監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
心サルコイドーシスの概要
心サルコイドーシスは、サルコイドーシスという全身性慢性炎症性/肉芽腫性疾患が心臓に影響を及ぼす状態を指します。サルコイドーシスは、肉芽腫(にくげしゅ:類上皮細胞やリンパ球などの細胞が集合して生じる結節)が、リンパ節、目、肺、心臓など、全身のさまざまな臓器に発生する疾患です。
心臓サルコイドーシスでは、これらの肉芽腫が心臓に形成され、伝導系、心筋、弁、乳頭筋、心膜などを侵害します。伝導系が侵されると、1度、2度、または3度房室ブロック(完全房室ブロック)、左脚前枝または左脚後枝ブロック、左脚または右脚ブロックが発生することがあります。洞結節動脈の侵害により、洞機能不全による徐脈性不整脈も見られることがあります。心筋が侵されると、頻拍性不整脈、特に心室頻拍(ventricular tachycardia: VT)が起こりやすくなります。また、心房頻拍、心房粗動、心房細動も発生する可能性があります。心筋症は、労作時呼吸困難、疲労、末梢浮腫など、心不全のさまざまな症状を引き起こすことがあります。
多くの患者さんは無症状ですが、合併する徐脈性不整脈および頻拍性不整脈が動悸、失神、ときに心停止や突然死を引き起こすこともあります。
サルコイドーシス自体の治療は、コルチコステロイド(例:プレドニン)を使用して治療されます。コルチコステロイドは免疫を抑制するために使用されます。不整脈症状に対しては、ペースメーカーまたは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)の植え込みが必要となる場合があります。頻脈に対しては心筋焼灼術(アブレーション)も行われることがあります。
近年の免疫抑制治療、不整脈治療、心不全治療の進歩により、症状が軽減し、生存率が向上していますが、早期診断と適切な治療が重要です。
心サルコイドーシスの原因
主に免疫機能の異常により発生すると考えられています。サルコイドーシス全般に共通する特徴として、さまざまな免疫細胞(類上皮細胞、リンパ球など)が関与して肉芽腫が形成されることが挙げられます。近年の研究では、心サルコイドーシスにおける肉芽腫の形成に「Propionibacterium acnes」と呼ばれる細菌が関与している可能性が指摘されています。この細菌はニキビの原因となるものですが、サルコイドーシスの肉芽腫の中にも存在することが知られており、肉芽腫の形成に何らかの役割を果たしている可能性があります。
遺伝的な要因も関与していることが考えられています。特定のHLA型(ヒト白血球抗原)を持ち、ある特定の遺伝子多型(例:CCR2遺伝子、NOD1遺伝子)を持つ個人がサルコイドーシスの発症リスクが高まることが報告されています。
>環境要因も影響を与える可能性がありますが、具体的な環境要因についてはまだ明確な証拠はありません。ただし、地域や人種による発生率の差(例:北欧やアフリカ系の人々に多く見られる)から、環境要因が何らかの役割を果たしている可能性は否定できません。
心サルコイドーシスの前兆や初期症状について
初期には無症状であることが多いようです。全身性サルコイドーシス患者さんの約25%に心病変が存在することが報告されており、そのうち約20%が症候性の心病変を示します。しかし、多くの場合、心臓への病変は無症状で進行することがあります。また、非特異的な全身症状が見られることがあります。これには、全身性の疼痛、疲労感、発熱、痺れ(しびれ)などが含まれます。
心筋が障害されると、労作時呼吸困難、疲労、四肢末梢の浮腫など、心不全のさまざまな症状が見られることがあります。
不整脈、例えばVT、心房頻拍、心房粗動、心房細動などが発生する可能性があります。これらの不整脈は、動悸、失神、ときに心停止や突然死を引き起こすことがあります。
心サルコイドーシスの病院探し
循環器内科や呼吸器内科、一般内科、皮膚科の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
心サルコイドーシスの検査・診断
複数の検査と臨床的評価を組み合わせて行われる必要があります。全身性サルコイドーシスが既に診断されている患者さん、または原因不明の心伝導ブロック、VT、または心不全を呈する若年患者さんでは、心サルコイドーシスを疑うことが重要です。
