

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
水腎症・水尿管症の概要
尿は腎臓で作られ、腎盂、尿管、膀胱、尿道を通って体外に排泄されます。水腎症は、尿の流れが悪くなり、腎臓で作られた尿が膀胱や体外へ正常に排出されず、腎盂および腎杯が拡張し、腎実質が圧迫される状態を指します。最終的に腎機能が低下することもあります。水尿管症は、尿管が尿で膨らむ状態を指します。尿管は腎臓・腎盂と膀胱をつなぐ管であり、尿の流れが阻害されると尿管が膨張します。これにより腎臓にも圧力がかかるため、水腎症を伴うこともあります。
水腎症・水尿管症の原因
下記のような原因により、腎盂、尿管、膀胱、尿道の流れが悪くなったり、尿の流れを妨げたりすることで水腎症や水尿管症になります。
1.尿路結石
尿路に石が形成され、尿の流れが妨げられることがあります。
2.尿路の狭窄
尿管や尿道が先天的または後天的に狭くなることで、尿の流れが阻害されます。例えば、先天的な要因としては先天性の尿道弁や尿管の発生異常による狭窄・閉塞、膀胱出口部の形態異常、後天的なものには外傷や炎症、感染によるものなどがあります。
3.腫瘍
腎臓、膀胱、またはそれ以外の部分の尿路の腫瘍やポリープが尿の流れを妨げることがあります。
4.神経障害
脊髄損傷や糖尿病などによる神経障害が、膀胱や尿路の機能に影響を与えることがあります。
水腎症・水尿管症の前兆や初期症状について
水尿管症がひどくなった場合、水腎症を合併することがあり、その際はどちらも同じような症状が出現します。
1.腹部または背中の痛み
腎臓の腫れにより痛みが生じます。
2.尿量の減少
尿が正常に排出されないため、尿量が減少します。
3.尿の変色
血尿や濁った尿が見られることがあります。
4.発熱や感染症
尿の流れが悪くなり、うっ滞することで感染症を合併し、尿路感染症を併発することがあります。またそれによって頻尿になることもあります。
これらの症状が現れたら泌尿器科を受診しましょう。
水腎症・水尿管症の検査・診断
1.病歴聴取と身体検査
患者の症状(腹痛、排尿困難、血尿など)を詳しく聴取します。また、既往歴、特に泌尿器系や骨盤内の手術歴や感染症などを確認します。身体検査では腹部の触診を行い、腰部や側腹部の叩打痛を評価します。
2.画像検査
超音波検査(腹部エコー)
腎臓や尿管の拡張を確認するために行われる初期スクリーニングツールです。非侵襲的であり、迅速に実施できます。水腎症の拡張を評価するためにSFU(Society for Fetal Urology)分類が用いられ、グレード0〜4に分類されます。グレード0は水腎症なし、グレード1は腎盂の拡張のみ、グレード2は腎盂の拡張と一部腎杯の拡張、グレード3は腎盂拡張と全ての腎杯拡張、グレード4は腎実質の菲薄化を伴う、とされています。
CT検査
骨組織や石灰化を中心に詳細な画像を提供し、尿路の閉塞部位や原因(結石、腫瘍、狭窄など)を明確にします。造影剤を使用することにより、血流や尿の流れを評価することも可能です。
MRI検査
軟部組織の詳細な画像を提供し、腎臓や尿管の異常を評価します。特に、CT検査を行えない場合(造影剤アレルギーなど)に利用されます。
静脈性尿路造影
造影剤を静脈に注入し、X線撮影を行うことで尿路の形態を評価します。尿の流れや閉塞の程度を確認するのに有効です。
核医学検査
放射性同位元素を使用し、腎機能と尿の排出能力を評価します。動態的な評価が可能であり、腎臓の機能低下を検出します。
3.尿検査
尿中の赤血球、白血球、細菌、結晶の有無を確認します。感染症や結石の存在を評価します。
4.血液検査
血中のクレアチニンや尿素窒素(BUN)を測定し、腎機能を評価します。電解質異常も確認できます。
5.尿流動態検査
尿流量測定検査(ウロフロメトリー)
