

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
花粉皮膚炎の概要
花粉皮膚炎とは、スギ花粉などアレルギーを引き起こす花粉による皮膚の炎症性疾患です。皮膚の乾燥、かゆみ、湿疹、赤みなどが現れ、中には激しいかゆみを引き起こすこともあります。
花粉皮膚炎は、原因の花粉が飛散する時期に発症し、終われば症状は収まります。しかし、激しいかゆみで皮膚を掻き続け、痕が残ることがあります。
スギ花粉に抗体がある患者さんに限り、根治も可能です。しかしそれ以外の患者さんには根治ができないため、対処療法を行います。
経口もしくは経皮のステロイド剤などを使いながら炎症を抑え、肌の保湿や花粉が付かない対策を行うなど、花粉シーズンの終わりまでケアと加療する必要があります。花粉に触れないためにマスク着用や帰宅後の手洗いを指導し、シャワー、スキンケアなど、日常的なケアを患者さんに実践を促すことも治療効果を高めます。
花粉皮膚炎の原因
スギ花粉、ひのき花粉など、花粉が皮膚に付着することでアレルギーを誘発することが原因です。花粉に抗体がなくても、皮膚に触れるストレスで発症することがあります。
花粉症を引き起こす花粉が飛散する時期に発症します。春のスギ、ヒノキ、夏のカモヤガなどイネ科植物、秋のブタクサ、ヨモギ、カナムグラなどが主な花粉症を起こす植物の花粉飛散時期です。北海道では5~6月に飛散するシラカンバなども花粉症の原因になります。
皮膚の角質は高いバリア機能があり、通常なら分子量1,000以上の物質はほとんど通しません。しかし皮膚の乾燥、荒れなどで水分量が失われると角質にヒビが入ることがあります。
水分を失った角質はバリア機能が低下し、アレルゲン物質が皮膚に浸透することがあります。皮膚に浸透した花粉がアレルギー反応を起こし、かゆみ、発疹、赤みが出ることが花粉皮膚炎の原因です。
そのため花粉皮膚炎は肌が薄い部位や、花粉が付着しやすい部位に多く現れます。まぶた、頬、首筋、手の甲などに多く発症するのが特徴です。
花粉皮膚炎の前兆や初期症状について
花粉皮膚炎を疑う症状が出たら、皮膚科を受診しましょう。
すでに耳鼻咽喉科やアレルギー科で花粉症の治療を続けている・治療を受けたことがある患者さんは、アレルギー検査の資料を持参して皮膚科を受診しましょう。現在治療を受けている医療機関に相談して、紹介状を書いてもらうと良いでしょう。
花粉症は初期症状のうちに早期治療と花粉ケアをすることで悪化を防ぎます。悪化すると花粉シーズンが終わっても皮膚にダメージが残るので、早め、早めの加療とケアを心がけましょう。
花粉皮膚炎の初期症状
花粉の飛散シーズンに顔がパサパサする、赤く腫れる、かゆみが出る、赤い発疹などの症状が現れます。肌の発疹は乾燥していますが、悪化すると熱を帯び、かゆみが強くなります。かゆみがなくても皮膚の赤みや発疹があれば、ただちに医療機関を受診しましょう。
はじめは軽い発疹とかゆみでも、掻いてしまうと皮膚に傷が入ります。傷が入るとバリア機能が低下し、ますますアレルゲンが皮膚に透過しやすくなります。かゆい→掻く→増悪と悪いスパイラルに陥り、皮膚に深いダメージを与えます。
ひどい場合は皮膚に色素が沈着して黒ずみ、花粉シーズンが終わっても後遺症として残ってしまいます。皮膚のごわつき、フケがぽろぽろ落ちるなどの症状が残ることもあります。
アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎の方は肌のバリア機能が低下しているため、発症リスクが上がります。普段からこれらの症状で治療をしている方は、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
花粉皮膚炎の検査・診断
問診、視診、アレルギー検査(特異的IgE抗体検査など)、パッチテストなどを行います。花粉以外のアレルゲンが原因の皮膚炎の可能性もあるため、鑑別診断は治療のためには欠かせません。
問診
