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西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

とびひの概要

とびひは、主に小児に発症する細菌性の皮膚感染症です。正式には伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)と呼ばれます。黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌といった細菌が原因で、傷口や虫刺されなどの小さな皮膚の傷から感染が広がります。

潜伏期間は、通常2〜10日ですが、長期になる場合もあります。特に夏場や湿度の高い環境で発生しやすいのが特徴です。名前の由来は、皮膚の一部から別の部位へと飛ぶように次々と離れた位置に感染がすばやく広がり、火事の飛び火のように広がる例えから「とびひ」と呼ばれています。

とびひは、大きく分けて2つです。

水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん
みずぶくれが見られる
びらん(皮膚がむける)ことが多い
痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)
みずぶくれが見られない
かさぶた(痂皮)が厚くつく
炎症が強い

とびひの原因

とびひの主な原因菌は、黄色ブドウ球菌および溶血性連鎖球菌です。これらの細菌が皮膚の表面に付着し、傷口や湿疹などの皮膚バリアが損なわれた部分から侵入して感染を引き起こします。以下に、具体的な原因を挙げます。

あせも
あせもを掻きむしることでとびひにつながります
傷口や擦り傷
細菌が侵入しやすくなります
虫刺され
かゆみを伴うため掻きむしることで皮膚が破れ、細菌が入り込みやすくなります
鼻に触るくせ
鼻にはさまざまな菌が常在しているため、そこからとびひが始まることが多くあります
アトピー性皮膚炎
皮膚が弱く、バリア機能が低下しているため感染しやすいです
湿度と温度
高温多湿の環境は細菌の繁殖を助長します
衛生状態の悪さ
不適切な手洗いや入浴習慣が感染リスクを高めます
環境要因
高温多湿の環境が細菌の繁殖を促進します
免疫機能の低下
全身状態の悪化や栄養不良などにより、感染しやすくなります

とびひの前兆や初期症状について

とびひの初期症状は、皮膚に小さな赤い発疹や水疱が出現することです。かゆみを伴い、掻きむしることで次第に破れて膿が出てきます。破れた水疱や掻いた手でほかの皮膚を触ることで、さらに周囲の皮膚や離れた皮膚にも感染が広がるので注意が必要です。患部は鼻周囲や体幹、四肢などの全身に見られます。

主な初期症状として以下があります。

小さな赤い発疹
かゆみを伴うことが多くあります
水疱や膿疱
これが破れると黄色の液体が出ます
かさぶた(痂皮)
水疱が破れた後、かさぶたが形成されます

とびひの疑いがある場合は、早期に皮膚科を受診するのが適切です。小児の場合は、小児科医が全身状態を含めて診察できるため、小児科の受診をおすすめします。特に症状が進行している場合や、家庭でのケアでは改善しない場合は、早めに医師の診察を受けることが重要です。

とびひの検査・診断

とびひの診断は、主に視診と問診です。医師は皮膚の状態を確認し、症状の進行具合やほかの皮膚疾患との鑑別を行います。必要に応じて以下のような検査が行われることもあります。

視診
とびひの初期症状や掻き壊しから隣接する皮膚や離れた皮膚に症状が広がっていないかを確認します
問診
発症時期、経過、生活環境、保育園や幼稚園、学校などで流行していないなどを聴取します
細菌検査
患部の状態によって、培養検査などを行い細菌の有無を確認します
血液検査
重症例や全身症状がある場合に実施されます
尿検査
溶連菌が原因であるとびひの場合では、まれに腎障害を併発することがあるため、症状が良くなってからも数週間は尿中のタンパクを調べることもあります。

とびひの治療

とびひの治療は、主に抗生物質の外用や内服の使用です。以下に具体的な治療方法を示します。小さな水疱は潰しませんが、大きなものは内容液が周りに付着しないように排出します。

抗菌薬の外用薬
感染部位に直接塗布することで、細菌の増殖を抑えます
抗菌薬の内服薬や点滴
症状が重い場合や、広範囲に感染が広がっている場合に使用されます
溶連菌による場合は、第一選択としてペニシリン系またはセフェム系を使います
セフェム系抗生剤を用いてもなかなか治らない場合は耐性化の可能性があります
抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤
かゆみを抑えます
亜鉛華軟膏
患部を保護します
炎症を抑えます
皮膚の清潔保持
毎日清潔な水と石鹸で皮膚を洗い、感染の広がりを防ぎます
爪を短く切り、水疱が破れないようにします
タオルや衣類を共有しない
タオルや衣服を頻繁に洗濯する
感染拡大予防
ガーゼや絆創膏で患部を覆い、掻きむしりを防ぐ
保育園や幼稚園、学校など集団生活の一時的な制限

とびひは、学校保健安全法の中で「学校感染症、第三種(その他の感染症)」として扱われています。ほかの園児や学童にうつす可能性があるので、きちんと医師に診察・治療してもらいましょう。
治療開始後、通常1週間ほどで症状の改善が見られます。ただし、完治までは2〜3週間かかることがあります。

とびひになりやすい人・予防の方法

とびひになりやすい人

小児(特に2〜6歳)
免疫力が未発達であり、細菌に対する抵抗力が低い
皮膚のバリア機能が未発達
皮膚が敏感
虫刺されや擦り傷、あせもなどの皮膚トラブルが起こりやすい
アトピー性皮膚炎患者
慢性的な皮膚の炎症により皮膚のバリア機能が低下している
掻くことで皮膚が傷つき細菌が侵入しやすい
ステロイド薬の使用により、局所的に免疫機能が抑制されている可能性がある
皮膚の乾燥や湿疹により、皮膚の亀裂や炎症が起こりやすい
免疫機能が低下している人
感染症に対する身体の防御機能が弱っている状態
高齢者や新生児など年齢による免疫機能の低下や未発達の場合がある
衛生環境が悪い生活をしている人
不適切な手洗い習慣
汗をかいたり汚れたりしても毎日シャワーを浴びない
汚れた衣類や寝具を使用している
生活空間の清掃不足による細菌の繁殖
高温多湿の環境で生活している人
暑さや湿気により皮膚が蒸れやすくなり、細菌の繁殖が促進する
発汗が続くことによる皮膚のバリア機能が低下する
皮膚常在菌の増殖が促進される

予防の方法

適切な衛生管理
細菌の付着を防ぐため、外出後や食事前に手を洗う
衣類やタオルを清潔に保ち、共用しない
手洗いや入浴、洗顔を習慣化する
1日1回以上は全身シャワーでよく洗浄する
鼻のなかにはとびひの原因となる菌が多いので、鼻をいじらない
掻き壊しを防ぐために爪を短く切る
皮膚のケア
傷口や虫刺されを掻きむしらないようにし、適切なケアを行う
虫刺されや擦り傷の早期処置
乾燥肌やアトピー性皮膚炎の場合は保湿ケアを行う
汗をかきやすい季節はあせもにならないように皮膚のケアを行う
環境整備
適切な室温と湿度の管理
こまめな換気
生活習慣の改善
バランスの取れた食事
十分な睡眠
ストレス管理
早期発見と対応
皮膚の異常に気づいたら早めに受診
家族内や集団生活内(保育園や幼稚園)での感染予防

とびひは、適切なケアと治療で予防・治療が可能です。早期の発見と対処が重要なので、異常を感じた場合は速やかに医療機関を受診しましょう。以上の対策を日常的に実践することで、とびひの発症リスクを低減させられます。特に小児や皮膚疾患のある方は、注意深い観察と予防策の実施が重要です。


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  • ストレプトコッカス感染症
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