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アルポート症候群
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

アルポート症候群の概要

アルポート症候群は、腎臓、耳、目に影響をおよぼす遺伝性の病気で、進行すると腎不全を発症するのが特徴です。日本では約1,200人の患者がいると推定されており、国の指定難病に登録されています。

(出典:難病情報センター「アルポート症候群」)

腎臓には「糸球体」という、血液をきれいにする働きをもつフィルターのような構造があります。糸球体のなかでも特に重要な「糸球体基底膜」という部分の主成分である「Ⅳ型コラーゲン」が正常に作られないことで、アルポート症候群が引き起こされます。

主な症状として、血尿やタンパク尿などが挙げられます。進行すると腎機能が低下して腎不全に至る可能性があるため、早期診断・早期治療が望まれます。

アルポート症候群

アルポート症候群の原因

アルポート症候群の原因は、Ⅳ型コラーゲンの生成にかかわる遺伝子の変異です。Ⅳ型コラーゲンは、腎臓や耳、目などにおいて、構造を支えるために必要なタンパク質です。とくに腎臓では「糸球体基底膜」を作るうえで欠かせません。

糸球体基底膜は、腎臓で血液から不要な水分や老廃物を濾過するための膜です。膜がしっかりと機能することで、体に必要な成分(タンパク質や赤血球など)が尿に漏れ出ることなく保たれます。

しかし、アルポート症候群ではⅣ型コラーゲンが正常に作られないため、基底膜がきちんと形成されず、タンパク質や赤血球が尿中に漏れ出してしまいます。このような状態が継続することで、徐々に腎臓の機能が低下していきます。

また、Ⅳ型コラーゲンが作られないことで、腎臓以外の部位にも影響をおよぼします。これは耳や目にも同じⅣ型コラーゲンが使われていることが原因であり、聴力や視力にも影響が出ることがあります。

アルポート症候群の前兆や初期症状について

アルポート症候群は、初期段階ではゆっくりと症状が進行するため、発見が遅れることも少なくありません。

血尿

アルポート症候群の初期には、血尿が見られます。
多くの場合、見た目では血液が混ざっていることはわかりません。3歳健診や小学校での尿検査で異常を指摘されて初めて見つかることが多いです。

タンパク尿

尿中にタンパク質が含まれる「タンパク尿」が進行にともなってあらわれるようになります。

タンパク尿が見られるのは、腎臓のろ過機能が低下している証拠です。アルポート症候群がさらに進行すると、タンパク尿の量は増えていきます。
とくに深刻な場合は、大量のタンパク尿が続くことで血中のタンパク質が減り、むくみが生じる「ネフローゼ症候群」を発症する場合もあります。

難聴

難聴はアルポート症候群の特徴的な症状の一つです。難聴のなかでも、高音域が聞こえにくくなる感音性難聴が生じます。高い音が聞こえづらい、女性や子どもの声が聞こえづらいといった症状としてあらわれるのが特徴です。思春期頃に発症し、成人期まで進行することがあります。

ただし、すべての患者さんが難聴を発症するわけではなく、人によっては難聴を発症しない場合や難聴の程度にも個人差があります。

視覚異常

目では、主に角膜や水晶体に問題が生じます。具体的には、角膜の透明度が低下する「角膜混濁」や、水晶体の形が変化することによる「白内障」が起こることがあります。角膜混濁や白内障によって、見え方がぼやける、まぶしく感じる、視力が低下する、乱視が進むなどの症状があらわれます。

アルポート症候群の検査・診断

アルポート症候群の診断では、血尿の有無とⅣ型コラーゲンの生成にかかわる遺伝子変異の確認が重要です。

これらに「糸球体基底膜の特徴的な所見」や「両耳の高音感音性難聴」「腎炎や腎不全の家族歴」「眼の特徴的な所見」などの要素を含めて判断します。

尿検査

先述したように、アルポート症候群では発症初期から血尿があらわれ、進行にともないタンパク尿も見られるようになります。血尿やタンパク尿は肉眼で確認できないことが多いため、尿検査で調べる必要があります。

実際の発見経路としては、医療機関で尿検査を実施するよりも、3歳健診や小学校での尿検査で異常を指摘されることが多いです。時には、発熱をともなう風邪を引き、血尿に気づいて医療機関を受診し、尿検査の実施に至ることもあります。

遺伝子検査

遺伝子検査は、アルポート症候群の確定診断に必要な検査です。Ⅳ型コラーゲンの生成にかかわる遺伝子に変異があるかどうかを調べます。遺伝子検査の結果から、今後どのように進行する可能性が高いか、家族の中に発症する可能性がある人はいるのかなどを知ることもできます。

聴力検査

高音域の音が聞こえにくくなる「感音性難聴」が確認された場合、アルポート症候群の可能性が疑われます。アルポート症候群と診断された場合、定期的に聴力検査を行い、聴力低下の進行度を確認することも重要です。

腎生検

腎生検は、腎臓の組織を採取して顕微鏡で分析する検査です。腎臓の基底膜の状態を確認し、アルポート症候群特有の病変が見られるかを確認します。この検査結果は、診断材料というよりも、腎機能の低下度合いや治療方針を確認するために行われます。

アルポート症候群の治療

アルポート症候群は根本的な治療法が確立されていません。そのため、アルポート症候群の治療の目的は、主に腎機能低下の進行を遅らせ、症状をコントロールすることにあります。

薬物療法

腎臓の保護を目的に、薬物療法を行います。特に重要なのが血圧の管理です。血圧が高くなると、タンパク尿の量が増えてしまい、腎臓機能の低下につながります。そのため、腎臓への負担を軽減するために、血圧を下げる降圧薬が使われます。

透析治療や腎臓移植

アルポート症候群が進行し、腎不全に至った場合、透析治療や腎臓移植が必要です。

透析は正常な腎臓が行っている老廃物の除去や水分のコントロールなどのはたらきを、機械で行う治療法です。

一方、腎臓移植は、機能が低下した腎臓の代わりに、正常な腎臓を移植する治療法です。移植後は、拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を使います。

アルポート症候群になりやすい人・予防の方法

アルポート症候群は、遺伝子の変異によって起こる病気のため、家族に同じ病気の方がいる場合は、発症する可能性が高くなります。もし、家族にアルポート症候群の患者さんがいる場合は、無症状でも早めに尿検査や遺伝子検査などを受けることをおすすめします。

遺伝性の病気のため根本的な予防は難しいですが、病状の悪化を防ぐためにも、早期発見・早期治療が望まれます。血尿が確認された場合など、できるだけ早く医療機関を受診するようにしましょう。


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