監修医師:
勝木 将人(医師)
ポルフィリン症の概要
ポルフィリン症は、体内のヘムという物質の生成に関わる代謝異常が原因で発症する病気です。
ヘムは「ポルフィリン」と「鉄」から成る物質で、赤血球の中で酸素を運ぶ役割を担っています。しかし、ヘムがうまく生成されないと、ポルフィリンが過剰に蓄積され、さまざまな症状を引き起こします。
ポルフィリン症は「皮膚ポルフィリン症」と「急性ポルフィリン症」の2つに大別されます。
さらに皮膚ポルフィリン症は、肝・骨髄性ポルフィリン症、骨髄性プロトポルフィリン症、晩発性皮膚ポルフィリン症、先天性骨髄性ポルフィリン症の4種類に分けられます。
一方、急性ポルフィリン症は、急性間欠性ポルフィリン症、異型ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症、ALAD欠損性ポルフィリン症の4種類に分けられます。
ポルフィリン症の原因
ポルフィリン症は、ヘムを生成するのに必要な8種類の酵素のうちいずれかの欠損が原因で引き起こされます。ヘムはポルフィリンと鉄の合成物質ですが、酵素の欠損でヘムが合成されない場合、ポルフィリンやポルフィリンになる前段階の物質が体内に蓄積します。このポルフィリンの過剰蓄積が、さまざまな症状を引き起こす原因となります。
ポルフィリン症の種類によって、どの酵素が欠損しているかは異なります。たとえば、肝臓でのヘム合成が影響を受ける場合は肝臓型ポルフィリン症、赤血球での異常が主な場合は赤血球型ポルフィリン症と分類されます。
酵素の異常は遺伝子変異が関わっていることは分かっていますが、詳細については解明されていないのが現状です。
また、皮膚ポルフィリン症の一種である、晩発性皮膚ポルフィリン症以外のポルフィリン症は遺伝する傾向があります。両親が無症状であっても変異した遺伝子をもっている場合には、遺伝する可能性があります。
ポルフィリン症の前兆や初期症状について
ポルフィリン症の初期症状は、主に皮膚に現れるものと、その他の臓器に影響を及ぼすものに分けられます。
皮膚ポルフィリン症の場合、日光に対する過敏症状が特徴的です。紫外線ではなく可視光線が原因となり、日光に当たると皮膚がチクチクしたり、かゆみを感じたりします。症状が進むと、皮膚が赤く腫れ、重症化すると水疱やかさぶたができることもあります。
短時間の日光曝露でも症状が出ることがあり、個人差がありますが、季節や天候によって症状の出方も変わります。皮膚症状が治っても、瘢痕として跡が残る場合も少なくありません。
また、皮膚ポルフィリン症のなかでも、骨髄性プロトポルフィリン症や晩発性皮膚ポルフィリン症では肝臓にも影響が出ることがあり、肝機能障害や肝硬変のリスクが高まります。重症例では肝不全に進行することもあるため注意が必要です。
皮膚以外の症状としては、急性型ポルフィリン症に見られる神経や消化器系の異常が挙げられます。腹痛や吐き気といった消化器症状に加え、手足のしびれや脱力感、さらにはけいれんや意識障害などの神経症状が現れることがあります。また、高血圧や心拍数の増加といった循環器系の問題も見られることがあり、これらの症状が同時に現れる場合は、早急に診断と治療が必要です。
ポルフィリン症は、症状が多岐にわたるため、早期に症状を認識し、適切な医療機関での診察を受けることが重要です。
ポルフィリン症の検査・診断
ポルフィリン症は、種類によって診断基準が定められており、症状の発現状況、ポルフィリン代謝物の検出、遺伝的要因といった要素から判断されます。
視診・問診
はじめに医師による診察で、発症した時期・年齢や光線過敏があるかどうか、日光に当たって赤みや水ぶくれ、びらんが生じるか、他にどのような症状があるかなどを視診や問診で確認します。
尿検査
ポルフィリン症の場合、尿検査でポルフィリンとポルフィリン前駆体が検出され、検出されなかった場合ポルフィリン症でない可能性が高いといえます。しかし、尿中のポルフィリンの量が増加していることが分かっても、アルコールや鉛といった毒素の影響で増加していることもあるため、他の検査を組み合わせて総合的に判断する必要があります。
遺伝子検査
ポルフィリン症は遺伝要因が関わっているため、特定の酵素の異常や欠損を確認することができます。しかし、遺伝子検査は原因遺伝子を突き止めて病型を特定するだけでなく、出生前検査による子どもの発症リスクの予測にも役立ちます。しかし、出生前の遺伝子検査では正確に予測することが難しい場合も多いです。
血液検査
血液中のポルフィリンやポルフィリン前駆体の濃度を測定します。とくに、皮膚ポルフィリン症の診断では血液検査は重要で、鉄欠乏性貧血や溶結性貧血などの他の疾患との鑑別にも役立ちます。
ポルフィリン症の治療
ポルフィリン症の治療法は、急性ポルフィリン症と皮膚ポルフィリン症で異なります。
急性ポルフィリン症の治療
急性発作が起こった場合、第一にブドウ糖の投与や大量の点滴が行われます。ブドウ糖は、肝臓でのヘム合成を抑制して、ポルフィリンの蓄積を減少させる働きがあります。重度の場合はヘムの静注が行われ、急性発作の症状を軽減する効果が期待できます。
皮膚ポルフィリン症の治療
皮膚に症状が生じている場合、日光への過敏症状が考えられるため、まずは日光を避けることが重要になります。もし日光に当たり、水泡がかさぶたが生じた場合は、外用のステロイドや抗生物質を使用します。重症の場合には、血漿交換や鉄キレート剤の投与により、体内のポルフィリン濃度を低下させる治療を行うことがあります。
ポルフィリン症になりやすい人・予防の方法
ポルフィリン症になりやすいのは、主に遺伝要因をもつ人ですが、環境要因も発症リスクに関係していると考えられています。
家族にポルフィリン症の患者がいる場合、遺伝する可能性があるため注意が必要です。さらに、女性は妊娠でホルモンバランスの変動にともない発症の引き金になる可能性があると考えられています。また、アルコールの摂取や特定の薬物、ストレスなどもポルフィリン症の発作を引き起こす要因となります。
予防の方法としては、発症の引き金になるアルコールや薬物、ストレスを避けることが重要です。
参考文献