

監修医師:
吉川 博昭(医師)
鼻疽の概要
鼻疽は、「鼻疽菌」と呼ばれる細菌による感染症です。「感染症法」で4類感染症に指定されており、診断した医師による届出が義務付けられています。
鼻疽菌には馬やロバなどの動物が感染していることがあり、本来はこのような動物間の感染症として扱われていました。しかし、感染動物との接触、あるいは汚染された食肉を摂取することで人間にも感染することがあるほか、まれに発症者から感染するケースもあるとされています。
衛生上の取り組みがおこなわれたことにより、日本国内をはじめとする諸外国の多くで鼻疽菌が排除されています。しかし、現在でも中南米や東アジア、北アフリカ、中東などの地域では発症者が確認されており、流行する国や地域で感染動物と接触する場合には感染のリスクがあります。
鼻疽を発症すると、多くの場合、部分感染からやがて全身性の症状に移行します。急激に症状が進行するケースや、慢性的に経過して症状が長期間持続するケースなどいくつかの病態が知られています。また、鼻疽菌の侵入した部位によっても症状は異なります。
症状が進むと重篤な経過をたどる可能性があり、適切な治療を受けられなければ高い致死率となる感染症です。治療がおこなわれても発症後の致死率が高いため、予防のための警戒や、感染が疑われる場合の早期対処が重要となります。
なお、鼻疽と類似の感染症に「類鼻疽」という疾患があります。鼻疽は動物から感染するのに対し、類鼻疽は汚染された土壌や水などから感染することが特徴です。
鼻疽の治療では、鼻疽菌に有効な抗菌薬を用いた薬物療法がおこなわれます。徹底的な除菌のため、初期治療の後も抗菌薬を長期間内服することが推奨されています。
出典:一般社団法人日本感染症学会 「鼻疽(Glanders)」

鼻疽の原因
鼻疽は、鼻疽菌に感染することが原因で発症します。
鼻疽菌は現在、日本国内をはじめとする多くの諸外国でも排除されています。しかし、未だ中南米や東アジア、北アフリカ、中東などの国で発症者が確認されています。
鼻疽菌は流行地域で馬やロバなどの分泌物に含まれていることがあり、このような動物の分泌物に直接触れたり吸い込んだりすることが感染リスクとなります。
また、皮膚の傷や粘膜から体内に鼻疽菌が侵入する経皮感染、空気中を漂う鼻疽菌を吸い込む経気道感染、鼻疽菌で汚染された食肉などを食べてしまう経口感染など、さまざまな経路で感染する可能性があります。
鼻疽菌は、一般的にヒトからヒトへの感染はまれであるとされています。ただし、家庭内の濃厚接触で感染した事例が報告されています。
鼻疽の前兆や初期症状について
鼻疽の初期症状は、鼻疽菌が侵入した部位や暴露した状況により異なります。
鼻疽菌を吸い込んで肺に感染した場合には、「肺炎」や「胸膜炎」を発症したり、皮膚の傷から感染した場合には皮膚の下にしこり(結節)や膿瘍が複数できたりすることがあります。また、鼻や口の粘膜に感染した場合には、のどや鼻、口、気管の粘膜にしこりや膿瘍ができ、膿性分泌物が出ます。
感染により、発熱や頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、胸の痛みなどの一般的症状も多く見られます。いずれの病態でも全身性の重篤な症状へ進むリスクがあります。
感染から発症までの潜伏期間は数日から2週間が多いとされますが、数か月の長期の潜伏期間を経て慢性的に発症する病態もあるとされています。
出典:一般社団法人日本感染症学会 「鼻疽(Glanders)」
鼻疽の検査・診断
鼻疽の診断では、問診や鼻疽菌を検出するための検査がおこなわれます。
問診では、鼻疽菌の流行地域への渡航歴や症状などを確認します。
鼻疽菌を検出するには、粘膜や目、鼻から分泌物を採取して培養する検査や、鼻疽菌の持つDNAを増幅させて検出する「PCR検査」などがおこなわれます。
鼻疽の治療
抗菌薬を用いた薬物療法がおこなわれます。
鼻疽の治療では、一般的にセフタジジムなどの抗菌薬が用いられます。より重症の場合には、初期治療として10〜14日以上メロぺネムなどの抗菌薬を投与する治療がおこなわれることもあります。
初期治療の後も、徹底的に体内から鼻疽菌を除菌するため、ST合剤やアモキシリン・クラブラン酸など複数の抗菌薬が組み合わさった薬剤を長期間投与することが推奨されています。
鼻疽になりやすい人・予防の方法
鼻疽菌を保有している動物と接触する機会がある人は、鼻疽になりやすいといえます。
鼻疽菌は、日本国内やカナダ、ニュージーランド、オーストラリア、米国、西ヨーロッパなどの国では排除されています。しかし、依然として中南米や東アジア、北アフリカ、中東などの国ではしばしば発症者が確認されています。
流行地域であれば、鼻疽菌を持つおそれのあるウマやロバなどの動物に安易に近づかない、飲食物の汚染に気を付けるなど、慎重な行動がこの感染症の予防につながります。
また、もし感染の可能性を自覚した場合はすみやかに医療機関を受診することも、適切な早期の治療につながります。
参考文献




