

監修医師:
五藤 良将(医師)
肛囲皮膚炎の概要
肛囲皮膚炎(こういひふえん)は、肛門周囲から臀部(お尻)にかけて湿疹や発疹が生じ、強いかゆみやヒリヒリとした痛みが現れる皮膚の炎症です。
症状は主に肛門周囲の強いかゆみで、お風呂上がりなどに症状が強くなる傾向があります。また、肛門周囲の皮膚が赤黒くただれることもあります。進行すると皮膚が厚くなったり、色素沈着が起こったりすることもあるため、早めの治療が推奨されます。
刺激による炎症、アレルギー反応、真菌などの感染など、発症の原因は様々ですが、主に排便後の誤った拭き方や、過度な洗浄の習慣、汗の蒸れなどが引き金となります。
これらの原因を取り除き、症状に応じた薬を適切に使用することで、多くの場合は症状の改善が期待できます。
ただし、似たような症状をもつ他の病気の可能性もあるため、自己判断は避け、医療機関を受診して医師の診察を受けることが大切です。
肛囲皮膚炎の原因
肛囲皮膚炎には主に3つのタイプがあります。
最も多いのは「刺激性の肛囲皮膚炎」です。便や汗などの刺激によって起こります。排便後に肛門周囲の皮膚に便が付着することで起こる炎症や、過度な洗浄による刺激などが代表的な例となります。
とくに下痢が続く場合や、頻繁な温水洗浄、洗浄力の強い石鹸での洗浄などが原因となることが多いです。
次に「アトピー性の肛囲皮膚炎」があります。この場合、他のアレルギー疾患をもっていることも多く、症状が長引きやすいことが特徴的です。
皮膚のバリア機能が弱いため、外からの刺激に対して炎症を起こしやすい状態となっています。
また、特定の製品が原因で起こる「接触性の肛囲皮膚炎」も見られます。
肛門用の薬やスキンケア製品に含まれる成分が原因となることがあり、なかでも香料や防腐剤などの化学物質が原因として知られています。
これらの状態に加えて、カンジダ菌などに感染することで、症状が悪化しやすくなります。湿気の多い環境や、免疫力が低下している場合に感染しやすくなるため注意が必要です。
肛囲皮膚炎の前兆や初期症状について
肛囲皮膚炎の主な症状は、肛門周囲のかゆみです。お風呂上がりなどに症状が強くなることが特徴的です。また、初期には痛みやしみるような感覚、肛門のベトつきなども感じることがあります。
はじめは肛門周囲が赤くなり、その後、皮膚のただれや水疱ができることが一般的です。
さらに症状の進行にともない、皮膚が厚くなったり、色素沈着が起きたりすることがあります。強いかゆみが影響し、かきむしったことで症状が悪化し、炎症が広がってしまうことも少なくありません。
炎症は通常、肛門周囲から始まりますが、放置すると臀部や性器周辺にまで広がることがあります。とくに汗をかきやすい環境や、締め付けのある衣服の着用により、症状が悪化しやすくなるため注意が必要です。
肛囲皮膚炎の検査・診断
肛囲皮膚炎の診断では、はじめに症状や皮膚の確認を行います。具体的には症状の経過や生活習慣の確認後、肛門周囲を視診します。
確定診断のために、真菌検査を実施することもあります。真菌検査は、病変部の皮膚を採取して顕微鏡で観察する検査で、痛みはほとんどありません。
また、症状が長引いている場合や通常の治療で改善しない場合には、他の病気の可能性が疑われます。そのため、鑑別のための検査が必要になることもあります。
肛囲皮膚炎の治療
肛囲皮膚炎の治療では、まずは発症の原因を取り除いたうえで、適切な薬剤を使用します。
過度な洗浄が原因の場合は、適切な洗浄方法を指導し、皮膚の改善を図る薬剤を処方します。
真菌感染が原因の場合は抗真菌薬を、アレルギー反応が原因の場合はステロイド薬を使用するなど、それぞれの原因に応じた治療薬の選択が重要です。
症状によっては、炎症を抑える薬剤や、かゆみを抑える薬剤などの使用も検討されます。
また、スキンケアも重要です。肛門周囲を清潔に保つことは非常に重要ですが、必要以上の刺激は避けるようにしましょう。排便後は強くこすらず、優しく拭き取るようにします。
また、保湿剤やワセリンなどで皮膚を保護することも効果的です。
肛囲皮膚炎になりやすい人・予防の方法
肛囲皮膚炎は、生活習慣や体質によって発症リスクが高まります。とくに香辛料やアルコールなどの刺激物を多く摂取する人、軟便や下痢を繰り返す人、過度な洗浄を行う人、座り仕事が多く蒸れやすい環境にいる人が発症しやすいとされています。
予防のためには、これらの原因をできる限り取り除くことが重要です。
刺激物やアルコールの摂取を控える、座り仕事の方は定期的に立ち上がり、蒸れを防ぐなどが肛囲皮膚炎の予防につながると言えるでしょう。
さらに、通気性の良い下着の着用や、過度な洗浄を控えることも大切です。
症状が出た場合は、自己判断での市販薬の使用は控え、早めに専門医を受診しましょう。似たような症状でも、重大な病気が隠れている可能性もあるためです。
また、症状が改善しても再発することがあるため、適切な予防を続けることが大切です。
参考文献