色素沈着

色素沈着の概要

色素沈着は、皮膚の一部または広範囲に色素が過剰に蓄積する状態です。色素は主にメラニンで皮膚の色が周囲と異なり、濃くなったり、斑点状になったりします。色素沈着は、美容上の問題として認識されることが多いですが、ときには基礎疾患の徴候である場合もあります。色素沈着にはさまざまな種類があり、主なものには以下があります。

• 老人性色素斑（日光性色素斑）
• 肝斑
• 炎症後色素沈着
• 薬剤性色素沈着
• 内分泌疾患に伴う色素沈着
• 代謝異常に伴う色素沈着

色素沈着の程度や範囲は個人差が大きく、軽度で局所的なものから、重度で広範囲に及ぶものまでさまざまです。また一時的なものもあれば、慢性的に持続するものもあります。

色素沈着の原因

色素沈着の原因は多岐にわたりますが、主に以下のような要因があげられます。

• 紫外線暴露 最も一般的な原因のひとつです。長期間の日光暴露により、メラノサイト（色素細胞）が刺激され、メラニン生成が促進されます。
• 炎症 皮膚の炎症後に色素沈着が生じることがあります。アトピー性皮膚炎、にきび、やけどなどが炎症の原因です。
• ホルモンの変化 妊娠中や経口避妊薬の使用時などに見られるホルモンの変動が、色素沈着（特に肝斑）を引き起こすことがあります。
• 薬剤 抗マラリア薬、抗がん剤、非ステロイド性鎮痛消炎剤（NSAIDs）、抗生物質などの薬剤の副作用として色素沈着が生じることがあります。
• 内分泌疾患 副腎機能不全（アジソン病）などの内分泌疾患では、全身性の色素沈着が見られることがあります。
• 代謝異常 ヘモクロマトーシスなどの鉄代謝異常では、皮膚の色素沈着が生じることがあります。
• 遺伝的要因 一部の色素沈着は、遺伝的素因によって引き起こされます。
• 加齢 年齢を重ねるにつれて、老人性色素斑などの色素沈着が増加する傾向があります。
• 外傷 皮膚への物理的な刺激や傷が、その部位の色素沈着を引き起こすことがあります。
• 栄養不足 特定のビタミンやミネラルの欠乏が、皮膚の色素沈着に影響を与えることがあります。
• 妊娠中や経口避妊薬の使用時 妊娠中や経口避妊薬の使用時、更年期のホルモンバランス変化などで色素沈着が生じることは広く知られています。
• ホルモン補充療法 ホルモン補充療法（HRT）などによっても色素沈着が生じるケースがあります。

これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用して色素沈着を引き起こします。原因を特定することは、適切な治療法を選択する上で重要です。

色素沈着の前兆や初期症状について

色素沈着の前兆や初期症状は、その種類や原因によって異なります。しかし一般的に以下のような症状が見られることがあります。

• 皮膚の一部が徐々に濃くなる
• 斑点状の色素沈着が現れる
• 対称性または非対称性の色素沈着
• 日光暴露部位（顔、手の甲など）に色素沈着が生じる
• 皮膚の炎症や傷の後に、その部位が周囲より濃くなる
• 妊娠中に顔面（特に頬）に色素沈着が現れる（肝斑）
• 全身的な皮膚の色素沈着（内分泌疾患の場合）

症状が現れた場合、早期に医療機関を受診しましょう。色素沈着の診断と治療の一般的な選択肢は皮膚科です。皮膚の専門医として、ほとんどの色素沈着の診断と治療を行います。

美容的な観点からの治療を希望する場合は、形成外科がおすすめです。内分泌疾患が関連する色素沈着が疑われるのであれば内分泌内科、妊娠に関する肝斑などの色素沈着であれば産婦人科を受診しましょう。 皮膚科を受診した後に、必要に応じてほかの診療科へ紹介されることもあります。症状の程度や疑われる原因によって適切な診療科の選択が重要です。

