監修医師:
澤田 樹佳(富山県のさわだクリニック)
20022金沢大学卒 / 2014年金沢大学大学院卒 / 現在は、富山県のさわだクリニック院長 / 専門は泌尿器科、在宅、緩和医療、東洋医学
保有免許・資格
泌尿器科専門医、指導医
医師へのコミュニケーションスキルトレーナー
副腎腫瘍の概要
副腎は、左右の腎臓の上部に位置する3〜4cm程度の内分泌臓器で、表面の「皮質」という部分と内部の「髄質」という部分からなります。
副腎皮質からはアルドステロン、コルチゾール、テストステロン、副腎髄質からはアドレナリン、ノルアドレナリンなど、生体の維持に重要な役割を果たすホルモンが分泌されています。
副腎腫瘍は副腎に発生する腫瘍です。ホルモンを産生する「機能性腫瘍」と産生しない「非機能性腫瘍」に分類され、それぞれ良性腫瘍と悪性腫瘍に分かれます。
代表的な良性の機能性腫瘍には、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫などがあり、産生するホルモンの種類によりさまざまな症状が生じます。悪性腫瘍の代表的なものには、副腎皮質がんや悪性褐色細胞腫があります。
非機能性腫瘍は良性・悪性問わず無症状であることが多く、健康診断や人間ドックのCT検査などで偶然に見つかることもあり、このような副腎腫瘍は副腎偶発腫と呼ばれます。
副腎腫瘍の治療には、手術療法や化学療法(抗がん剤治療)があります。悪性の疑いが強い場合やホルモン産生異常をきたす機能性腫瘍の場合、手術によって腫瘍を摘出することが一般的です。
ホルモンを産生しない非機能性腫瘍の場合は経過観察となることが多いです。しかし腫瘍に増大傾向がみられた場合などは悪性の可能性が疑われ、摘出手術を検討します。手術による腫瘍の切除が難しい場合などは、抗がん剤治療が実施されます。
副腎腫瘍の原因
副腎腫瘍の原因は機能性腫瘍、非機能性腫瘍ともに明確には解明されていませんが、褐色細胞腫の一部は遺伝子の異常が原因で発生することが明らかになっています。
また、多発性内分泌腫瘍症(MEN)という疾患において、褐色細胞腫を発症する可能性があることが指摘されています。
副腎腫瘍の前兆や初期症状について
ホルモンを産生しない非機能性腫瘍の場合は、良性・悪性を問わず無症状であることが多いです。ホルモンを産生する機能性腫瘍の場合は、産生するホルモンの種類によりさまざまな症状があらわれることがあります。
代表的な機能性腫瘍である原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫それぞれの主な症状は以下のとおりです。
原発性アルドステロン症
副腎腫瘍の機能性腫瘍のなかでは最も多くみられる疾患で、アルドステロンの過剰分泌により、高血圧、血中カリウム低値、筋力低下、手足のしびれなどがあらわれることがあります。
近年、高血圧患者における約5〜10%が原発性アルドステロン症を発症していることが明らかになってきており、高血圧患者の精査で原発性アルドステロン症が見つかることがあります。
クッシング症候群
原発性アルドステロン症に次いで多い機能性腫瘍で、コルチゾールの過剰分泌により、満月用顔貌、高血圧、中心性肥満(手足は細い)、月経異常、糖尿病、骨粗しょう症などの症状があらわれます。また、不眠症や抑うつなどの精神症状があらわれることもあります。
褐色細胞腫
血圧を上昇させる作用があるカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)が過剰に分泌され、高血圧、動悸、頭痛、発汗、胸痛、体重減少、振戦(ふるえ)など多岐にわたる症状がみられます。これらの症状は、普段は症状がなくても運動やストレスなどにより、発作的に症状があらわれることもあります。
高血圧の治療をしているのになかなか血圧が下がらない場合や、食事や運動量が変わらないのに体重が増えてきた場合などは、副腎腫瘍の症状である可能性もあるため、注意が必要です。
副腎腫瘍の検査・診断
副腎腫瘍の診断は、画像検査やホルモン検査により行われます。
CTやMRIなどの画像検査で副腎の腫瘍が確認されれば、血中および尿中のホルモン値を測定し、ホルモンの過剰分泌の有無を確認します。画像検査では腫瘍の大きさや位置、形状を確認し、ホルモン検査とあわせて、必要に応じて特殊な画像検査(PET-CT、MIBGシンチグラフィなど)を行う場合もあります。
副腎腫瘍の治療
副腎腫瘍の治療には、手術療法、化学療法(抗がん剤治療)があります。悪性の疑いが強い場合やホルモン産生の異常をきたす機能性腫瘍の場合は、手術によって腫瘍を摘出することが一般的です。
非機能性腫瘍で腫瘍が小さい場合は、定期的に検査をしながら経過観察となることも多いです。しかし腫瘍が大きくなっていく傾向がみられた場合には、悪性の可能性を疑い、摘出手術が検討されます。
手術療法
副腎腫瘍の手術は、腹腔鏡手術で行われることがほとんどです。腹腔鏡手術が困難な大きな腫瘍の場合などは、開腹手術を行います。
機能性の良性副腎腫瘍の場合、手術で腫瘍を摘出することで症状の改善が期待できます。
化学療法(抗がん剤治療)
手術によって腫瘍を切除することが難しい場合や腫瘍が再発した場合などは、化学療法(抗がん剤治療)を実施します。また、手術後に再発予防の目的で化学療法を実施することもあります。
副腎腫瘍になりやすい人・予防の方法
副腎腫瘍の原因は明らかになっていませんが、発症に年齢との関係が報告されている副腎腫瘍もあります。
例えば、悪性の副腎腫瘍である副腎皮質がんは、100万人に約1〜2人とまれながんですが、10歳未満の小児や30〜40歳代で発生しやすいことが報告されています。
また、褐色細胞腫を発症する可能性が高いとされている多発性内分泌腫瘍症(MEN)は遺伝性疾患であるため、家族に多発性内分泌腫瘍症の方がいる場合、副腎腫瘍を発症するリスクが高まる可能性があります。
副腎腫瘍の予防方法は確立されていませんが、副腎腫瘍の初期症状は無症状であることも多いため、定期的に健康診断や人間ドックを受け、異常があった場合には早期発見・早期治療することが重要です。
参考文献