心電図
心臓の電気活動を評価する基本的な検査です。心サルコイドーシスでは、1度、2度、または完全房室ブロック、左脚前枝または左脚後枝ブロック、左脚または右脚ブロックが認められることがあります。
心エコー検査
心臓の構造と機能を評価するために行われます。心室中隔の薄化、心室壁の厚化、または僧帽弁閉鎖不全が見られることがあります。
画像診断
心臓MRI
特にガドリニウム造影剤を注射して遅延造影されることは、診断に大変有用です。MRIでは、心筋の炎症や線維化が明確に視覚化されるため、病変の範囲と活動性を評価することができます。
18F -FDG (Fluorine-18 fluorodeoxy glucose) PET
診断がついたときに、炎症の広がり、活動性、多臓器の病変などを診断する目的で行われます。心サルコイドーシスでは、炎症部位でのFDGの異常取込みが見られます。治療後、効果判定のために再度検査を行うこともあります。
67Ga(ガリウム)シンチグラフィー
炎症の評価に使用されることがあります。ガリウムの異常取り込みは、心サルコイドーシスの診断を支持します。
心筋生検
最も確実な証明方法ですが、感度は低く、技術者の熟練度によっても診断の感度や正確性が異なります。心筋生検では、非乾酪性肉芽腫の存在が確認されます。
心サルコイドーシスの治療
薬物療法が主体となります。
コルチコステロイド
心サルコイドーシスの基本的な治療は、コルチコステロイド(例:プレドニン)によるものです。コルチコステロイドは炎症を抑制し、肉芽腫の形成を防ぐ効果があります。治療は比較的多量(1日30mg程度)から始めて、1か月程度をめどに減量していきます。その後も長期にわたって維持量の内服が必要です。再燃することもあるので、内服の期間や維持量については患者さんごとに異なります。
免疫抑制薬
コルチコステロイド単独で効果が不十分な場合や、副作用が問題となる場合には、免疫抑制薬(例:メトトレキサート)が追加されることがあります。これらの薬剤は、免疫反応を抑制し、病態の進行を防ぐ役割を果たします。
抗不整脈薬
不整脈、特にVTが発生する場合、抗不整脈薬やカテーテルアブレーションが行われることがあります。ただし、クラスIの抗不整脈薬は心サルコイドーシスでは避けるべきです。また、症状に応じて、ペースメーカーや植え込み型除細動器の植え込みをすることがあります。
心不全の治療
β遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬、ミネラルコルチコステロイド受容体拮抗薬などが使用されます。心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT〜ペースメーカーを用いて心房と両側の心室を同時に刺激すること)も、心機能低下が重症化した場合には有効です。極めて重症な場合には、心臓移植が考慮されることもあります。
心サルコイドーシスの対処法
心サルコイドーシスは厚生労働省の特定疾患(指定難病)に指定されており、治療費の助成を受けることができます。
心サルコイドーシスになりやすい人・予防の方法
サルコイドーシス自体は、原因不明の全身性非乾酪性肉芽腫性疾患であり、特定の抗原に対する免疫反応によるものと考えられています。家族内に集中して発症することはなく、遺伝性疾患ではありませんが、特定のHLA型(ヒト白血球抗原)を持ち、ある特定の遺伝子多型を持つ個人がサルコイドーシスの発症リスクが高まることが報告されています。日本人やアフリカ系アメリカ人に比較的多く見られます。また、女性に多く見られ、特に出産後の期間に症状が悪化することがあります。
予防は難しいですが、早期発見と治療が重要です。サルコイドーシスが既に診断されている患者さんには、定期的な心電図や心エコー検査、MRIなどの画像検査が推奨されます。これにより、心臓への病変を早期に発見し、適切な治療を開始することができます。更に、一般的な心臓病と同様に、健康的な生活習慣が推奨されます。過労やストレスを避け、規則正しい生活を送ることが重要です。また、一部の研究では、ビタミンDがサルコイドーシスの病態を悪化させる可能性が指摘されていますが、定かではありません。ただし、ビタミンDを多く含む食物や日光を避けることが推奨される場合もあります。
参考文献