

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
重症複合免疫不全症の概要
重症複合免疫不全症(SCID)は、生まれつきの異常により、体内で重大な免疫機能を担うTリンパ球をほとんど作り出せなくなる病気です。
Tリンパ球が体内に存在しないことで、抗体(病原体から体を守る物質)を産生するBリンパ球も正常に機能しなくなり、細菌やウイルスなど、あらゆる病原体に感染しやすくなります。
厚生労働省の指定難病である原発性免疫不全症候群に含まれており、その中でももっとも重症な形態として知られています。重症複合免疫不全症はまれな病気ですが、日本では年間約20人の新生児が罹患していると推定されています。
(出典:難病情報センター「原発性免疫不全症候群(指定難病65)」)
重症複合免疫不全症の主な原因は遺伝子の異常と考えられています。
両親が発症していなくても、保因者である場合、産まれてくる赤ちゃんが発症する可能性があります。また、家族歴に関係なく突然変異などを原因として発症するケースもあります。
原因となっている遺伝子の多くは特定されており、未解明のものについても研究が進められています。
発症するとあらゆる感染症が致死的になりやすく、感染症にかかる前に適切な治療を受けなければ、命を落とす可能性があります。
重症複合免疫不全症の治療は造血幹細胞移植が有力とされており、感染症に罹患する前に治療を受けることができれば、根治が期待できます。
早期診断と迅速な治療介入が、重症複合免疫不全症の生存率に大きく影響します。そのため、新生児マス・スクリーニング検査の重要性が増しています。

重症複合免疫不全症の原因
重症複合免疫不全症の原因は、遺伝子の異常です。
遺伝性疾患の側面もあり、両親のいずれかが発症者または保因者である場合、産まれてくる赤ちゃんが発症する可能性があります。ただし、家族歴に関係なく突然変異などを原因として発症するケースもあります。
重症複合免疫不全症の原因となる遺伝子異常にはさまざまなものが知られています。原発性免疫不全症候群全体では500以上あるとされ、代表的な原因遺伝子については、大半が特定されています。
重症複合免疫不全症の前兆や初期症状について
重症複合免疫不全症では、出生直後から免疫機能の著しい低下により、あらゆる種類の感染症に対して脆弱になります。
生後数ヶ月以内に、重篤な肺炎、持続性の胃腸炎、中耳炎、髄膜炎、敗血症、蜂窩織炎、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深刻な感染症を繰り返し発症します。
これらの感染症による下痢や呼吸障害は、乳児の正常な体重増加をさまたげ、発育不全を引き起こします。
全身性カンジダ症やニューモシスチス肺炎などの日和見感染症も発症することがあります。
さらに、ロタウイルスワクチンやBCGなどの生ワクチンの接種により、重篤な副反応が生じ、致死的な状態に発展する可能性もあります。
重症複合免疫不全症の検査・診断
重症複合免疫不全症の検査・診断では、血液検査や遺伝子の検査がおこなわれます。
重症複合免疫不全症は発見が遅れると致死的になる重篤な疾患です。患者の生存率を高めるためには、早期診断と迅速な治療介入が重要です。
したがって、重症複合免疫不全症は近年、新生児マス・スクリーニング検査の対象疾患として追加されつつあります。
新生児マス・スクリーニング検査では、生後数日の新生児から採取した少量の血液を用いて、Tリンパ球などの指標を測定します。
出生後に新生児マス・スクリーニングで異常値が検出された場合や、疑われる症状が現れた場合、精密検査が実施されます。
精密検査では、血液検査や画像検査、遺伝子検査などを実施して、ほかの免疫不全症との鑑別もおこないます。
重症複合免疫不全症はまれな疾患であるため、専門の医療機関で経験豊富な専門医による診断が必要です。
重症複合免疫不全症の治療
重症複合免疫不全症の根本的な治療法は、造血幹細胞移植です。
骨髄や臍帯血を用いた造血幹細胞移植により、免疫機能を回復できる可能性があります。
重症複合免疫不全症では、重篤な感染症をに罹患する前に造血幹細胞移植を受けることができれば、生存率を大幅に向上できると考えられています。
造血幹細胞移植をする場合は、HLA(ヒト白血球抗原)が適合しているドナーからの移植が望ましいですが、適合ドナーがいない場合は、親のハプロタイプ(両親どちらかの遺伝子の並びのこと)が一致している造血幹細胞を用いることもあります。
その他の根治療法として、海外では遺伝子治療も試みられています。
造血幹細胞移植を受ける前に重篤な感染症にかからないことは重要で、適切な抗生物質や抗ウイルス薬、免疫グロブリン製剤の補充療法なども、支持療法としておこなわれます。
重症複合免疫不全症になりやすい人・予防の方法
重症複合免疫不全症は遺伝性疾患の側面があり、家族歴などの遺伝的背景により発症リスクが高まる可能性があります。ただし、遺伝子の突然変異などにより発症する可能性もあるため、どの新生児にも発症リスクがあります。
重症複合免疫不全症の予防法は現在のところ確立されていませんが、早期発見と早期治療が生存率と生活の質を向上させるために必要になります。
そのため、生後数日の新生児におこなうマス・スクリーニング検査を受けることが重要です。
参考文献




