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監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
ビダール苔癬の概要
ビダール苔癬とは、慢性湿疹の一種であり、特に中年以降の女性に多く見られる皮膚の病気です。
この病気は、服による摩擦や金属アレルギーなどの外的刺激が続くことによって、うなじや太ももなどの限られた部位に強いかゆみが生じるのが特徴です。
ビダール苔癬という名前は、この皮膚病を最初に発見したフランス人医師の名前に由来しています。ビダル、ヴィダールなどと表記されることもあり、他にも慢性単純性苔癬や神経皮膚炎などと呼ばれることもあります。
ちなみに「苔癬(たいせん)」とは、硬く小さなブツブツ(丘疹)が多数集まった皮膚の状態を指します。この状態は、かゆみに対して皮膚を長期間かいたりこすったりし続けることで生じ、皮膚のブツブツが慢性的に革のように硬くなることが特徴です。ビダール苔癬は、特に中年以降の女性に発症する度合いが高く、東洋人に見られやすいとされています。発症部位としては、うなじや太もものほか、陰部や腋の下などが挙げられます。
これらの部位は、服やアクセサリーなどによる摩擦や圧迫が起こりやすいため、ビダール苔癬が発生しやすいと考えられています。
ビダール苔癬の原因
ビダール苔癬の主な原因は、ネックレスと皮膚、衣服と皮膚、あるいは皮膚どうしなど、皮膚に対して慢性的にこすれるような刺激が加わることです。具体的には、以下のような皮膚への刺激が引き金になると考えられています。
まず、ネックレスやアクセサリーによる金属アレルギーが挙げられます。
これらの金属製品が皮膚に接触することで、アレルギー反応が引き起こされ、かゆみや炎症が生じることがあります。
また、シャンプーやヘアケア剤に含まれる化学物質が皮膚に刺激を与えることも原因の一つです。これらの製品が皮膚に残留し、繰り返し使用されることで、皮膚が敏感になり、ビダール苔癬が発症することがあります。
さらに、衣類の繊維や毛髪による物理的な刺激もビダール苔癬の原因となります。特に、タイトな衣服や粗い繊維の衣類が皮膚にこすれることで、かゆみや炎症が引き起こされることがあります。
乾燥や紫外線による刺激も、皮膚のバリア機能を低下させ、ビダール苔癬の発症リスクを高める要因となります。
また、もともと持っている皮膚疾患が誘因となることもあります。アトピー性皮膚炎やアレルギー、虫刺され、蕁麻疹、皮膚の乾燥などで生じたかゆみに対し、何度も同じ部位をかき続けることで上述の丘疹が集まり、皮膚が赤みを帯び、厚く盛り上がってきます。このような状態が続くことで、ビダール苔癬が発症することがあります。
さらに、直接的な皮膚の病気以外の原因として、透析を受けている人や糖尿病の人は皮膚のバリアも弱く、乾燥しやすく、かゆみが起こりやすいことが知られています。
これらの人々は、皮膚の乾燥によってビダール苔癬が発症しやすくなります。
また、ストレスを感じた時に特定の部位をかき続ける癖のある人も注意が必要です。
ストレスが皮膚の状態に影響を与え、ビダール苔癬の発症リスクを高めることがあります。
このようにさまざまな原因が考えられていますが、どの程度かき続けるとビダール苔癬になるかなど、未だその原因について完全に解明されていないのが現状です。
ビダール苔癬の前兆や初期症状について
ビダール苔癬の前兆や初期症状として最も顕著なのは、皮膚に生じるかゆみです。このかゆみは、皮膚をかき続けることでさらに悪化し、時間が経つにつれて皮膚の性質が変化し、最終的にビダール苔癬に至ります。
特に飲酒や入浴などで血行が促進されると、かゆみが一層強くなることがあります。
ビダール苔癬の症状には、強いかゆみのほか、皮膚の盛り上がりや色素沈着などが特徴として挙げられます。かゆみを感じる部位に小さな丘疹が現れることが多く、これがさらにかゆみを引き起こし、皮膚をかくことで症状が悪化します。
もし、かゆみを感じる部位に小さな丘疹が見られるようであれば、それ以上かかずに早めに皮膚科を受診することを強くおすすめします。早期の診断と適切な治療が、症状の進行を防ぐために重要です。
ビダール苔癬の検査・診断
ビダール苔癬の診断は、主に視診による皮膚の状態の変化や、患者さんの自覚症状のヒアリングをもとに行われます。医師は、患者さんの皮膚の外観を詳細に観察し、湿疹の形状や分布、皮膚の厚さや硬さなどを確認します。
円形や楕円形の湿疹ができ、皮膚が厚く硬くなった状態は、真菌感染症やアトピー性皮膚炎、尋常性乾癬といったほかの皮膚疾患でも見られます。
そのため、ビダール苔癬と診断するためには必要な検査を行います。
検査の内容としては、皮膚の一部を採取して生検検査を行うことが一般的です。
生検検査では、顕微鏡を用いて皮膚組織の詳細な構造を調べ、ほかの疾患との鑑別を行います。
さらに、必要に応じて皮膚のパッチテストを行うこともあります。パッチテストでは、アレルギー反応を引き起こす可能性のある物質を皮膚に貼り付け、その反応を観察します。
ビダール苔癬の治療
これまで述べてきたように、ビダール苔癬は皮膚に対してこすれる刺激が慢性的に加わることによって発症する病気です。
そのため、治療にあたっては皮膚への刺激のもととなる原因を排除することが大切です。
- 着用する衣服の素材を綿100%など肌への刺激が少ないものにする
- 首周りの刺激を避けるためタートルネックやハイネックの服を避ける
- 汗をこまめに拭いて皮膚を清潔な状態に保つ
- 肌の乾燥に気をつけ、保湿を心がける
- 髪が長い人は皮膚にこすれないよう、結び方など適切な対処を行う
これら生活習慣上の対策を講じ、悪化を防ぐとともに、薬剤を用いた治療としてステロイド軟膏を用いることが一般的です。
ほか、必要に応じてステロイド注射が行われる場合もあり、また、かゆみ止めの処置として抗ヒスタミン薬などの内服薬が処方されます。
ビダール苔癬になりやすい人・予防の方法
これまでにも述べたように、ビダール苔癬になりやすい人の特徴として、中年以降の女性が挙げられます。また、肌の性質として乾燥肌の方、ストレスを感じやすい方において、かゆみや癖などが原因となり、ビダール苔癬に至る可能性が高いと言えます。
予防の手段としては、生活習慣において肌への刺激を避けることが第一です。治療の項目でも触れましたが、着用する衣服の素材に注意する、首や陰部などビダール苔癬が起きやすい部位においては特にアクセサリーや衣服の繊維との摩擦が起きないように注意する、肌の保湿を行い、清潔な状態を保つ、などです。
ビダール苔癬の症状の特徴として、強いかゆみを伴いますが、繰り返しかきむしってしまうことでビダール苔癬の症状が進み、見た目の問題からも生活の質が低下してしまう恐れがあります。
また、日常において何気なく使用しているシャンプーや整髪料などの消費財が刺激の原因であることも多いです。一般的に知名度の低い病気でもあり、自身ではこれといった原因が思い当たらないこともあると思われます。
これはビダール苔癬に限った話ではありませんが、皮膚に異常が見られた際は自己判断をせず、なるべく早く皮膚科を受診することが、その後の治療や生活の質を保つためにも重要です。