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多汗症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

多汗症の概要

多汗症とは、通常の体温調節の範囲を超えて、過剰に汗をかく状態を指します。日常生活に支障をきたすほどの汗をかくことが特徴で、全身または特定の部位に発汗が集中することがあります。多汗症は、全身性多汗症と局所性多汗症に分類されます。全身性多汗症は、全身にわたって大量の汗をかく状態で、局所性多汗症は手のひら、足の裏、脇の下、顔など特定の部位に限られた発汗が見られます。

多汗症は、特に若年層に多く見られ、思春期に発症することが一般的です。手掌多汗症(手のひらの多汗症)は、特に13.8歳が平均発症年齢とされています。多汗症は、遺伝的要因も関与していると考えられており、家族に同様の症状を持つ人がいる場合も少なくありません。

多汗症の症状は、単なる汗っかきとは異なり、本人の意志とは無関係に大量の汗が出ることが特徴です。例えば、手のひらが常に湿っている、紙に文字を書くと紙が濡れてしまう、握手を避けるようになるなど、日常生活に大きな影響を及ぼします。さらに、汗が原因で皮膚がふやけたり、湿疹ができたりすることもあります。

多汗症は、精神的なストレスや緊張が引き金となることが多く、特に社会的な場面での発汗が顕著です。これにより、患者さんは対人関係において不安やストレスを感じることが多く、生活の質(QOL)が低下することがあります。多汗症は、適切な治療と管理が必要な疾患であり、早期の診断と治療が重要です。

多汗症の原因

多汗症の原因は、大きく分けて「原発性多汗症」と「続発性多汗症」に分類されます。

原発性多汗症

原発性多汗症は、特定の原因が明らかでない場合を指し、遺伝的要因や交感神経の過剰な活動が関与していると考えられています。特に、手のひらや足の裏、脇の下などに左右対称に汗をかくことが特徴です。家族に同様の症状を持つ人がいる場合も多く、遺伝的な要因が強く示唆されています。

続発性多汗症

一方、続発性多汗症は、特定の疾患や薬剤の副作用が原因で発症するものです。例えば、甲状腺機能亢進症、糖尿病、更年期障害、肥満症などが続発性多汗症の原因となることがあります。また、特定の薬剤、特に向精神薬やステロイド剤なども多汗症を引き起こすことがあります。これらの疾患や薬剤が原因の場合、まずは基礎疾患の治療が優先されます。

精神的要因

精神的な要因も多汗症の発症に大きく関与しています。ストレスや緊張、不安などが交感神経を刺激し、発汗を促進することがあります。特に、社会的な場面や緊張する状況での発汗が顕著であり、これが多汗症の症状を悪化させることがあります。

不良な生活習慣

また、生活習慣や環境要因も多汗症の発症に影響を与えることがあります。例えば、辛い食べ物やアルコールの摂取、喫煙などが発汗を促進することがあります。さらに、運動不足や不規則な生活リズムも交感神経のバランスを崩し、多汗症を引き起こす要因となることがあります。

多汗症の前兆や初期症状について

多汗症の前兆症状として最初に気づくのは、特定の部位が常に湿っている状態です。例えば、手のひらが常に湿っている、足の裏が靴下を通して湿っている、脇の下が常に湿っているなどの症状が見られます。これらの症状は、特に運動をしていない時や気温が高くない時でも現れることが特徴です。
さらに、夜間の発汗が少ないことも多汗症の特徴です。多汗症の患者さんは、昼間に多くの汗をかく一方で、睡眠中は汗をかかないことが一般的です。これは、交感神経の活動が昼間に活発であるためと考えられています。

多汗症の初期症状は、単なる汗っかきとは異なり、本人の意志とは無関係に大量の汗が出ることが特徴です。これにより、患者さんは日常生活において多くの不便を感じることが多くなります。早期に症状に気づき、適切な対策を講じることが重要です。

初期症状としては、手のひらや足の裏が湿っているだけでなく、汗が滴り落ちるほどの量になることもあります。例えば、紙に文字を書いていると紙が濡れてしまう、握手をすると相手に不快感を与えるのではないかと心配になる、パソコンやスマートフォンの操作が困難になるなど、日常生活に支障をきたすことが多くなります。

過度なストレスでの発汗

また、精神的なストレスや緊張が引き金となることが多く、特に社会的な場面での発汗が顕著です。例えば、プレゼンテーションや面接、試験などの緊張する場面で手のひらや脇の下に大量の汗をかくことがあります。これにより、患者さんは対人関係において不安やストレスを感じることが多くなります。

多汗症の初期症状は単なる汗っかきと似ているため、放置せずに専門医の診察を受けることが大切です。皮膚科がある病院・クリニックにて、早期に適切な治療を受けることが推奨されます。

