

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
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エーラス・ダンロス症候群の概要
エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome、 EDS)は、皮膚や血管、関節などの結合組織がもろくなる遺伝性疾患です。関節が異常にやわらかくなる、皮膚が過剰に伸びる、血管が破れやすい、といった特徴的な症状がみられます。
2017年の国際分類・命名法によると、EDSは13のタイプ(古典型EDS、血管型EDS、関節型EDS、類古典型EDS、心臓弁型EDSなど)に分類され、それぞれ異なる原因遺伝子の変異によって発症します。
代表的なものとして、皮膚の脆弱性や関節の過伸展性が主症状となる「古典型EDS」、関節の過伸展性が特徴の「関節型EDS」、血管の破れやすさが問題となる「血管型EDS」などがあります。
とくに、血管型EDSは動脈解離や破裂など、命に関わるリスクが高いとされていますが、発症頻度は約5万人に1人とまれです。EDS全体での発症頻度は、約5,000人に1人と推定されています。
現時点では、根本的な治療法は確立されておらず、症状の管理や合併症の予防を中心とした治療が行われます。

エーラス・ダンロス症候群の原因
EDSの原因は、コラーゲンや関連タンパク質の合成に関わる遺伝子の変異です。コラーゲンは皮膚や血管、腱などの結合組織に存在し、組織同士の結合や強度を保つ重要な役割を果たしています。コラーゲンに関わる遺伝子に異常が生じると、正常にコラーゲンが合成されず、体のさまざまな部分がもろくなります。
EDSはそれぞれの病型で、原因となる遺伝子が異なります。たとえば、古典型EDSではCOL5A1やCOL5A2の変異によって引き起こされ、V型コラーゲンの合成に異常が生じます。血管型EDSでは、COL3A1の変異によりⅢ型コラーゲンの異常が生じます。一方で、関節型EDSの原因遺伝子は、まだ特定されていません。
また、これらの遺伝子変異がどのようにして多様な症状を引き起こすのか、その詳細なメカニズムについては明らかになっておらず、現在も研究が進められています。
エーラス・ダンロス症候群の前兆や初期症状について
EDSの症状は、タイプ(病型)によって異なります。
古典型EDSでは、皮膚が異常に伸びやすく裂けやすい、傷あと(瘢痕)が残りやすい、内出血しやすい、関節が過度にやわらかく脱臼しやすい、といった症状が中心となります。
関節型EDSでは、関節の過伸展性が主な症状ですが、慢性的な痛みや消化器症状(便秘や下痢)、自律神経の異常(立ちくらみ、動悸)などの多彩な症状がみられることもあります。
血管型EDSでは、内出血しやすい、皮膚が薄く静脈が透けて見えるなどの症状がみられます。皮膚症状や関節の異常は比較的軽度ですが、血管や内臓がもろく、動脈の破裂や腸管・子宮の破裂、気胸など命に関わる合併症を引き起こす可能性があるため、とくに注意が必要とされています。
これらの症状は、出生直後や乳児早期からみられることがあり、頻繁に関節が脱臼する、皮膚が傷つきやすく治りにくい、といった症状が診断の手がかりになることもあります。また一部のタイプでは、成長障害や短い手足、特徴的な顔つきがみられることもあります。
エーラス・ダンロス症候群の検査・診断
EDSの診断は、臨床症状と遺伝学的検査をもとに行われます。それぞれのタイプに応じた診断基準が定められており、関節の可動性の異常、皮膚の異常、組織の脆弱性などをくわしく調べます。
EDSと似た症状を示す、全身性エリテマトーデスやリウマチ性関節炎、ロイス・ディーツ症候群、マルファン症候群などの疾患と区別することも重要です。最終的な確定診断には、遺伝子検査を行い、特定の遺伝子変異の有無を確認することがあります。
エーラス・ダンロス症候群の治療
現在までに、EDSの根本的な治療法は確立されていません。そのため、症状の管理と生活の質(QOL)の向上を目的とした治療が中心となります。
皮膚や関節の異常に関しては、激しい運動を控えることやサポーターを着用することが予防に有効であるとされています。必要に応じてリハビリテーションを行い、車いすや杖などの補助具を使用することもあります。痛みがある場合には、鎮痛薬が処方されることがあります。また、皮膚が裂けた場合は、慎重な縫合が必要になります。
血管型EDSでは、動脈解離や動脈瘤、動脈破裂などのリスクが高いため、定期的な画像検査を行い、血管の状態をくわしく確認することが重要です。動脈病変を発症した場合は、薬物療法などによる保存的な治療が基本となりますが、進行がみられる場合は、カテーテルなどによる血管内治療や外科的治療が検討されることもあります。
エーラス・ダンロス症候群になりやすい人・予防の方法
EDSは遺伝性疾患であるため、家族に同じ病気の人がいる場合は、発症リスクが高まる可能性があります。
古典型EDS、関節型EDS、血管型EDS、多発関節弛緩型EDS、歯周型EDS、ミオパチー型EDSの多くは、常染色体優性遺伝という遺伝形式をとります。この遺伝形式では、一対の遺伝子の片方に異常があるだけで発症するため、両親のいずれかが遺伝子異常を持っている(発症している)場合、子どもが発症する確率は約50%です。
一方、一部のミオパチー型EDSやその他のタイプでは、常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとります。この場合は、一対の遺伝子の両方に遺伝子異常があると発症します。両親に発症は見られなくても、それぞれが保因者(1つずつ遺伝子異常を持っている)だった場合、子どもが発症する確率は約25%となります。
現時点では、EDSの発症を防ぐ方法は確立されていませんが、発症リスクが心配な場合は、専門医による遺伝カウンセリングを受けることも選択肢のひとつです。
関連する病気
- ロイス・ディーツ症候群
- マルファン症候群
- 骨形成不全症
- 全身性エリテマトーデス
- リウマチ性関節炎




