監修医師:
阿部 一也(医師)
ライ症候群の概要
ライ症候群は主に小児に発症する急性脳症の一つで、1963年に病理学者であるReyeによって提唱された疾患です。
インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症にかかった際に、解熱や鎮痛を目的にアスピリンなどを投与すると、突然の嘔吐や意識障害、けいれんや肝機能障害などの症状が引き起こされることがあります。
日本では、米国の注意喚起を受けてアスピリンの使用制限が導入され、その後の発症率の減少が確認されています。
しかし、先天性代謝異常や他の要因によって発症する可能性も残っているとされており、ライ症候群に関する各国の意見には相違があるのが現状です。
ライ症候群の原因
インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症にかかった際、解熱鎮痛剤として投与されるアスピリン(サリチル酸系医薬品)を使用することで、ライ症候群のリスクを増加させる可能性があると考えられています。
現在は、インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症にかかった小児に対して、アスピリンの使用は原則禁止され、代わりになる解熱鎮痛剤の使用が推奨されています。
このような取り組みによりライ症候群の発症数は減少しましたが、引き続き感染症にかかった際の適切な薬剤選択と、慎重な経過観察が欠かせません。
ライ症候群の前兆や初期症状について
ライ症候群は主にインフルエンザや水痘などのウイルス性感染症から続発するため、これらの感染症の罹患が前兆と言えるでしょう。
主な症状として、突然の嘔吐や意識障害、けいれんや異常行動といった急性脳症によるものや、肝機能障害や高アンモニア血症によるものが挙げられます。
インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症の発熱から、一旦解熱した数日後に発症することが多いです。
とくに注意を要するのは急性脳症による症状です。ライ症候群における急性脳症は、特に脳浮腫が原因で発症すると考えられています。脳浮腫が進行すると頭蓋内圧の亢進を引き起こし、意識障害やけいれん、呼吸抑制を伴うことがあるため、緊急の対応が求められます。
ライ症候群の嘔吐は、頭蓋内圧の上昇に関連するものであり、胃腸炎で見られる消化器症状とは異なります。嘔吐の後に異常行動や意識障害が見られた場合には、早急な受診が必要です。
突然つじつまの合わない発言をしたり、過度な怯えや幻覚がみられたり、強い眠気によって傾眠傾向になったりする様子も見逃せないサインです。
症状が進行すると意識障害によって意識レベルが低下し、呼びかけに対しても反応が鈍くなることがあります。
インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症にかかって数日が経過している、解熱後に様子がおかしくなった 、激しい吐き気が続いているなどの症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。
ライ症候群の検査・診断
ライ症候群の検査は血液検査や画像検査などをおこないます。
血液検査ではGOTやGPT、LDHやCPKなど肝機能を示す数値や、組織の損傷程度が分かる数値を調べます。ライ症候群ではこれらの数値が著しく上昇することが特徴的です。
ほかにも血糖値やクレアチニン値など、ライ症候群に関連する多くの項目を検査します。
画像検査ではCT検査やMRI検査によって、頭蓋内圧亢進による脳浮腫の有無や程度を調べ、ほかの病気による急性脳症との鑑別もおこないます。
医師による問診では、ウイルス性感染症に罹患したかどうかや薬剤の使用歴などを確認して、ライ症候群の診断をおこないます。
ライ症候群は症状の程度によっては命に関わる恐れもあるため、早急に検査をおこない迅速に治療方針を決めて実施することが求められます。
ライ症候群の治療
ライ症候群では脳浮腫・肝機能障害が急激に進行するため、生命維持のための集中治療が原則となります。具体的には、全身人工呼吸器による呼吸管理、輸液による循環動態の確保などの全身管理が必要になります。
ほかにも、頭蓋内圧を下げるために、マンニトールや高張食塩液の投与が行われることがあります。また、必要に応じて外科的手段(減圧術)が検討される場合もあります。
場合によっては抗けいれん薬の投与や、ウイルス性感染症に対する薬剤を投与するなど、症状に応じた治療を施します。
治療後も厳重な管理を要するため、血液検査や画像検査などを継続的におこない、全身状態をモニタリングします。
ライ症候群になりやすい人・予防の方法
ライ症候群は、インフルエンザウイルスや水痘ウイルスへの感染により、サリチル酸系医薬品のアスピリンを服用した子どもがなりやすい病気です。
予防の基本は、インフルエンザや水痘などのウイルス性感染症に罹った子どもに対して、アスピリンを使用しないことです。
発熱時にはアスピリンとは別の解熱鎮痛薬を使用することが推奨されています。解熱剤としてはアセトアミノフェンが一般的に安全とされていますが、他の薬剤を使用する場合は必ず医師に相談することが推奨されます。
また、ウイルス性感染症を発症したときにアスピリンのような薬剤を使用していない場合でも、子どもの様子がおかしいと感じた場合は、すぐに医療機関へ受診することが重要です。
現在ではこれらの予防策が広く認知されているため、ライ症候群の発症はまれですが、症状や予防の知識を持っておくことが大切です。
参考文献