色素沈着の検査・診断

色素沈着の診断は、主に以下の内容で行われます。

問診

• 症状の発症時期や経過
• 日光暴露の程度
• 既往歴（特に皮膚疾患や内分泌疾患）
• 服用中の薬剤
• 家族歴
• 職業や生活習慣

視診

• 色素沈着の部位、範囲、形状、色調を観察
• 対称性か非対称性か
• 皮膚以外の部位（粘膜、爪など）の色素沈着の有無

そのほかの検査

• Wood'slamp検査：特殊な紫外線ランプで肝斑などの色素沈着の範囲や深さを評価
• ダーモスコピー：皮膚に対しての拡大鏡を用いて色素沈着の詳細な構造を観察
• 血液検査：内分泌疾患や代謝異常が疑われる場合に行う
• 遺伝子検査：遺伝性の色素沈着が疑われる場合に行う

検査結果と臨床所見を総合的に判断し、色素沈着の原因と種類を診断します。診断結果に基づいて、適切な治療方針が決定されます。

色素沈着の治療

色素沈着の治療は、その原因と種類、また患者さんの希望に応じて選択されます。主な治療法には以下のものがあります。

予防と生活指導

• 日光暴露の制限
• 広域スペクトルの日焼け止めの使用
• 帽子や長袖衣服の着用

外用薬

• ハイドロキノン：メラニン生成を抑制
• トレチノイン：細胞のターンオーバーを促進
• コルチコステロイド：炎症を抑制
• アゼライン酸：メラニン生成を抑制
• ビタミンC誘導体：抗酸化作用とメラニン生成抑制
• トラネキサム酸：メラノサイトの活性を抑制

内服薬

• トラネキサム酸：全身性の色素沈着に対して使用
• ビタミンC：抗酸化作用を期待して使用
• 漢方薬

治療法の選択は、色素沈着の種類、程度、部位、患者さんの年齢、全身状態、希望などを考慮して行われます。多くの場合、複数の治療法を組み合わせることで、より効果的な結果が得られるでしょう。

加齢性色素沈着（シミ）や肝斑は、基本的に保険適用ではありません。しかし美容皮膚科や形成外科ではIPLやフラクショナルレーザーを用いたレーザー治療やケミカルピーリングを保険適用外の治療として行っていることもあります。 内分泌疾患や代謝異常に伴う色素沈着の場合、基礎疾患の治療が行われます。

色素沈着の治療には、時間がかかることが多くあります。根気強く治療を継続することが重要です。治療中も定期的な経過観察をし、必要に応じて治療法の調整を行います。

色素沈着になりやすい人・予防の方法

色素沈着になりやすい人の特徴

• 日光暴露の多い人：屋外での仕事や活動が多い人
• 皮膚が薄い人：紫外線の影響を受けやすい
• メラニン色素が多い人：もともと肌の色が濃い人
• ホルモンの変動が大きい人：妊婦、更年期の女性
• 特定の薬剤を長期服用している人：抗マラリア薬、抗がん剤など
• 皮膚疾患の既往がある人：アトピー性皮膚炎、にきびなど
• 内分泌疾患や代謝異常のある人：アジソン病など
• 遺伝的素因のある人：MC1R遺伝子など
• 高齢者：加齢に伴い色素沈着のリスクが高まる
• ストレスの多い人：ストレスがメラニン生成に影響を与える可能性がある

予防の方法

日光暴露の制限

• 日中の外出を控える
• 日陰を利用する
• 帽子や長袖衣服を着用する

日焼け止めの使用

• 日常の生活では、SPF30程度・PA(++)、長時間戸外にいる場合は、SPF50以上・PA(+++)の日焼け止めを使用
• 2〜3時間ごと、こまめに塗り直す

スキンケア

• 保湿を十分に行い、皮膚のバリア機能を維持する
• 刺激の少ない洗顔料を使用する
• 皮膚をこすらないよう注意する

健康的な生活習慣

• バランスの取れた食事
• 十分な睡眠
• 適度な運動
• ストレス管理

内科的管理

• 内分泌疾患や代謝異常がある場合、適切な管理を行う

サプリメント摂取

• 抗酸化作用のあるビタミンCやミネラルなどを積極的に摂取する

禁煙

• 喫煙は酸化ストレスを増加させ、色素沈着のリスクを高める可能性があるため

アルコール摂取の制限

• 過度のアルコール摂取は肝機能に影響を与え、間接的に色素沈着のリスクを高める可能性がある

日常生活に予防法を取り入れることで、色素沈着のリスクを軽減できます。特に、日光暴露の制限と適切な日焼け止めの使用は、効果的な予防策です。すでに色素沈着がある場合でも、予防法を実践することで、症状の悪化を防ぎ、新たな色素沈着の発生を予防できます。