監修医師:
豊島 大貴(医師)
【資格】
日本心エコー図学会 SHD心エコー図認証医
【所属学会】
日本内科学会、日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本超音波医学会、日本心血管インターベンション治療学会など
IgG4関連疾患の概要
IgG4関連疾患は、全身のあらゆる臓器が腫れたり、固くなったりする原因不明の慢性炎症性疾患です。原因や発症のメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、自己免疫性疾患であると考えられており、血中のIgG4抗体という免疫グロブリンG(IgG)が高値となる、IgG4をつくる形質細胞という細胞などが浸潤し腫れるなどの特徴がみられます。
涙腺、唾液腺、膵臓、腎臓、後腹膜(腹膜の外側)、リンパ節、皮膚、乳腺などの臓器に障害を与え、複数臓器に障害が及ぶこともあれば、単一の臓器のみが障害されることもあります。障害される臓器によって症状は異なりますが、閉塞性黄疸、上腹部の不快感、食欲不振、涙腺・唾液腺の腫れ、眼・口腔の乾燥、水腎症、喘息のような症状などが高い頻度でみられます。
ステロイド治療により多くの例で改善がみられますが、減量や中断によって約半数で再発がみられ、難病指定されています。
IgG4関連疾患は2011年に疾患名がつけられた新しい疾患概念です。それまで別々の疾患として診療されてきた自己免疫性膵炎、涙腺唾液腺炎(ミクリッツ病)、慢性硬化性唾液腺炎(キュットナー腫瘍)、後腹膜線維症などに、血中のIgG4の上昇とIgG4をつくる形質細胞び浸潤が共通していることが明らかになり、IgG4関連疾患としてまとめられることになりました。
IgG4関連疾患の患者数は、日本全体で約8,000~15,000人と推定されており、高齢男性に多いことが報告されています。
(出典:日本IgG4関連疾患学会「IgG4関連疾患2020」)
IgG4関連疾患の原因
IgG4関連疾患のはっきりとした原因は明らかになっていません。
免疫グロブリンの一種であるIgG4の血中の上昇がみられる、IgG4をつくる形質細胞が全身のあらゆる臓器に浸潤している、ステロイドの治療が有効である、などの特徴により、自己免疫性疾患であると考えられています。
IgG4関連疾患の前兆や初期症状について
一般的には無症状、あるいは非常に軽度の症状であることが多いです。頻度の高い症状としては、主に以下が挙げられます。
- 閉塞性黄疸(肌や白眼が黄色くなる)
- 上腹部不快感
- 食欲不振
- 涙腺腫脹(涙腺の腫れ)
- 唾液腺腫脹(唾液腺の腫れ)
- 水腎症(尿の通り道の拡張)
- 咳や喘鳴など喘息様症状 など
これらの症状はあくまで一例です。障害される臓器によって症状は異なり、また個人差もあるため、すべての方に同一の症状がみられるわけではありません。
肺が障害された場合は喘息症状、涙腺や唾液腺が障害がされた場合はまぶたや下顎・耳の下の腫れ、目の乾きや口腔乾燥の症状がみられることがあります。また、膵臓や胆管が障害された場合は黄疸や糖尿病、腎臓や後腹膜が障害された場合は腎機能障害や水腎症、腹痛、腰痛などの症状がみられることがあります。気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の合併も多くみられます。
これらの症状は一般的な炎症性疾患や他の自己免疫性疾患でもみられるため、前兆や初期症状からIgG4関連疾患であると早期に診断することは難しく、はじめは他の病気を疑われることもよくあります。
IgG4関連疾患の検査・診断
IgG4関連疾患の診断は、2020年に厚生労働省研究班によって改訂された「IgG4 関連疾患包括診断基準 2020」が用いられますが、それぞれの臓器ごとの診断基準も作成されはじめており、両方を用いて診断することが多くなっています。
先述の通り、はじめは他の病気を疑われることもよくあることから、医師がIgG4関連疾患を疑ってかかることが診断につながります。IgG4関連疾患と診断するためには、検査などにより他の病気(悪性リンパ腫、全身性エリテマトーデスなど)を除外することが重要です。
IgG4関連疾患の検査には、血液検査、画像検査(造影CT、MRI)、生検検査などがあります。
血液検査
血液中のIgG4を測定します。「IgG4 関連疾患包括診断基準 2020」では、血清IgG4が135mg/dl以上であることが診断基準となっています。このほか、血清IgEの高値、白血球や血小板の減少、好酸球の増多などがみられることがあります。
画像検査
造影CTやMRIで病変を検索します。単一または複数の臓器にIgG4関連疾患に特徴的な画像所見(びまん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変)を確認します。
生検検査
病変組織の一部に針を刺す、手術によって取り出すなどして、顕微鏡で確認する検査です。IgG4関連疾患に特徴的な初見(リンパ球・形質細胞の明らかな浸潤と繊維化、IgG4陽性形質細胞の浸潤、特徴的な繊維化)などを確認します。
IgG4関連疾患の治療
ステロイド投与が第一選択薬となります。比較的高用量で治療を開始し、その後は次第に減らして低用量で維持療法を行います。多くの症例でステロイド治療が効果を示すことが明らかになっています。
維持療法は1〜3年で、症状が安定して維持されている場合はステロイド治療を中断してもよいとされていますが、減量や中断によって約半数で再発がみられます。
再発した場合、ステロイドの増量や免疫抑制薬の併用による治療が行われていますが、再発時の治療法はまだ確立されていません。
IgG4関連疾患になりやすい人・予防の方法
IgG4関連疾患は高齢の男性に比較的多くみられることが報告されていますが、唾液腺や涙腺の障害には男女差がないことがわかっています。
免疫に関係する遺伝子が発症に関係している可能性も指摘されていますが、家族発症はほとんどなく、遺伝性の疾患ではないと考えられています。
IgG4関連疾患の原因や病態はまだ不明な点も多く、予防の方法はありません。生活環境が与える影響なども分かっていませんが、IgG4関連疾患の方の生活上の注意として、アルコールの多飲、喫煙、ストレス、不眠などを避け、規則正しい生活をすることが推奨されています。
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参考文献