

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
黒色真菌症の概要
黒色真菌症は、褐色から黒色の色素をもつ真菌(カビ)による感染症です。病型として「黒色分芽菌症」と「黒色菌糸症」の2種類があり、日本では年間10~20例ほどのまれな病気です。かつては「クロモミコーシス」とも呼ばれていました。
出典:日本皮膚科学会「日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019」
黒色真菌症は主に土壌や腐った植物に生息する真菌が原因で、皮膚の傷などから体内に入ることで感染します。感染すると皮膚や皮下組織などに特徴的な症状があらわれ、まれにリンパ節や臓器に転移することもあります。
早期発見と適切な治療により、多くの場合は良好な経過をたどることができます。ただし、完治までには長期的な治療が必要になることが多いため、医師の指示に従って治療を継続することが重要です。

黒色真菌症の原因
黒色真菌症の原因となる真菌が、皮膚の傷などから体内に入り込むことで発症します。原因となる真菌は、主に土壌や腐った植物の中に生息しています。
黒色分芽菌症の主な原因菌は「Fonsecaea pedrosoi(フォンセカエア ペドロソイ)」や「Fonsecaea monophora(フォンセカエア モノフォラ)」という菌です。日本で見つかる症例ではFonsecaea monophoraによるものがほとんどであると報告されています。
黒色菌糸症の原因となる主な真菌は「Exophiala jeanselmei(エクソフィアラ ジャンセルメイ)」という種類ですが、他にもいくつか発見されています。
また、近年の研究により黒色真菌症では、菌の種類によって病気の進み方や重症度が異なることが分かってきました。
黒色真菌症の前兆や初期症状について
黒色真菌症は、黒色分芽菌症と黒色菌糸症で症状の特徴が異なります。
黒色分芽菌症では、主に手足などの露出部分に小さな吹き出物があらわれ、次第に広がっていくのが特徴です。病変部分の表面は、いぼのようにでこぼこしており、色は赤褐色から黒色を呈しています。まれに皮膚がんを引き起こすことがあります。
黒色菌糸症の場合は、皮膚に盛り上がりや膿が形成されるのが特徴です。皮膚以外の部位にも感染すると、副鼻腔炎や肺腫瘤、脳膿瘍などが発症することもまれにあります。
どちらの病型でも、放置すると症状が徐々に進行していくため、早期発見と適切な治療が重要です。とくに糖尿病などの基礎疾患がある方や、免疫機能が低下している方は、症状が重くなりやすい傾向があるため早期治療が望ましいです。
黒色真菌症の検査・診断
皮膚の黒色や褐色への変化が見られると、黒色真菌症が疑われます。しかし、見た目だけでは正確な診断ができないため、いくつかの検査が必要になります。
なかでも重要なのは皮膚生検です。病変の一部を採取して顕微鏡で調べることで、真菌が含まれているかを確認します。さらに、採取した組織を培養することで、真菌の種類を特定します。
他にも、血液検査で感染の有無や免疫機能を調べることがあります。
黒色真菌症の治療
黒色真菌症の治療は、薬物療法と手術療法が行われます。
薬物療法
治療の中心となるのは抗真菌薬による治療です。内服薬による治療が基本となりますが、症状が重い場合は入院して点滴による治療が行われることもあります。長期間にわたり治療が必要になるため、治療期間中に自己判断で中止しないことが大切です。
治療開始後は定期的に血液検査を行い、薬の副作用が出ていないかを確認します。また、症状の経過を見ながら、治療期間や薬の量を調整していきます。
手術療法
病変が大きい場合や、薬物療法だけで改善が見込めない場合には、手術で感染した部分を取り除くことがあります。手術では、感染した組織を完全に取り除き、必要に応じて周りの健康な組織も含めて切除します。顔面や手足など、目に見える部分の手術では、機能面だけでなく見た目にも配慮した手術が行われます。
手術後も再発を防ぐために、抗真菌薬による治療を続ける必要があります。
黒色真菌症になりやすい人・予防の方法
黒色真菌症は、土や植物をあつかう場面の多い職業の方に多く発症する傾向があります。また、糖尿病などの基礎疾患がある方や、免疫機能が低下している方は感染しやすく、重篤化しやすいです。
予防法としては、土や植物を扱う作業では手袋を使用したり、傷ができた場合は適切に手当てをしたりすることが重要です。土や植物を扱う作業の後は傷がないか確認し、必要に応じて消毒して保護します。傷口は清潔に保つことを心がけ、化膿した場合は早めに医師に相談しましょう。
また、基礎疾患のある方は、普段から適切な治療を受け、体調管理に気を配ることが重要です。とくに糖尿病のある方は、血糖値をコントロールすることで、感染のリスクを下げられます。免疫機能が低下する薬を使用している方も、医師に相談しながら経過を見ていきます。
参考文献




