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マンソン孤虫症
武井 智昭

監修医師
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)

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【経歴】
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。

日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属

マンソン孤虫症の概要

マンソン孤虫症(まんそんこちゅうしょう)は、マンソン裂頭条虫(まんそんれっとうじょうちゅう)という寄生虫の幼虫が、人体に寄生することで発症する感染症です。

マンソン裂頭条虫は世界各地に分布していますが、アジア諸国で多く見られます。日本国内でも北海道を除く全国各地で600例以上の感染例が報告されています。

通常、幼虫のまま寄生し、皮下組織を中心にさまざまな部位に移動して症状を引き起こします。また、長期間にわたって体内で生存できることが明らかになっており、最長で20年近く寄生し続けた例も報告されています。

感染しても自覚症状がない場合も多く、偶然行った検査で発見されることもあります。

出典:食品安全委員会「28. マンソン裂頭条虫(1/10)」

マンソン孤虫症の原因

マンソン孤虫症は、主にカエル、ヘビ、ニワトリ、イノシシなどの生肉を食べることで感染します。

関西地方では、鶏のささみの刺身からの感染例が多く報告されています。また「ケンミジンコ」という小さな水生生物が含まれる井戸水を飲むことでも感染する可能性があります。

感染した患者の約半数は感染源を特定できていませんが、感染源が判明している事例の60%以上が、ヘビやカエルの生食によるものです。

感染の順番として、まずマンソン裂頭条虫は「プレロセルコイド」と呼ばれる形態の幼虫となり、哺乳類(イヌ・ネコなど)に入り込むと成虫へと変化します。イヌやネコに寄生したマンソン裂頭条虫が卵を産み、糞便に排出されます。
動物の排便で体外に出された卵は水中で孵化し、ケンミジンコに食べられて幼虫に成長します。その後、両生類や鳥類、哺乳類などに寄生して、より大きな幼虫へと成長します。そして、幼虫が寄生した鳥類などを人が生食することで感染するのです。

幼虫は体長が数ミリから80センチメートルにも及び、体内で移動することでさまざまな症状を引き起こします。まれに体内で成虫(体長60センチから1メートル)にまで成長することもありますが、多くの場合は幼虫の状態で寄生し続けます。

マンソン孤虫症の前兆や初期症状について

マンソン孤虫症の典型的な症状は、全身のだるさ(全身倦怠感)と発熱です。感染してから2週間ほどで皮下組織に幼虫が出現し、皮膚の下に触れることのできる、動く腫れ(移動性腫瘤)があらわれます。

出典:食品安全委員会「28. マンソン裂頭条虫(1/10)」

ただし、自覚症状がまったくない場合も多くあります。また、症状が出るまでの期間(潜伏期間)は人によって大きく異なります。さらに幼虫は、体内のどの部位にも移動する可能性があるため、寄生する場所によって症状は大きく変わってきます。

例えば、目に寄生した場合は視力障害を引き起こしたり、脳に寄生した場合はけいれんや半身まひなどの重い神経症状を引き起こしたりすることもあります。

マンソン孤虫症の検査・診断

体の一部の腫れや、皮膚の下を何かが移動するような違和感がある場合、マンソン孤虫症の可能性を考えて、画像検査や血液検査、便検査、組織検査などを実施し、総合的に判断します。

画像検査

体の中の幼虫の位置や大きさを確認するために、CTやMRIなどの画像検査が行われます。特に皮下組織に潜む幼虫は、超音波検査でも確認できます。画像上では、幼虫が移動する様子を観察できることもあり、診断の重要な手がかりとなります。

血液検査

血液検査では、マンソン裂頭条虫に対する抗体を検出する特殊な検査も行われます。

寄生虫感染に特徴的な好酸球の増加が見られることがあります。また、炎症反応を示すCRPの上昇なども確認されます。国立感染症研究所では、イムノクロマト法という簡便な検査キットを開発し、必要に応じて医療機関に提供しています。

便検査や腫瘤の組織検査

患者の便を顕微鏡で調べたり、皮膚のしこりの一部を採取して検査することで、寄生虫の存在を直接確認できます。しかし、必ずしも検出できるとは限らず、他の検査結果と合わせて総合的に診断を行います。

マンソン孤虫症の治療

マンソン孤虫症の治療は、体内に入り込んだ幼虫を外科的に取り除くことが基本です。薬による治療は難しく、手術による摘出が最も確実な治療法とされています。

幼虫の摘出

マンソン孤虫症の治療は、基本的に外科的手術による幼虫の切除が唯一の根本的な治療法となります。幼虫が皮下にある場合は、局所麻酔下での切除が可能です。しかし、体の深部に潜んでいる場合は、全身麻酔による手術が必要となることもあります。

手術で幼虫を摘出した後も、他の部位に幼虫が残存している可能性があるため、定期的な経過観察が必要です。また、新たな症状が出現した場合は、別の部位での寄生の可能性を考慮して、追加の検査や治療を検討します。

薬物療法

幼虫に対して効果的な薬物療法は確立されていません。ただし、まれに体内で成虫になった場合は、プラジカンテルなどの駆虫薬が効果を示すことがあります。しかし、これらの薬剤の中には現在販売や製造が中止されているものもあります。

マンソン孤虫症になりやすい人・予防の方法

マンソン孤虫症は、カエルやヘビ、鳥肉などを生で食べる習慣のある地域の人々、また生食を好む人々で感染例が多く見られます。日本では、関西地方での鶏肉の刺身(ささみ)による感染例が特徴的です。また、未処理の井戸水を飲用する習慣のある地域の人々も感染リスクがあります。

マンソン孤虫症の予防の基本は、感染源となり得る食材を十分に加熱調理することです。カエル、ヘビ、ニワトリ、イノシシなどの肉は、必ず十分な加熱調理を行ってから食べるようにします。

アジアの一部地域で行われているヘビやカエルの血液や肉を傷口に貼る民間療法も、感染リスクが高いため避けなければなりません。

また、水を介した感染を防ぐためには、安全な水道水の使用が重要です。特に井戸水を使用する場合は、適切な浄水処理を行うことが推奨されます。また、野外活動時の水の摂取にも注意が必要で、未処理の自然水は避けるべきだと言えます。


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