慢性特発性蕁麻疹
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

慢性特発性蕁麻疹の概要

慢性特発性蕁麻疹は、症状が6週間以上持続する「慢性蕁麻疹」のうち原因が特定できないものを指します。

蕁麻疹とは、身体のいずれかの皮膚に赤く盛り上がった皮疹(膨疹)ができる疾患です。多くの場合、膨疹は痒みを伴い、症状が繰り返し出現することがあります。発症から6週間以内のものは「急性蕁麻疹」、6週間以上続くものは「慢性蕁麻疹」と分類され、他に原因や病態によってさまざまな種類があります。国内では、5人に1人が蕁麻疹の既往があると言われています。

従来、蕁麻疹はアレルギーが原因と考えられていました。しかし、アレルギーを原因とする症例は全体の5%程度に過ぎず、半数以上がはっきりとした原因がわからない「特発性蕁麻疹」であることが分かっています。

慢性特発性蕁麻疹では、症状が長引くだけでなく、原因がわからないため治療に難渋することもあり、発症者の生活の質が著しく損なわれる恐れもあります。

治療では抗ヒスタミン薬などの薬剤が用いられ、薬物療法によって多くの場合症状の軽快が期待できます。しかし、中には治療が数年単位に及ぶケースもあります。

出典:葉山惟大著 「慢性特発性蕁麻疹の診断・治療の最新情報」

慢性特発性蕁麻疹の原因

慢性特発性蕁麻疹の原因は明らかになっていません。

蕁麻疹の一部はアレルギーとの関連性が示唆されていますが、実際にアレルギーを原因とするケースは全体の5%程度であることが報告されています。原因不明であるケースが多く、慢性蕁麻疹のうち原因がはっきりしない場合に「慢性特発性蕁麻疹」と診断されます。

出典:葉山惟大著 「慢性特発性蕁麻疹の診断・治療の最新情報」

慢性特発性蕁麻疹の前兆や初期症状について

慢性特発性蕁麻疹では、発症初期は他の蕁麻疹と同様に、身体のいずれかに痒みを伴う膨らんだ皮疹ができます。皮疹の大きさは1〜2mm程度の小さなものから手足全体を覆うものまでさまざまです。また、形状も地図のようなものや円形、楕円形のもの、線状のもの、花びら状のものもあります。

一般的に、蕁麻疹の膨疹は数十分から数時間程度で消失します。しかし、中には24時間程度持続するものもあります。

蕁麻疹は繰り返し症状が出現することもありますが、適切な治療によって治癒するケースもあります。しかし、発症者の数%は治癒せずに慢性蕁麻疹に移行することがわかっています。

出典:公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q &A 「じんましんってどんな病気ですか?」

慢性特発性蕁麻疹の検査・診断

慢性特発性蕁麻疹を確実に診断できる検査はなく、症状や発症者の訴えから複合的に診断されます。

一般的には、問診や視診などの結果、赤く痒みを伴う盛り上がった皮疹が繰り返し出現し、6週間以上持続している場合に慢性蕁麻疹と診断されます。

ただし、発熱や腹痛、嘔吐などの全身症状を伴う場合には、他のアレルギー性疾患の可能性もあります。また、問診や視診だけでは他の疾患と区別ができないケースもあります。そのような場合には、必要に応じて血液検査などがおこなわれます。

また、アレルギー性かどうかを調べるために、いくつかの検査がおこなわれる場合もあります。そのような場合には、アレルギー症状を引き起こしうる物質を皮内に注射したり、皮膚に乗せて針で刺したりして症状が誘発されるかを観察します。

これらの検査を行ったうえで、はっきりした原因が分からない場合に慢性特発性蕁麻疹と診断されます。

慢性特発性蕁麻疹の治療

慢性特発性蕁麻疹の治療では、症状の変化に応じた薬物療法がおこなわれます。

初期治療では、アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬が用いられます。抗ヒスタミン薬の内服によって症状が和らいだ場合には、症状が完全に消失するまで引き続き内服を続けていきます。

抗ヒスタミン薬のみで症状が改善しない場合には、補助的にH2受容体拮抗薬やロイコトリエン受容体拮抗薬などが用いられることがあります。

抗ヒスタミン薬やH2受容体拮抗薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬などを使用しても改善しない場合には、抗IgE抗体治療薬のオマリズマブと呼ばれる注射薬が考慮されます。オマリズマブは、4週間に一回皮下注射にて投与します。

オマリズマブは、2017年より慢性特発性蕁麻疹に対して保険適用となっています。ただし、投与には医師の判断が必要であり、他の治療で十分な効果が得られない場合に考慮されます。

このほか、痒みが強い場合など、症状によっては副腎皮質ステロイド薬が使用されるケースもあります。

慢性特発性蕁麻疹になりやすい人・予防の方法

慢性特発性蕁麻疹の原因は不明であるため、なりやすい人や予防の方法については明らかになっていません。

国内では5人に1人が蕁麻疹を発症し、そのうち数%の発症者では症状が長引く慢性蕁麻疹に移行することが分かっています。さらに、半数以上の発症者では原因が特定できないといわれています。そのため、誰でも慢性特発性蕁麻疹を発症する可能性があるといえます。

蕁麻疹を予防するには原因となる物質を避けることが重要ですが、慢性特発性蕁麻疹では発症の原因がわからないため予防することは困難です。

しかし、食べ物や植物、ハウスダストなどに対するアレルギー反応や、ストレス、紫外線の暴露などによって蕁麻疹を発症し、その後症状が長引いて慢性蕁麻疹に移行する可能性はあります。

蕁麻疹を予防するには、小麦などアレルギー反応を引き起こしやすい食物を控え、リラックスできる環境を整えてストレスを軽減させたり、紫外線対策を行なったりすることが役立つケースがあります。

このほか、早期発見・早期治療のため、身体のいずれかに痒みを伴う膨疹を認めたら、速やかに医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要です。


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