

監修医師:
大坂 貴史(医師)
パラチフスの概要
パラチフスは、パラチフスA菌という細菌によって引き起こされる感染症で、主に汚染された水や食べ物を摂取することで感染します。症状は、発熱、頭痛、食欲不振、全身倦怠感などが数日間続くことが特徴で、下痢や便秘、発疹が現れることもあります。治療としては抗菌薬による治療が一般的ですが、抗菌薬に耐性をもつチフス菌が現れており問題となっています。パラチフスに対するワクチンはないため、主に海外旅行中に衛生状態の悪い環境では水の摂取を避けるなどの対策が重要となります。 (参考文献1)
パラチフスの原因
パラチフスの原因は、パラチフスA菌という細菌です。この細菌はヒトにしか感染せず、ヒトの糞便で汚染された食べ物や飲み水を通じて感染します。特に衛生環境が不十分な地域で感染が広がりやすく、下水処理が適切に行われていない場所や、手洗いの習慣が徹底されていない環境での感染リスクが高くなります。 (参考文献1)
パラチフスの前兆や初期症状について
パラチフスの症状は、腸チフスと殆ど同じです。パラチフスA菌が体内に入って 1~2週間後 から現れ、初期の段階では、発熱、頭痛、食欲不振、全身倦怠感などの症状が出るのが一般的です。典型的な経過では病気の進行は 4段階 に分けられます。まず 第1病期 では体温が段階的に上昇して高熱 (39〜40℃前後) になります。そして、バラ疹と呼ばれる淡いピンク色の発疹が全身に現れたり、徐脈になったり、脾腫を起こしたりします。これら 3つ の症状は腸チフスおよびパラチフスに特徴的ですが、必ずしも 3つ 全ての症状が出るとは限りません。次に 第2病期 では、 40℃台 の高熱が持続し、表情に活気が見られなくなります。下痢または便秘を生じることもあります。重症になると、意識が朦朧とし、混乱する状態 (意識障害) に陥ることもあります。そして 第3病期 では発熱と解熱を繰り返しながら徐々に解熱していき、 第4病期 に完全に解熱し回復に向かいます。 (参考文献1)
パラチフスの検査・診断
パラチフスの診断は、長引く発熱などの症状に加えて、過去 2か月 以内に開発途上国などに渡航していたかなどの海外渡航歴も参考にします。最終的な確定診断のためには細菌学的検査を行う必要があります。主に血液、便、胆汁、尿などが採取され、これらを培養してパラチフスA菌が分離されるとパラチフスであると診断されます。しかし、こうした培養検査は必ずしも菌の検出率が高くなく、血液培養で 40〜80% 程度、便培養で 30〜65% 程度と言われています。そのため、疑わしい症例に対しては培養検査を繰り返す必要があります。場合によっては骨髄を採取することもあります。骨髄培養は身体への負担が大きいものの、検出感度が比較的高く、80〜90% 程度と言われています。 (参考文献1)
パラチフスの治療
パラチフスの治療は、パラチフスA菌を取り除くために、抗菌薬を使用することが基本です。一般的にはニューキノロン系と分類される抗菌薬が用いられます。しかし、抗菌薬に対する耐性を持つ細菌が確認された場合には、他の抗菌薬を使用します。特に南アジア由来のパラチフスA菌は耐性菌の割合が 95% を超えていると言われているため、南アジアから帰国した人にはニューキノロン系抗菌薬の使用を避けて第三世代セファロスポリン系という種類の抗菌薬を用います。治療が上手くいけば多くの場合 3〜5日 ほどで症状は軽減し、 4〜6日 ほどで解熱します。また、近年、ニューキノロン系抗菌薬だけでなく第三世代セファロスポリン系抗菌薬に対しても耐性を持つパラチフスA菌も確認されており、問題となっています。 (参考文献1, 2)
パラチフスは感染症法で 3類感染症 と定められています。3類感染症は他に腸チフスやコレラ、腸管出血性大腸菌感染症などが同じグループにあり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが定められています (全数報告対象と言います) 。また、学校保健安全法においては 第3種 の感染症に定められています。もしパラチフスに罹った場合は医師が病状を診て感染の恐れがないと認めるまでは出席停止扱いとなります。 (参考文献1)
パラチフスになりやすい人・予防の方法
パラチフスは世界で年間 540万人 が罹患していると推定されており、特に衛生状態が十分でない地域で多く見られる感染症です。世界的には、バングラデシュやインド、パキスタンなどの南アジア及び東南アジアで患者数が多いです。また、中南米やアフリカでも見られます。日本では流行地域への渡航者を経由して発生がみられることが主ですが、国内感染例が多く報告された年もあります。
予防のためには、新鮮な水を利用することおよび衛生管理を徹底することが重要となります。海外へ旅行する際は衛生状態に注意することが必要です。衛生状態が悪い地域での郷土料理や水の摂取は避けるのが良いでしょう。 (参考文献2)
また、ワクチンに関しては腸チフスに対するワクチンはありますが、パラチフスに対するワクチンは現在のところ流通していません (参考文献1,3)
参考文献
- 参考文献1:NIID国立感染症研究所「腸チフス・パラチフスとは」(国立感染症研究所、最終更新日2018年02月19日、最終閲覧日2024年11月7日)
- 参考文献2:UpToDate. “Enteric (typhoid and paratyphoid) fever: Treatment and prevention”. (Last updated: 2024年10月17日)
- 参考文献3:Michael Hughes, Grace Appiah, Louise Francois Watkins “Typhoid & Paratyphoid Fever CDC Yellow Book 2024” (CDC, Last reviewed: 2023年3月1日)




