

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
腸性肢端皮膚炎の概要
腸性肢端皮膚炎(ちょうせいしたんひふえん)は、腸での亜鉛吸収障害によって引き起こされる疾患で、主に皮膚に症状が現れます。
先天性と後天性の2つのタイプがあり、先天性腸性肢端皮膚炎のケースは非常にまれで、50万人に1人程度の発症率とされています。
出典:小児慢性特定疾病情報センター「112先天性腸性肢端皮膚炎」
先天性腸性肢端皮膚炎は、亜鉛を運搬する役割を持つSLC39A4(ZIP4)遺伝子の異常によって引き起こされます。
後天性腸性肢端皮膚炎は、高カロリー輸液療法や炎症性腸疾患の罹患(りかん:病気にかかること)などによって、体内の亜鉛が不足することで発症します。
主な症状は、手足の先端や顔面、陰部周辺にできる発疹(水疱、赤み、ただれ、膿胞、丘疹)などの皮膚症状が現れることです。
先天性腸性肢端皮膚炎では、下痢や発育不全、免疫機能の低下、精神症状なども伴うことがあります。
治療の中心は亜鉛製剤の投与で、投与量は年齢や病態によって異なります。
先天性腸性肢端皮膚炎の場合、症状は亜鉛投与で速やかに改善しますが、再発を繰り返すため、生涯にわたる管理が必要になります。

腸性肢端皮膚炎の原因
先天性腸性肢端皮膚炎の場合、親から受け継いだSLC39A4(ZIP4)遺伝子の異常が原因です。
この遺伝子の異常により、生まれつき腸管での亜鉛吸収に障害が生じ、体内の亜鉛不足を引き起こします。
後天性腸性肢端皮膚炎は、さまざまな要因によって引き起こされます。
高カロリー輸液療法による亜鉛供給量の低下や、未熟児や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)による亜鉛吸収量の低下が主な原因になります。
そのほか、消化管の切除や慢性アルコール中毒、肝硬変、ネフローゼ症候群、腎不全、神経性食欲不振症、糖尿病、偏食、過激なスポーツなども後天性腸性肢端皮膚炎の原因となり得ます。
これらの要因により体内の亜鉛が不足し、特徴的な皮膚症状が現れます。
腸性肢端皮膚炎の前兆や初期症状について
腸性肢端皮膚炎の初期症状は、主に皮膚に現れ、特徴的な部位に症状が集中します。
手足の先端、口や目の周り、耳、鼻、外陰部、肛門周辺などに水疱や紅斑、びらん、膿胞、丘疹などの皮膚症状が生じます。
進行するにつれて口内炎や角膜炎、爪の変形、爪周囲炎、貧血、味覚障害、食欲の低下、骨粗鬆症なども現れることがあります。
先天性腸性肢端皮膚炎では、出生した数週間から数ヶ月で症状が発症し、これらの皮膚症状に加えて、脱毛や下痢も目立つようになります。
さらに、成長するにつれて低身長や性腺機能不全などの発育不全や、うつ傾向や不機嫌などの精神症状、免疫機能の低下も見られることがあります。
腸性肢端皮膚炎の検査・診断
腸性肢端皮膚炎の診断は、特徴的な臨床症状の観察に加えて、血液検査や尿検査、遺伝子学的検査を組み合わせておこなわれます。
血液検査では血清亜鉛値の低下が重要な指標になります。
亜鉛の酵素であるアルカリホスファターゼ(ALP)の値も低下していることが特徴的です。
また、尿検査では尿中の亜鉛排泄量の低下が確認されます。
これらの検査結果は、体内の亜鉛不足状態を示す重要な手がかりとなります。
最終的な確定診断には遺伝子検査が必要です。
特に先天性腸性肢端皮膚炎が疑われる場合、ZIP4遺伝子の異常を確認するための遺伝子解析がおこなわれます。
これらの総合的な診断により、腸性肢端皮膚炎を正確に診断し、適切な治療方針を立てることが可能になります。
腸性肢端皮膚炎の治療
腸性肢端皮膚炎の主な治療法は亜鉛製剤の投与で、体内の亜鉛不足を補うために大量の亜鉛を補充します。
しかし、亜鉛の大量投与は腸管での銅の吸収を低下させ、血中銅濃度の減少を引き起こす可能性があるため、定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。
先天性腸性肢端皮膚炎の場合、亜鉛製剤の内服投与がおこなわれます。
投与量は乳児期で3mg/kg/日、幼児期で30〜50mg/日、学童期で50〜150mg/日と成長に応じて段階的に増加させます。
亜鉛製剤を投与することにより症状は速やかに改善しますが、投与を中止すると再発を繰り返すため、生涯にわたる継続的な治療が必要です。
出典:小児慢性特定疾病情報センター「112先天性腸性肢端皮膚炎」
後天性腸性肢端皮膚炎の場合も、食事療法に加えて内服薬による亜鉛の補充がおこなわれます。
治療の目的は体内の亜鉛の量を正常値に保つことであり、症状の改善と再発防止のために継続的な管理が重要になります。
腸性肢端皮膚炎になりやすい人・予防の方法
先天性腸性肢端皮膚炎の場合、両親がZIP4遺伝子の異常を保有している人は発症リスクが高くなります。
後天性腸性肢端皮膚炎にはさまざまな要因が関与します。
亜鉛の吸収率や供給量が低下する未熟児や炎症性腸疾患、消化管の切除、慢性アルコール中毒、肝硬変、ネフローゼ症候群、腎不全、神経性食欲不振症、糖尿病、偏食、過激なスポーツなどは、体内が亜鉛不足におちいりやすくなります。
高カロリー輸液療法をしている人やアレルギーによるタンパク質制限食を摂っている人も注意が必要です。
先天性腸性肢端皮膚炎は完全な予防が困難ですが、後天性腸性肢端皮膚炎は亜鉛の摂取を意識することが予防法になります。
食事では牡蠣やレバー、牛肉、ホタテ、豆腐、ナッツ類などの亜鉛を多く含む食品を積極的に摂取することが推奨されます。
特に、栄養源が高カロリー輸液摂取のみの場合は、亜鉛を追加で補給することが重要です。偏食を避け、バランスの良い食事も心がけてください。




