助成の対象となっています。
中條・西村症候群の原因
この病気の根本的な原因は、PSMB8という遺伝子の変異です。この遺伝子は細胞内のゴミ処理システムを構成するプロテアソームの部品を作る指令を出しています。変異によってプロテアソームが正常に働かなくなると、不要なタンパク質が細胞内に蓄積し、免疫システムを過剰にし続けることで炎症が続く状態になります。
本疾患の遺伝形式は常染色体劣性遺伝と呼ばれます。両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ場合のみ発症し、片方だけの場合は保因者(キャリア)となって症状は現れません。血族結婚が多い地域で発生しやすい傾向がありますが、突然変異で発症するケースもあります。
最近の研究では、この異常がI型インターフェロンという炎症物質の過剰生産を引き起こすことで全身の炎症や脂肪細胞の減少に関わっている可能性が示されています。
中條・西村症候群の前兆や初期症状について
中條・西村症候群は遺伝性疾患で、多くの患者さんで初期症状は乳児から幼児期に現れます。
以下は典型的な症状経過です。
乳幼児期(2~5歳)に現れる症状
- 手足の指が赤紫色に腫れ、特に冬に悪化するしもやけ様発疹が出現します
- 38度以上の発熱が1週間続き、2-3週間隔で繰り返すようになります
- 太ももやお尻に硬い赤いしこり(結節性紅斑)ができます
学童期以降に進行する症状
- ほほや腕の脂肪が徐々に消失、10歳頃から目立ち始めます
- 手指の関節が固まり鷹の爪のような形になる
- 階段の昇り降りが辛いなどの筋力低下が目立ち始めます
- 血液検査でLDH、CRPの数値が持続的に高くなります
20代以降の重篤な症状
- 胸の筋肉萎縮により、呼吸困難を訴えます
- 心臓の収縮力低下がみられます
- 肝臓・脾臓が腫れます
- 脳の石灰化による手足の震えが起こることがあります
初期は風邪や一般的な皮膚炎と間違われやすく、診断までに5年以上かかるケースもあります。特に冬になると手足が赤くなる子どもで発熱を繰り返す場合は注意が必要です。
診断の難しい点として、関西地方以外の医療機関ではこの病気を認知していない場合があることが挙げられます。疑わしい症状がある場合は、大学病院の膠原病内科や遺伝子診療科の受診が推奨されます。
中條・西村症候群の検査・診断
中條・西村症候群には以下に示す診断基準があります。
A. 症状チェック(8項目中5項目以上該当)
- 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(血族婚や家族内発症)
- 手足の凍瘡様紫紅色斑(乳幼児期から冬季に出現)
- 繰り返す弛張熱(周期熱)
- 強い浸潤・硬結を伴う紅斑が出没(環状のこともある)
- 進行性の限局性脂肪筋肉萎縮・やせ(顔面・上肢に著明)
- 手足の長く節くれだった指、関節拘縮
- 小球性貧血
- 高ガンマグロブリン血症
- 肝脾腫
- 大脳基底核石灰化
B. 遺伝子検査
PSMB8、PSMA3、PSMB4、PSMB9、POMPなどのいずれかに疾患関連変異を認める。
C. 鑑別診断
ほかの自己炎症性疾患、膠原病、脂肪萎縮症
判定基準
1) Definite
Aの1項目以上を認め、Bを満たす場合
2) Probable
Aの6項目以上を認め、Cを除外できる場合
中條・西村症候群の治療
遺伝性疾患なので根本的な治療法はありませんが、次のような治療で症状の進行を遅らせます。
第一選択:ステロイド治療
- プレドニゾロン(1日5-10mg)で発熱や発疹を抑制します
- 副作用:成長障害・骨粗鬆症・緑内障に注意が必要です
- 脂肪・筋肉の萎縮、やせには効果がありません
新規治療:JAK阻害薬
- トファシチニブ(5mg 1日2回)が有効との報告があります
- 炎症物質の生産をブロックし脂肪減少を遅らせる効果があるとされます
- 年間の入院回数が1/4に減少した症例報告があります
支持療法
リハビリテーション
関節拘縮予防のためのストレッチを行います
呼吸訓練
肺活量維持のために呼吸筋の鍛錬を行います
高カロリー輸液
経口での食事摂取が困難になったときに実施することがあります
開発中の治療法
- iPS細胞を使った薬剤スクリーニング
- インターフェロン阻害剤の臨床試験
- 遺伝子治療(動物実験段階)
中條・西村症候群になりやすい人・予防の方法
なりやすい方
中條・西村症候群はまれな遺伝性疾患で詳細は不明ですが、現時点では以下がリスク要因と考えられています。
- 近親婚の家族歴がある
- 近畿地方の出身
- 血縁者に原因不明の炎症疾患を持つ
予防方法
根本的な予防法はありませんが、早期発見・進行抑制のために以下を考慮しましょう。
1. 家族計画の相談
遺伝カウンセリングで発症リスクを計算(保因者同士の結婚で25%の確率で発症)
2. 定期健康チェック
6ヶ月毎の血液検査(CRP・LDH値モニタリング)
年1回の脳MRI(石灰化の進行確認)
3. 日常生活の工夫
寒冷刺激回避:冬場の手袋着用
関節保護:指のストレッチを毎日実施
栄養管理:高タンパク食+ビタミンD補充
4. 社会資源の活用
難病医療費助成制度(自己負担上限2万円/月)
地域療養病床の利用
患者会にしむらの会での情報交換
2024年の調査では、早期に治療を開始した患者さんは10年生存率が82%に達する一方、診断が遅れたケースでは58%まで低下することが明らかになりました。今後は新生児スクリーニングへの導入が検討されています。




