監修医師:
五藤 良将(医師)
頭部白癬の概要
頭部白癬(とうぶはくせん)は「皮膚糸状菌」というカビの一種が髪の毛に寄生した状態であり「シラクモ」とも呼ばれる皮膚の感染症です。かつては男子児童に多い病気でしたが、近年のペットブームやスポーツ交流の活発化により、女子児童や成人女性の感染、柔道やレスリングなどの格闘技競技者で感染者が増加しています。
頭部白癬を発症すると、感染した髪の毛が抜けやすくなることで脱毛斑(だつもうはん)をきたしたり、それにともなうフケ(剥がれた角質が皮膚の上に溜まっている状態)がみられたりします。
頭部白癬は円形脱毛症や脂漏性皮膚炎と症状が似ているため誤診されやすいですが、治療方針が大きく異なります。
適切な治療法が選択されなかった場合には、症状の悪化をきたすため正確な診断が重要です。
頭部白癬の治療では、主に抗真菌薬が使用されます。円形脱毛症や脂漏性皮膚炎の治療で使用されるステロイド薬を投与すると、症状の悪化をきたしケルズス脂漏性皮膚炎という強い炎症状態をきたす可能性があるため、誤診に注意が必要です。
頭部白癬は感染力が強く、発症した場合には治療に時間がかかります。
部屋や練習場の掃除・消毒、抗真菌薬が入っているシャンプーの使用などで対策することが、家族内やスポーツチームなどの集団感染の予防に効果的です。
頭部白癬の原因
頭部白癬の原因は、皮膚糸状菌の感染であり、主に「トリコフィトン・ルブルム」や「トリコフィトン・トンズランス」「ミクロスポルム・カニス」などの皮膚糸状菌によって引き起こされます。
頭部白癬を発症しやすい状況は、原因となる皮膚糸状菌の種類によって異なります。
トリコフィトン・ルブルムはほかの白癬(はくせん:皮膚糸状菌による感染症)である水虫(足白癬)やいんきんたむし(股部白癬)など、トリコフィトン・トンズランスは柔道やレスリングなど、ミクロスポルム・カニスは飼育している犬や猫などのペットなどが原因で感染しやすいと報告されています。
頭部白癬は、感染した人との接触が感染するリスクを高めると考えられています。
そのほか、感染者の髪の毛が触れたブラシやタオル、寝具などを介して感染することもあるため、これらの共用物をできるだけ控えることが望ましいです。
頭部白癬の前兆や初期症状について
頭部白癬の症状は、皮膚糸状菌が感染した部位に楕円形の脱毛が生じる脱毛斑(だつもうはん)や、頭皮の表面に角質がたまって付着した鱗屑(りんせつ)です。
皮膚糸状菌に感染した髪の毛は皮膚の表面で折れやすく抜けやすい特徴があります。
感染の広がりとともに脱毛斑が拡大・増殖したり、弱くなった髪の毛がとぐろを巻いて病変部の毛穴が黒い点のように見えたりすることがあります。
頭部白癬では皮膚の炎症をともなうことが少なく、痛みやかゆみなどの自覚症状がない場合も多いです。
症状が悪化して皮膚糸状菌が毛のう(毛根が収まっている部分)に入り込んだ場合は、ケルズス禿瘡をきたします。
ケルズス禿瘡が合併すると、皮膚の表面や毛穴が化膿し、強い痛みが出ることもあります。
頭部白癬の検査・診断
頭部白癬の検査では、病変部の観察や病理学的検査、Wood灯検査などが行われます。
医師の診察では症状が現れている病変部を観察し、頭部白癬に特徴的な症状がないか確認します。
頭部白癬が疑われる場合は、より詳しく調べるために病理学的検査が行われます。
病気になっている髪の毛や頭皮の皮膚などを採取して顕微鏡で観察したり、培養したりすることで、頭部白癬の原因となる皮膚糸状菌を特定します。
Wood灯検査は特殊な紫外線を病変部に当てたときの色の反応を観察する検査であり、原因となる皮膚糸状菌の鑑別に有効です。
これらの結果を総合的に判断して頭部白癬を診断します。
そのほか、頭部白癬の薬物療法を開始するために、肝臓機能などのマーカーを血液検査で定期的に測定することもあります。
頭部白癬の治療
頭部白癬の治療では、抗真菌薬の内服や外用薬の使用が検討されます。
抗真菌薬の内服が頭部白癬の治療の第一選択であり、「イトラコナゾール」や「テルビナフィン」などを2〜3ヶ月投与します。
内服治療をしている期間は髪の毛を短く切り、入浴時に十分に洗髪することで頭皮や髪の毛を清潔に保つことが重要です。
抗真菌薬の外用薬は、頭部白癬の重症度や健康状態などを考慮して使用が検討されます。
頭部白癬になりやすい人・予防の方法
頭部白癬は水虫(足白癬)や股部白癬などの白癬菌による疾患を患っている人がなりやすいです。
そのほか、犬や猫などのペットを飼育していたり、柔道やレスリングなどの格闘技をしていたりする人も発症しやすいことがわかっています。
頭部白癬の予防では、感染者の接触をさけることが重要です。
身近に頭部白癬を発症した人が現れた場合は、感染者が使用したブラシやタオル、衣類や寝具などを共有しないようにしましょう。
室内はこまめな掃除を心がけることや、感染した髪の毛と接触を避けることも予防に効果があります。
格闘技のグループなどでは、練習場の掃除や消毒などに取り組み、練習や試合の後にできる限り早くシャワーで頭髪を洗うことが集団感染の予防につながります。
頭部白癬の症状がみられた場合は、できる限り早めの治療を受け、ほかの人に感染を広げないようにしましょう。
参考文献