多汗症の検査・診断

多汗症の検査・診断は、主に問診と視診を通じて行われます。

問診・視診

患者さんの症状や発汗のパターンについて詳しく聞き取りを行います。例えば、発汗の頻度や量、発汗が始まった時期、発汗が特定の状況で悪化するかどうか、家族に同様の症状を持つ人がいるかなどの情報が重要です。
視診では、実際に発汗の状態を確認します。手のひらや足の裏、脇の下などの発汗部位を観察し、汗の量や範囲を評価します。視診だけで診断が難しい場合は、追加の検査が行われることがあります。

血液検査・ホルモン検査

また、発汗の原因を特定するために、血液検査やホルモン検査が行われることもあります。特に、続発性多汗症が疑われる場合は、基礎疾患の有無を確認するための検査が重要です。例えば、甲状腺機能亢進症や糖尿病、更年期障害などが原因となることがあるため、これらの疾患の有無を確認するための検査が行われます。

ヨード紙法

多汗症の重症度を評価するために、ヨード紙法や重量計測法などの検査が行われることがあります。ヨード紙法では、ヨードデンプンをしみこませた紙を使用し、発汗の範囲や量を確認します。汗に触れた部分が黒く変色するため、発汗の範囲や量が把握できます。

重量計測法

重量計測法では、予め重量を計ったろ紙を付着させたビニール手袋を装着し、一定時間後に発汗量を計測します。

多汗症の治療

多汗症の治療は、症状の重症度や発汗の部位、患者さんのライフスタイルに応じて選択されます。治療法は大きく分けて、外用薬、内服薬、注射療法、イオントフォレーシス、手術療法の5つに分類されます。

外用薬

外用薬としては、塩化アルミニウム製剤や抗コリン外用薬が一般的です。塩化アルミニウム製剤は、汗腺の出口を塞ぐことで発汗を抑える効果があります。抗コリン外用薬は、皮膚から吸収されて交感神経の活動を抑制し、発汗を減少させます。これらの外用薬は、手のひらや足の裏、脇の下などに塗布することで効果を発揮します。

内服薬

内服薬としては、抗コリン薬や漢方薬が使用されます。抗コリン薬は、エクリン汗腺からの発汗を抑える効果が期待されますが、口の渇きや便秘、目のかすみなどの副作用があるため、継続使用が難しい場合もあります。漢方薬は、自律神経のバランスを整える効果があり、精神的なストレスや不安を軽減することが期待されます。

注射治療

注射療法としては、ボツリヌス毒素注射が有効です。ボツリヌス毒素は、神経から汗腺への刺激の伝達をブロックし、発汗を抑える効果があります。手のひらや足の裏、脇の下などに注射することで効果を発揮しますが、効果の持続期間は最大で6ヶ月程度とされています。

イオントフォレーシス

イオントフォレーシスは、水を入れた専用の機器に弱い電流を流し、手や足を浸すことで発汗を抑える治療法です。電流を流すことで汗孔が潰れ、汗の量が減少します。効果が出るまでには数回の治療が必要ですが、比較的安全で効果的な治療法とされています。

手術療法

手術療法としては、交感神経遮断術が行われることがあります。これは、発汗を制御する交感神経を切断または焼灼する手術で、重症の多汗症に対して行われます。ただし、手術には代償性発汗という副作用が伴うため、慎重に検討する必要があります。

多汗症になりやすい人・予防の方法

なりやすい人の特徴(遺伝的要因)

遺伝的要因が強く関与していることが多く、家族に同様の症状を持つ人がいる場合、発症リスクが高まります。特に、手掌多汗症や足蹠多汗症は遺伝的要因が強く示唆されています。

なりやすい人の特徴(精神的なストレスや緊張が多い)

また、精神的なストレスや緊張が多い人も多汗症になりやすいです。社会的な場面や緊張する状況での発汗が顕著であり、これが多汗症の症状を悪化させることがあります。特に、プレゼンテーションや面接、試験などの緊張する場面で手のひらや脇の下に大量の汗をかくことが多いです。

生活習慣・環境要因

さらに、生活習慣や環境要因も多汗症の発症に影響を与えることがあります。例えば、辛い食べ物やアルコールの摂取、喫煙などが発汗を促進することがあります。運動不足や不規則な生活リズムも交感神経のバランスを崩し、多汗症を引き起こす要因となることがあります。

予防方法(緊張状態の緩和)

また、ストレスを溜めないようにすることも大切です。リラックスする時間を持つ、趣味や運動を楽しむなど、ストレスを軽減する方法を見つけることが必要です。

予防方法(生活習慣の改善)

多汗症の予防方法としては、まず生活習慣の改善が挙げられます。バランスの取れた食事や適度な運動、規則正しい生活リズムを心がけることが重要です。特に、辛い食べ物やアルコールの摂取を控えることが効果的です。

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