問診では症状、発症した時期、患者さんや家族の病歴を質問します。特にアトピー性皮膚炎など、皮膚疾患の病歴は重要な情報です。
花粉症やほかのアレルギー疾患があるか、花粉に暴露されやすい生活環境か(屋外作業が多い、花粉が多い場所にいることが多いなど)などを尋ね、原因を推測します。
帰宅後にシャワーを浴びる習慣がある、洗濯を毎日行うなど、生活習慣にもヒントが隠れていることがあります。花粉症の患者さんで、花粉の飛散時期に皮膚症状を併発している場合は、花粉皮膚炎を疑います。
視診
視診で皮膚の状態を確認します。頬、まぶた、首筋などに赤みや発疹があるか、ガサガサした皮膚の乾燥やひび割れ、湿疹などがあるか確認します。
検査
特異的IgE抗体検査を行い、特定の花粉に抗体があるか確認します。アレルゲンを少量皮膚に注入して腫れを確認する、プリックテストも有効な検査方法です。
パッチテストで花粉、金属などアレルゲンの抗体を調べ、花粉のみ陽性の場合は花粉皮膚炎の可能性が疑われます。
花粉皮膚炎の治療
花粉皮膚症は「花粉を触れさせない(抗原回避)」と、「症状を緩和させる(対処療法)」の2つが主な治療になります。
スギ花粉に限り、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)で根治できる可能性があります。
対処療法
主にアレルギー反応を抑えるための抗アレルギー薬、肌のバリア機能を保つための保湿外用薬を使います。特に、白色ワセリンなど保湿外用薬は皮膚を保護するために必要不可欠な対処です。
かゆみが激しい、皮膚が赤く腫れている、発疹がある場合は副腎皮質ステロイド外用薬や、免疫抑制外用薬を用い、短期間で急性症状を抑えます。漢方薬を併用して治療することもあります。
抗原回避
ヨモギ、ブタクサ、イネ科花粉などが原因の場合は、できるだけこれらの植物が生える場所を避けることでも緩和することがあります。(抗原回避)
ただしスギ花粉は条件が揃えば500kmも飛散するため、沖縄、北海道を除く地域では逃げることはできません。皮膚に花粉を付着させない・付着してもすぐ取り除ける習慣を続けることが必要です。
アレルゲン免疫療法
スギ花粉に限り、アレルゲン免疫療法で花粉症を根治できることもあります。皮下注射、または舌下にごく少量のスギ花粉を使用し、徐々に量を増やして免疫寛容を促す治療法です。
アレルゲン免疫療法は治療効果が高いですが、改善するまで数ヶ月以上加療を続けること、花粉症のシーズンには治療できないことが欠点です。治療薬不足で治療が開始できないケースもあります。
2024年現在、スギ花粉、ダニ以外の舌下療法は実用化されていません。
花粉皮膚炎になりやすい人・予防の方法
花粉に抗体がある方、アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎がある方は発症リスクがあります。ほかの疾患でも肌が乾燥している、ひび割れている方も注意が必要です。
予防の方法は、花粉をできるだけ付着させない、長時間放置しないことです。肌荒れがある方は白色ワセリンなどで保護し、肌の水分を奪われないようにケアしましょう。風呂上がりに丁寧に保護することで、肌の水分を保持します。
外出する際の服装も大事な要素です。マスク、花粉ゴーグルの着用は顔に付着を防ぎます。ストールを巻く、タートルネックの服を着るなどで首の付着を防ぐことができます。
衣類、特に上着は化学繊維やシルク素材の、ツルツルした素材が適しています。ウールなど表面が凸凹した素材は花粉が付着しやすく、取り除くのが難しいため、なるべく避けましょう。
上着は玄関で脱ぎ、家への花粉の侵入を防ぎます。そのまま脱衣所で服を脱いでシャワーを浴びるなど、暴露時間を減らすことも大切です。難しい場合は顔と首を洗うだけでも心がけましょう。
髪は花粉が付着しやすい部位です。髪を洗うまで触らない、外で帽子を被ることも、花粉を減らす効果があります。
衣類の洗濯、家のこまめな掃除、空気清浄機の設置も花粉症対策に役立ちます。
参考文献




