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微小変化型ネフローゼ症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

微小変化型ネフローゼ症候群の概要

微小変化型ネフローゼ症候群はネフローゼ症候群の一種で、子どもに多くみられる腎臓の疾患です。

そもそもネフローゼ症候群とは、腎臓の中でフィルター的な役割を担っている糸球体に障害が生じる疾患を指します。糸球体の透過性が異常に亢進することで、通常は尿中に漏れ出ることのないタンパク質(主にアルブミン)が大量に尿中に漏れ出し、血液中のタンパク質が減少することで、全身的な浮腫(ふしゅ:むくみのこと)をはじめとしたさまざまな症状が現れます。

微小変化型ネフローゼ症候群は、ネフローゼ症候群の症状が多く現れているにもかかわらず、顕微鏡で腎臓の組織を観察しても異常がほとんどみられないことが特徴です。

診断は尿検査や血液検査などが中心になり、必要に応じて腎臓の一部を採取して調べる腎生検をおこなうこともあります。

微小変化型ネフローゼ症候群の主な治療法はステロイド薬の投与です。治療で症状が改善しても再発しやすい傾向があるため、長期にわたる継続的な管理が重要です。

微小変化型ネフローゼ症候群の原因

微小変化型ネフローゼ症候群の原因は現在でも解明されていません。しかし、免疫系の異常が深く関わっていると考えられています。

何らかの影響で、免疫に関わる「T細胞」が放出するサイトカインなどの因子が足細胞(ポドサイト)の障害を引き起こし、糸球体の透過性が亢進することで発症すると考えられています。

そのほか「B細胞」という免疫系細胞も発症に関わっている可能性が示唆されています。

また、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患を持つ人に発症リスクが高いことが報告されており、何らかのアレルギー機序が関与しているとも考えられています。

微小変化型ネフローゼ症候群の前兆や初期症状について

微小変化型ネフローゼ症候群の症状は全身的なむくみで、発症は急激であることが多いです。

重力の影響を受けやすい部位にむくみが現れやすくなります。起床後は目の周り、日中から夕方は足や陰部などの下半身に生じることが多いです。

むくみにともなって体重が短期間で増加することもよくある症状です。また、尿量の減少も初期症状として多く認められます。

また、腸管にもむくみが生じるため、腹痛や下痢、嘔吐、腹部膨満感、食欲不振などの消化器症状を訴えることもしばしばあります。

重症の場合は血液中の水分が減少することで循環血漿量が急激に低下し、血圧の低下を引き起こす危険もあります。

微小変化型ネフローゼ症候群の検査・診断

微小変化型ネフローゼ症候群は、臨床症状の確認や尿検査、血液検査などによって診断します。

尿検査では高度のタンパク尿を呈していることが多いです。微小変化型ネフローゼ症候群の特徴として、尿中に漏れ出るタンパク質はアルブミンの割合が高い点が挙げられます。

血液検査では低タンパク血症と高コレステロール血症、血清IgGの減少などが認められることもあります。

血尿はともなわないことが多く、腎機能は正常であることが一般的ですが、まれに重症例では腎不全を来たすこともあります。

確定診断のために成人の場合は腎生検をおこないます。腎生検で得られた組織を光学顕微鏡で観察しても異常はほとんど認められませんが、電子顕微鏡を用いると糸球体内の細胞が特徴的な様子を示していることが確認できます。微小変化型ネフローゼ症候群は、光学顕微鏡では組織学的異常が乏しいが、電子顕微鏡で足突起癒合(foot process effacement)が認められることが特徴です。

小児の場合はネフローゼ症候群のほとんどが微小変化型であるため、通常腎生検は実施せず症状とステロイド治療への反応性から診断することが多いです。一方で、成人にも発症することがありますが、小児と比較するとステロイド抵抗性の割合がやや高いため、腎生検による確定診断が重要とされています。

微小変化型ネフローゼ症候群の治療

微小変化型ネフローゼ症候群は自然に寛解(かんかい:病状が治まっておだやかであること)することが少なく、薬物療法を中心に治療します。

初期段階の治療ではステロイド薬を投与することが一般的です。微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド薬に対する反応が良好で、治療開始から数日程度で尿中のタンパク質が減少することが多いです。

ステロイド薬に対する効果が現れた後も一定期間は同じ量を継続して服用し、その後様子を見ながらゆっくりと減量していきます。

むくみに対しては利尿薬を使用し、重度の低タンパク血症による循環不全がある場合はアルブミン製剤の投与もおこないます。

なお、微小変化型ネフローゼ症候群は再発しやすい特徴があるため、再発を繰り返す場合はステロイドパルス療法(大量のステロイドを短期間で投与する方法)や免疫抑制剤の併用を検討します。

また、食事療法として塩分制限はむくみの軽減に有効ですが、タンパク質制限の適応は低栄養のリスクを考慮して慎重に判断されます。特に小児では通常、タンパク質制限はおこないません。

微小変化型ネフローゼ症候群になりやすい人・予防の方法

微小変化型ネフローゼ症候群は明確な原因が解明されていないため、なりやすい人の特徴を断定することができません。

しかし、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患を持つ人は、微小変化型ネフローゼ症候群を発症する可能性があります。また、微小変化型ネフローゼ症候群は子どもに多く発症します。

発症メカニズムが完全には解明されていないことから、現時点で予防法も確立されていません。

しかし、発症した後の再発や重症化予防として、ステロイド薬や免疫抑制剤の用量・用法を守ることが重要です。

また、感染症がきっかけとなって再発することもあるため、手洗いやうがいなどの基本的な感染予防策を心がけることも大切です。

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