尿の流れを測定し、排尿障害の有無を評価します。「おしっこの勢い」を調べる検査であり、普段と同じようにおしっこをするだけで、排尿量や勢い、排尿にかかる時間がわかるため、膀胱の機能や尿道の異常を調べることができます。
6.膀胱鏡検査
内視鏡を使用して尿道、膀胱、尿管、腎盂を直接観察し、閉塞の原因を特定します。腫瘍やポリープがあった場合は肉眼的に確認することが出来ます。
水腎症・水尿管症の治療
まずは水腎症・水尿管症の原因となっていることに対する治療が検討されます。ただし、原因に対する治療を十分に行うことが出来ないときは、症状を緩和するための治療が行われます。
1.尿路結石の除去
尿路結石がある場合、結石を取り除くことで尿の流れが改善します。まずは水分摂取が検討され、水分を大量に摂取することで尿量を増やし、結石を自然に排出しやすくします。1日2~3リットルの水を飲むことが推奨されます。薬物療法として、アルファ遮断薬(タムスロシンなど)は尿管の筋肉を弛緩させ、結石の排出を促進します。体外衝撃波結石破砕術では、衝撃波を体外から結石に集中させ、細かく砕いて尿と一緒に排出されるようにします。一般的に、2センチ以下の結石に有効です。これらが上手く行かない場合、外科的手法が検討されます。経尿道的尿管結石破砕術では、尿道から内視鏡を挿入し、レーザーなどで結石を破砕します。細かく砕かれた結石は尿と一緒に排出されます。尿管内の結石や、ESWLが効果を示さない場合に使用されます。腎臓内の大きな結石に対しては、経皮的腎石摘出術が行われます。背中に小さな切開を入れ、内視鏡を挿入して結石を直接取り除きます。大きな結石や複雑な結石に対して有効です。
2.尿管ステント留置術
尿管ステントは、尿管内に挿入される細いチューブで、尿の流れを確保し、閉塞を回避します。一時的または長期的な解決策として使用されます。比較的簡単で迅速な手技であり、内視鏡を用いるため、侵襲性が低い方法です。ただし、体内にステントを留置しておくため、感染症のリスクがあり、ステントの移動や閉塞の可能性もあります。
3.経皮的腎瘻造設術
経皮的腎瘻造設術は、腎臓に直接カテーテルを刺入して尿を排出させる方法です。腎盂に直接カテーテルを通し、尿を体外のバッグに排泄させます。腎臓への圧力を即時に軽減し、腎機能の保護が可能です。ただし、感染症や出血のリスクがあり、カテーテルの閉塞や移動が起こることもあります。
4.手術
尿路の狭窄を修復するため、尿路の狭窄に対しては尿路形成術、腎盂の狭窄に関しては腎盂形成術が行われます。重度の水腎症で腎機能が著しく損なわれた場合に、腎臓を摘出する手術です。また、腫瘍を取り除くために手術が行われることもあります。
5. 薬物療法
尿路感染症の症状が現れた場合には、尿培養検査を行い、適切な抗生物質を選択します。感染症のリスクが高い場合には予防的に処方されます。例えば、セファレキシンは多様な細菌に対して有効であり、軽度から中等度の感染症に使用されます。シプロフロキサシンは複雑な尿路感染症に有効です。痛みの管理も行われ、痛みの程度に応じて必要に応じて適切な量を投与します。アセトアミノフェンは軽度から中等度の痛みに対して使用されます。非ステロイド性抗炎症薬などは、炎症を軽減し、痛みを緩和します。
水腎症・水尿管症になりやすい人・予防の方法
水腎症・水尿管症になりやすい人は、過去に尿路結石や腎臓病を経験した既往歴のある人であり、リスクが高くなります。予防方法としては、十分な水分の摂取であり、尿の流れを良好に保ちます。食事の見直しも有用であり、結石の予防に役立つ食事を心がけます。過去にできた結石の成分に応じた食事療法が推奨されます。例えば、カルシウム結石の場合、カルシウムとシュウ酸の摂取量を調整します。食事中の塩分や動物性タンパク質の摂取を控えることも予防に有効です。
参考文献




