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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)
腎血管性高血圧症の概要
腎血管性高血圧症とは、腎臓へ血液を供給する腎動脈が狭くなることによって発生する高血圧の一種です。通常の高血圧と異なり、腎動脈の狭窄が原因となるため、薬による治療が十分な効果を示さないことがあります。腎動脈が狭くなると腎臓は血流不足と誤認し、血圧を上げる
ホルモン(レニン-アンジオテンシン系)を過剰に分泌するため、結果として高血圧が引き起こされます。
この病気は、特に動脈硬化が進行した高齢者や、
特発性線維筋性異形成(FMD)という病気を持つ若い方に多く見られます。治療が遅れると、高血圧が持続することで心臓や腎臓に負担がかかり、心不全や腎不全に進行する可能性があります。そのため、適切な診断と治療が重要です。また、腎血管性高血圧症は、一般的な本態性高血圧と区別がつきにくいため、早期発見には慎重な検査が必要になります。特に、若年で発症する高血圧や治療抵抗性の高血圧を呈する場合には、専門的な医療機関での評価を受けることがすすめられます。
腎血管性高血圧症の原因
腎血管性高血圧症の主な原因は、腎動脈の狭窄です。その要因として以下の二つが大きく関与しています。
1. 動脈硬化
高齢者に多くみられる原因で、動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積して血管が狭くなることで腎血流が低下します。これにより腎臓が血流不足を感知し、血圧を上昇させるホルモンを過剰に分泌することで高血圧が引き起こされます。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を抱える方は、動脈硬化の進行により腎血管性高血圧症のリスクが高まるため注意が必要です。
2. 線維筋性異形成(FMD)
若い女性に多くみられる疾患で、腎動脈の異常な発育が原因で狭窄が起こります。動脈硬化とは異なり、遺伝的要因やホルモンの影響が考えられています。
FMDは進行すると血管の狭窄や異常な拡張を伴い、重症化すると腎機能の低下や脳血管障害のリスクが高まる可能性があります。
このほか、血管炎や腫瘍による腎動脈の圧迫、外傷による損傷などもまれな原因となることがあります。腎血管性高血圧症は、早期に適切な検査を受けることで、根本的な原因に応じた治療が可能になります。
腎血管性高血圧症の前兆や初期症状について
腎血管性高血圧症は、通常の本態性高血圧と異なり、降圧薬の効果が不十分であることが特徴です。そのため、以下のような症状に注意する必要があります。
治療に抵抗する高血圧
通常の降圧薬を服用しても血圧が下がらない、あるいは降圧薬を複数組み合わせても十分な効果が得られない場合。
急激な血圧の上昇
特に若い年齢で突然高血圧を発症した場合、または高齢者で急に高血圧が悪化した場合。
腎機能の低下
血圧が高くなると腎臓に負担がかかり、血液検査で腎機能の指標(クレアチニンやGFR)の異常が見られることがあります。
片側の腎臓の萎縮
腎エコーやCT検査で、片方の腎臓が小さくなっている場合、腎動脈の狭窄が疑われます。
体液の貯留によるむくみ
腎臓の機能が低下すると、体内の水分バランスが崩れ、顔や足にむくみが生じることがあります。
頭痛やめまい
血圧の急激な変動がある場合、頭痛やめまいが起こることがあります。特に、起床時に強い頭痛を感じる場合には注意が必要です。
これらの症状がある場合、早めに医療機関を受診することが重要です。診療科としては、循環器内科や腎臓内科を受診するのが適切です。特に、既存の高血圧治療で効果が乏しい場合や、急に血圧が高くなった場合には、速やかに医師の診察を受けることをおすすめします。適切な診断を受けることで、より適切な治療方法が選択され、症状の進行を防ぐことが可能となります。
腎血管性高血圧症の検査・診断
腎血管性高血圧症の診断には、血圧測定だけでなく、さまざまな画像検査や血液検査が用いられます。まず、血液検査によって腎機能の低下やレニン・アンジオテンシン系の異常を確認します。特に、
クレアチニン値や糸球体濾過率(GFR)の低下が見られる場合、腎血管障害が疑われます。
次に、腎動脈の状態を評価するために、
腎動脈エコー(超音波検査)が実施されます。エコーでは、血流の速度や腎動脈の狭窄の有無を確認できます。さらに詳しい評価を行う場合、
CTアンギオグラフィー(CTA)や
磁気共鳴血管造影(MRA)が用いられます。これらの検査では、腎動脈の詳細な構造を確認し、狭窄の程度を評価することができます。
確定的な診断を行うためには、
腎動脈造影(カテーテル検査)が必要になる場合があります。この検査では、カテーテルを腎動脈まで挿入し、造影剤を用いて血流の状態を直接確認します。カテーテル検査は侵襲的な検査ですが、診断だけでなく、同時に治療(血管拡張術)を行うことができるという利点もあります。
適切な診断を行うことで、患者さんに適した治療法を選択することが可能になります。
腎血管性高血圧症の治療
腎血管性高血圧症の治療には、
薬物療法、血管形成術(バルーン拡張術やステント留置術)、外科的手術などが含まれます。まず、降圧薬を用いて血圧をコントロールしますが、効果が不十分な場合は血管形成術が適応されることがあります。
薬物療法
ACE阻害薬やARBが用いられますが、腎機能に影響を与える可能性があるため、定期的なモニタリングが必要です。
血管形成術
カテーテルを用いて狭窄部を広げる治療法で、特に線維筋性異形成が原因の場合に有効です。一方、動脈硬化による狭窄ではステントを留置することで血流を改善します。
外科的治療
カテーテル治療が困難な場合に選択される方法で、バイパス手術が行われることがあります。
患者さんの状態に応じた適切な治療を行うことで、血圧の管理と合併症の予防が可能になります。
腎血管性高血圧症になりやすい人・予防の方法
腎血管性高血圧症は、特定のリスク因子を持つ方に発症しやすいとされています。特に、高齢になると動脈硬化が進行しやすくなり、腎動脈の狭窄が生じる可能性が高まります。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を持つ方では、血管の損傷が進行しやすいため、腎血管性高血圧症のリスクが上がります。さらに、喫煙習慣がある方では動脈硬化が加速するため、腎動脈の血流が悪化しやすくなります。家族に動脈硬化やFMDの患者さんがいる場合、遺伝的要因の影響も考えられます。特に若年女性では、
FMDが原因で腎動脈の狭窄が起こることがあるため、注意が必要です。
腎血管性高血圧症の発症を防ぐためには、日常生活の中でいくつかの点に気をつけることが大切です。まず、塩分の過剰摂取を避け、
栄養バランスの取れた食事を心がけることで、高血圧や動脈硬化の進行を抑えられます。また、適度な有酸素運動を継続することは、血流の改善や血管の健康維持につながります。喫煙は動脈硬化を悪化させるため、禁煙を検討することが重要です。さらに、
ストレスをため込まないよう、リラクゼーションや十分な睡眠を確保することも血圧管理に役立ちます。
また、定期的な健康診断を受けることで、高血圧や腎機能の異常を早期に発見し、適切な治療を受けることが可能です。特に、家族歴がある方や既に高血圧の治療を受けている方は、腎血管の状態を定期的にチェックすることが推奨されます。腎血管性高血圧症は、適切な生活習慣を維持することで予防や進行の抑制が可能な病気です。リスクが高いと考えられる場合は、早めに医療機関を受診し、医師のアドバイスを受けることが重要です。